格差はつくられた ポール・クルーグマン 早川書房
アメリカ国民の経済格差は今大きな話題になっている。サブプライムローンの破綻で世界経済に大きな悪影響を与えたのはご承知の通り。貧困層を相手にあくどい商売をやっている状況が白日のもとに晒されたのである。その反面金儲けに成功した連中は安い税金しか納めておらず、ますますわが世の春を謳歌している。著者によると、戦後の比較的平等な中流社会は夢と消えてしまった。これは何も市場経済のなせる業ではなく、レーガン大統領以降の共和党の「保守派ムーブメント」が金持ち優遇税制や、貧困層から福祉を取り上げることによって作り上げたものだという。とりわけ問題になるのは、先進国では珍しい国民皆保険の欠如だ。高額医療の実態は保険業界と製薬業界、それに医師会がつるんで保険に入る余裕の無い貧困層に医療を受けさせない状況を作っている。共和党は保守派(ネオコン)と組んでアメリカ建国以来の十字架である人種差別を暗に陽に煽って、脅迫的な手法で国民の支持を集めてきたが、そのやり口もだんだん通用しなくなっている。民主主義・多数決の国で国民平等の理念が生かされていないのは何とも皮肉だ。優勝劣敗の競争社会の面だけが強調されると、平等という理念は共産主義に転化するという恐怖感から自由でなくなる面があるのかもしれないが、それにしてもひどい。
アメリカでは会社の社長の給料が以前に比べて社員よりも格段に高くなっているが、これも80年代の組合つぶしの結果だ。才能と実力あるものが冨を独占してどこが悪いという考え方が市民権を得て、これが世界にひろがりつつある。金儲けしてどこが悪いという言説は最近の日本でも有名になった。その主人公はいま後ろに手が回って、後悔と反省の日々を過ごしている。(ホンマかいな)
かつて民主党のクリントン時代に国民皆保険が図られたが、失敗した。今度の大統領選でオバマが勝利できるかどうか。道義なき保守派を一掃して真の民主主義国家に生まれ変われるかどうかが焦点となる。