読書日記

いろいろな本のレビュー

毛沢東の大飢饉  フランク・ディケーター  草思社

2011-12-04 22:58:52 | Weblog
 中国を後進経済国家から近代的共産主義社会へと一気に転換させるため、毛沢東は1958年、大躍進運動を発動した。しかしそれは1年で破綻し、その年から1962年までの間、中国は大規模な飢饉に見舞われた。餓死者は4500万人にのぼると推計され、同時期に250万人の人々が拷問・処刑死したという。今までの類書では後者の死者の問題は触れられていなかったと思われるが、人民公社等で運動を監視する機関が設置され、運動の主体である農民を弾圧した様子がつぶさに描かれており、胸が痛む。本書が新機軸を出せたのは、5年をかけて機密指示が解除された党公文書館(档案館)の資料を精査して書かれたからである。中国共産党が機密文書を公開するとは驚きだが、情報公開の流れに呼応したのだろうか。
 大躍進運動は毛沢東の指導のもと、工業と農業の「二本足で歩く」道を模索したものだ。これを担うのは農民で、彼らは巨大コミューン(人民公社)に組み込まれ、すべてが集団化された。これによって党の農民に対する統制が容易になり、農民は公社の幹部によって生殺与奪の権力を握られることになり、大量餓死の原因になった。一方、工業では鉄生産が奨励され、農村に土法高炉(小型溶鉱炉)が作られ、ヤカンや鍋や道具類が放り込まれた。しかし、これでは粗野で品質の悪い鉄しか生産できずまったく役に立たなかった。
 破綻は一年でやって来たが、毛はその非を認めず共産党幹部の権力闘争に発展し、結局毛に逆らう者は粛清されて運動はその後も続くことになった。党のノルマを果たすために農産物の生産量をごまかして水増しして報告する地方幹部、その過程で農民を監視して過酷な労働に駆り立て、大量の処刑者・餓死者を出すことになった。このようにパラノイアの独裁者に支配された共産党の官僚主義の暗部が余すところなく描かれている。もはやこの運動を自然災害として片づけることはできないだろう。格差問題で揺れる中で、現中国共産党はこの歴史的事実をどう総括するのか。毛沢東の評価はどうするのか。フルシチョフによるスターリン批判のようなものが出てくるのかどうか。重大な岐路に立たされていることは間違いない。

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