読書日記

いろいろな本のレビュー

A3  森達也  集英社インターナショナル

2011-11-26 10:17:55 | Weblog
 オウム裁判は11月21日終結した。中川智正、遠藤誠一被告は最高裁で死刑判決がでた。サリン事件から16年経過している。著者はオウムのドキュメンタリー、A、A2を製作しオウム事件の核心に迫るべく、教団幹部・団員にインタビュー等を行なってきた。本書はその第3弾というべきものだ。ポイントは①麻原の公判はなぜ打ち切られたのか。②サリンの散布を麻原が指示したのかどうかである。①について、麻原は公判途中で事件について一切喋らなくなり、言動も異常になった。弁護団は精神鑑定を要請したが、裁判所は麻原の故意の戦術と見なし、裁判を打ち切った。これは世間の怒りに迎合した暴挙であると著者は批判する。麻原の履歴を辿り、ゆかりの人々との取材を通じて、彼が極悪非道の人間ではないということを述べている。長年の取材によってオウム真理教に対するシンパシーが表れていることは否めない。それは②において顕著に出ている。サリン散布は麻原を取り巻く幹部の暴走で、麻原は直接指示しなかったのではないかという記述である。真相の究明はもはや無理で元幹部の証言に頼らざるを得ないが、彼等は麻原の指示について明言していない。したがってオウムとは何だったかという教団の全貌を窺うことは不可能になった。
 折しも本書は「講談社ノンフイクション賞」を受賞したが、教団の問題に取り組んできた弁護士らが、授与すべきでないとして講談社に抗議したことが新聞で報道された。抗議書で弁護士らは、一連の事件は「弟子の暴走」で麻原は首謀者ではないと著者が論じた論じた点を問題視したと批判している。この抗議に対して著者は「本を読んだとは思えない。精読してもらったうえで、論じ合いたい」とコメントを出したと報じている。私は精読したつもりだが、ことほど左様に誤解されても仕方のない微妙な記述だったということである。
 著者は幹部連中は性格の優しい人が多かったと言うが、それと犯した犯罪の凶暴性とはまた別の話である。長期間の取材でオウム側に取り込まれたと批判されても仕方のないところがある。そのシンパシーが権力によるカルト教団解体に迎合する民衆の集団ヒステリーを逆照射する仕掛けになっていることは否めない。しかしサリンの後遺症で未だに苦しむ被害者の苦悩・無念を思うと、断罪の時期をこれ以上遅らせることはできないだろう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。