東京・台東借地借家人組合1

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【判例】 土地明渡請求事件 (東京高裁平成23年12月21日判決)

2012年02月09日 | 土地明渡(借地)

判例

平成23年12月21日判決言渡

平成23年(ネ)第5187号建物収去土地明渡請求事件(原審・東京地方裁判所平成22年(ワ)第31274号)

 

 

                    主      文

 1 本件控訴を棄却する。

 2 訴訟費用は控訴人の負担とする。

 

                    事実及び理由

第1 当事者の求めた裁判
  1 原判決を取り消す。

  2 被控訴人は、控訴人に対し、原判決別紙物件目録記載2の建物(木造瓦葺2階建、1階34.54㎡・2階14.87㎡)を収去して同目録記載1の土地(宅地・42.075㎡)を明け渡せ。

  3 被控訴人(賃借人)は、控訴人(賃貸人)に対し、平成22年9月12日から前項の土地の明渡済みまで1か月金2万5500円の割による金員を支払え。

第2 事案の概要
  1 本件は、控訴人が、建物所有目的で被控訴人に賃貸している控訴人所有土地につき、 被控訴人の無断増改築禁止特約違反を理由に賃貸借契約を解除したとして、被控訴人に対し、賃貸借契約の終了に基づき、地上建物の収去土地明渡しを求めた事案である。

  2 原判決は、控訴人の請求を棄却したので、控訴人が控訴をして、上記第1のとおりの判決を求めた。

 
 1 請求原因
  (1) A(賃貸人)は、B(賃借人)に対し、昭和47年9月13日、目的を普通建物所有とし、賃借人が建物を改築又は増築するときは賃貸人の承諾を要するとの特約(無断増改築禁止特約)を付して別紙物件目録記載1の土地(以下「本件土地」という。)を賃貸し、そのころ、引き渡した。

  (2) 原告は、昭和55年9月9日、Aから、本件土地の賃貸人たる地位を相続した。

  (3) 被告は、昭和59年7月25日、Bから、本件と地上の別紙物件目録記載2の建物(以下「本件建物」という。)を買い受け、現在まで所有している。

  (4) 原告(控訴人)は、被告(被控訴人)に対し、昭和59年7月25日、普通建物所有目的、賃料月額6758円との約定で本件土地を賃貸し、その頃、引き渡したが、同契約にも、無断増改築禁止特約が付されていた(以下、原告・被告間の本件と地に係る賃貸借契約を「本件賃貸借契約」という。)。

 仮に、原告と被告との間で賃貸借契約を締結した事実が認められないとしても、本件建物をBから譲り受けた際、本件土地の賃借人の地位も併せて譲り受け、その権利義務を承継した。

  (5) 被告は、平成19年2月頃、本件建物の外壁を取り替え、ベランダを新設するなどの増改築工事をした。

  (6) 原告は、被告に対し、平成19年6月9日、無断増改築禁止特約違反等の債務不履行により本件賃貸借契約を解除との意思表示をした。

  (7) 本件土地の使用損害金は、1か月当たり2万5500円(1坪当たり2000円)を下回らない。

  (8) よって、原告は、被告に対し、本件賃貸借契約締結の終了に基づき、本件建物の収去及び本件土地の明渡しを求めるとともに、契約終了の後である平成22年9月12日から本件土地の明渡済みまで1か月2万5500円の割合による使用損害金の支払を求める。


 2 請求原因に対する否認
  (1) 請求原因(1)ないし同(3)は認める。

  (2) 同(4)のうち、被告(被控訴人)が、原告(控訴人)から、本件土地を賃借したことは認めるが、無断増改築禁止特約の定めがあったことは否認する。その余の契約内容については記憶していない。被告がBから賃借人の地位を譲り受け、その権利義務を承継したとの主張は争う。

  (3) 同(5)のうち、被告が外壁及びベランダの工事を実施したことは認めるが、その時期・内容は以下のとおりである。

     被告は、本件建物の外観及び使用上の便宜を改善するため、平成10年頃に外壁にサイディングボードを貼り付け、平成13年頃に既存の木製ベランダをアルミ製に替えたが、これらは躯体変更を伴わない補修改良工事であるから増改築に当たらない。

  (4) 同(6)は認め、その効果は争う。

  (5) 同(7)は争う。


 3 抗弁 (信頼関係不破壊)
   被告が平成13年ころまでに美観改善等の目的でした補修工事により本件建物の存続期間が伸張されたとはいえない上、原告は近隣に住みながら10年近く異議を述べなかったから、信頼関係破壊と認めるに足りない事情がある。なお、被告は、原告からの更新料の支払い請求を拒絶したが、そもそも更新料の支払義務がないから、信頼関係破壊を認める事情とはならない。


 4 抗弁に対する認否
   否認し争う。

   被告は、平成19年2月ころ、朽廃状態にあった本件建物に新築にも等しい増改築をしてその存続期間を著しく伸張させた。また、被告は、原告が平成16年7月ころまでに1坪当たり15万円の更新料を請求したにもかかわらず、近隣の原告所有地の他の借地人らと異なり更新料の支払を拒否した。したがって、被告と原告との信頼関係は破壊されている。


第3 当裁判所の判断

 1 請求原因(無断増改築禁止特約違反に基づく債務不履行解除)について
  (1) 請求原因(1)ないし同(3)は当事者間に争いがない。

  (2) 証拠(甲13、乙3)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(4)の事実のうち、原告(控訴人)と被告(被控訴人)との間で昭和59年7月25日、本件土地の賃貸借契約が締結され、その頃引渡された事実が認められる。

  (3) 請求原因(4)の事実のうち、無断増改築禁止特約の存否について検討するに、同特約を定めた契約書は証拠として提出されていない。

 しかし、後記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、AはBに本件土地を賃貸する際、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を使用したこと(甲3)、A及びその相続人である原告は、本件土地以外の土地の借地人との間でも、それぞれ昭和51年と平成元年に、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を用いて土地賃貸借契約を締結していたこと(甲4の1、4の2)、原告本人は本件賃貸借契約締結時に同様の契約書を作成した旨陳述し(甲13)、被告本人は契約締結自体を認めつつ契約書を作成したか覚えていないと陳述するにとどまること(乙3)などを総合すると、原告と被告との間で、無断増改築禁止特約が印刷された市販の契約書を利用して本件賃貸借契約を締結し同特約を定めたものと認めることができる。

  (4) 請求原因(5) (無断増改築禁止特約違反の有無)について検討するに、証拠(後記のほか、甲5に1、5の2、12の11、ないし12の14、乙2、3、)及び弁論の全趣旨によれば、①本件建物は昭和22年ころに建築された木造瓦葺2階建ての建物であること(甲2の1ないし2の3)、②被告が、平成10年5月ころ、本件建物の外壁全体にサイディングボードを貼り付けたこと(乙1。以下「本件外壁工事」という。)、③被告が、平成13年ころ、本件建物玄関上側にアルミ製ベランダを取り付けたこと(以下「本件ベランダ工事」といい、本件外壁工事と併せて「本件各工事ともいう。)は認められる。原告本人は、被告が平成19年2月ころに外壁の取替え及びベランダの新設を含む増改築工事をしたとの陳述書(甲13)を提出するが、工事時期及び内容を裏付ける客観的証拠はなく、被告本人が古くなった既存の木製ベランダをアルミ製に取り替えたに過ぎないと陳述していること(乙3)などに照らし、上記認定を左右しない。

 また、無断増改築禁止特約は、借地人が目的の範囲内で借地上の所有建物を保存改良する自由を制限するものであり、具体的な根拠がないにもかかわらず、同特約を「増築又は改築」以外の大修繕等に拡大解釈することは許されないというべきである。本件各工事は、上記方法・程度に照らせば、比較的大規模な修繕改良工事とはいえるとしても直ちに増築(床面積の増加)とも改築(建替え・建直し)とも認めらず、無断増改築禁止特約違反自体を認めるに足りない。

  (5) したがって、その余について判断するまでもなく、請求原因には理由がないことになる。


 2 抗弁 (信頼関係不破壊)について
  (1) なお、念のため、仮に本件各工事が特約にいう増改築にあたるとした場合の抗弁の成否についても検討する。無断増改築がされた場合でも、借地人の土地の通常の利用上相当であり、賃貸人に著しい影響を及ぼさないなど、賃貸人に対する信頼関係を破壊するおそれがあると認めるに足りないときは、賃貸人が無断増改築禁止特約に基づき解除権を行使することは許されないと解される(最高裁昭和41年4月21日判決・民集20巻4号720頁参照)。

  (2) 前記のとおり、本件各工事は、外壁にサイディングボードを貼り付け、ベランダをアルミ製化するもので、本件建物の美観のみならずその効用を維持改善するものとはいえるが、本件建物の躯体自体に変更を加えるものではなく、本件建物の耐用年数への影響の有無・程度を認めるに足りる証拠もなく、借地人の土地の通常の利用上相当の範囲を超えるものではないと認められる。これに加え、本件各工事が平成19年2月ころまで問題とされなかったことも考慮に入れると、本件各工事がされたことによっても信頼関係が破壊されたとは認められないというべきである(もっとも、本件各工事が実施されたのが、原告(控訴人)主張のとおり、平成19年2月に接近した時期であったと仮定しても、上でみた本件各工事の内容に鑑みれば、上記結論を左右しないというべきである。)。

  (3) これに対し、原告は、本件建物は本件各工事がなければ朽廃状態にあったと主張する。確かに、本件建物に隣接し、ほぼ同時期に建設された隣接については、平成10年12月当時、既に相当程度老朽化した状態にあったことがうかがえる(甲9の1・2、甲10、11)。しかし、建物の耐用年数は管理・保存の状況等によって相当程度異なり得るところであり、隣接建物についても、平成10年12月の時点で、敷地の地代が支払われていないなど、管理が相当期間おろそかにされていた状況がうかがえる(甲11)ことに加え、その老朽化の程度が顕著であることを示す甲12の1から12の10までの写真にしても、平成22年9月時点のものであり、平成10年12月から更に長期間放置された後の状況を表しているにすぎない(隣接建物敷地の賃貸借契約は、平成11年3月に合意解除され、同建物は、地主である控訴人において速やかに解体撤去するものとされている(甲11)。したがって、被告(被控訴人)らが居住し、通常の使用を続ける本件建物(乙3、弁論の全趣旨)について、本格工事を実施しなかった場合、隣接建物と同様の老朽化・朽廃状態に至っていたなどといえるものではない。

 また、原告の主張どおり、被告が原告から本件賃貸借契約の更新時期である平成16年7月ころまでに更新料の請求を受けながらその支払を拒絶したことは認められる(甲13、乙3)。しかし、本件全証拠によるも、本件賃貸借契約上の更新料支払義務を根拠づける原告と被告との間の合意又は事実たる慣習を認めるに足りず、更新料の支払拒絶は信頼関係破壊を基礎づける事情とならない。その他原告の主張は上記認定を左右するものではない。

  (4) したがって、仮に本件各工事を特約所定の増改築とみる余地があるとしても抗弁が成立し、いずれにしろ無断増改築禁止特約違反を理由とする本件賃貸借契約の解除には理由がない。


第4 結論
    よって、控訴人の請求を棄却した原判決は正当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。


                        東京高等裁判所第23民事部

                裁判長裁判官      鈴木 健太

                     裁判官      吉田  徹

                     裁判官      中村 さとみ

 

 

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