チベット侵略鉄道 A・ラストガーテン 集英社
北京オリンピック前のチベット騒乱は起こるべくして起こったという感じだった。その予兆を抱かせたのは、青海ーチベット鉄道の開通である。チベットの鉱産物の開発と対インドを始めとする軍事的要塞の充実が、この鉄道建設の目的だと思われるが、チベット人の自治をないがしろにしたまさに帝国主義的な統治であり、民族・宗教のアイデンティティーを無視した暴挙といわねばならない。開通によって漢民族の資本主義的価値観・風俗がチベットを席巻し、まさに植民地統治を思わせる状況が現出した。NHKがこれを取り上げ、漢人のホテル経営者が、現地の若者を酷使する姿を写していた。また、宿泊客のために仏教寺院の僧侶にホテルでお経を唱えさせるアトラクションを見せられるに及んで、これは何ぼなんでもやりすぎだと怒りが湧いてきた。これは漢人が以前西欧列強にやられたことを、自身がチベット人にやっている事で、中国共産党の面目はどこへ行ったのか。誠に悲しいことである。
本書は1970年代からあった、この鉄道計画を追うことによって、中国のチベット侵略の実態を分かりやすく描いている。永久凍土層に線路を敷設すると、その熱で氷が解けて重大な事故を招く可能性を指摘しているが、その問題を全面解決した上で開通したわけではない。よって事故のリスクは非常に高い。鉄道の開通で人民軍兵士はいとも簡単にラサへ駐屯できるようになったが、このままではチベット人の民族自決の機運は治まらない。胡錦濤国家主席はチベット自治区の書記を卒なくこなして出世したが、統治の実態は誠に厳しいものであった。一見すると、漫才師のサンキューに似たとぼけた顔で、相手をほっとさせるが、こういう人間こそ返って怖いのだ。エベレストにどうやって列車を入れたんでしょう。ほんとうに。