読書日記

いろいろな本のレビュー

親鸞 五木寛之 講談社

2010-06-06 14:07:46 | Weblog
 仏教に造詣の深い五木寛之の親鸞伝。少年から青年時代、親鸞と名乗るまでを描く。親鸞は少年時代から比叡山延暦寺で修業し、後に法然の影響を受け、浄土真宗を開く。他力本願、悪人正機説、肉食妻帯など、旧来の仏教とは違うアプローチで民衆の支持を得た。今も門徒の勢力は大きい。鎌倉時代はこのように新仏教の流派が沢山生まれた時代である。悟りを開くための方法論が多く試された。女人禁制で難行苦行を重ねて、悟りが開けるかという本質的な問いかけに対する著者の答えが、この小説だ。「青春の門」の鎌倉篇という感じで、大変読みやすい。南無阿弥陀仏と唱えることで、極楽浄土というわかりやすい教えをそのまま小説にしたものと思う。見事な作為である。
 聖職者が肉欲にどう対処するか、これは大きな問題だが、このテーマに対する思索がこの小説を生んだと言えよう。青年親鸞の女人に対するあこがれと欲望、それを旧仏教の教えによってストイックに回避しようとするけなげさに読者は共感を覚えるに違いない。女人禁制は宗教者であることの絶対条件なのか。この二律背反を止揚する者はということで探したところに法然が、親鸞がいたのである。妻帯しても悟りは開けるというのは、旧仏教の思想からは生まれにくい。まさに目から鱗の考え方である。仏典の研究、厳しい修行などは悟りにいたる手段だが、それが自己目的化すると逆に仏との縁が薄れることもある。そのアンチ・テ―ゼとして新仏教が登場した。仏の縁は向こうからやって来るのであって、こちらの都合で来るのではない。これが他力本願の意味だ。それが来るまで南無阿弥陀仏と唱えるのみなのだ。次は日蓮を書いてもらいたい。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。