読書日記

いろいろな本のレビュー

「規制改革」を利権にした男宮内義彦 有森隆 講談社文庫

2009-05-16 08:18:55 | Weblog
 オリックス会長・宮内義彦の悪業が天下に露見したのは、日本郵政が所有する「かんぽの宿」を格安の価格でオリックス不動産が購入する計画が、鳩山邦夫総務大臣によって待ったをかけられた事件によってである。日本郵政社長と宮内はもと総務相の竹中平蔵を介しての友人で、この一括譲渡契約は出来レースだと鳩山総務相は批判した。悪代官風の鳩山が声高に、改革利権の臭いを批判したものだから余計に世間の注目を浴びた。本書は竹中平蔵とともに小泉構造改革の旗振り役を務めた、宮内義彦の「改革利権商法」を暴いたものだ。
 小泉内閣の構造改革はアメリカの外圧によって実行されたという側面を正しく理解しておく必要がある。アメリカの貿易赤字を減らすために日本も多いなる貢献をせよという脅迫にイエスといったわけだ。このとき反対したのが石原慎太郎で、ソニーの井深大会長と「ノーと言える日本」という本を出して、政府の弱腰を批判したのは記憶に新しいところだ。この外圧をグローバリゼイションと言い換えて、郵政民営化をはじめとして多くの規制のをし、アメリカの日本蚕食に手を貸したのが、構造改革派である。ところが小泉退陣後、この改革によって経済格差が広がり、まさにミニアメリカの状態になるに及んで、改革派に対する風当たりが急に強くなった。中谷巌などは「あれは間違いだった」という自己批判の書を出して、これがベストセラーになるという状況になっている。竹中平蔵は相変らず「まだまだ改革が足りない。規制が多すぎる」と強気の発言を繰り返しているが、昔日の勢いはない。
 蓋し、人間が生きていくうえで、人様に後ろ指を指されるなとはよくいわれることである。最低限のモラルを守る事が、人間の品格を決定するのだ。大江健三郎のよく言う「ディセンシー」である。また何かの拍子で権力を握った場合でも、行使する場合は最新の注意が肝心だ。「李下に冠を正さず。瓜田に靴を入れず。」の心を忘れるべきではない。宮内の所業はこの心を忘れたが故の結果である。著者も言う通り、一刻も早く退陣すべきだ。このままでは晩節を汚すことは必定。恥を忘れた人間に救いはない。

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