東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【Q&A】 火災の損害賠償を請求されたが支払う必要があるのか 

2005年06月24日 | 借家の諸問題

  (問) アパート2階の一室を賃借していた。台所で食事の準備中に鍋の油に火が入り、部屋の一部が焼けてしまった。その時の消火の放水で1階が水浸しになり、家財道具に被害が発生した。家主・アパート居住者から損害賠償を請求されているが、支払う必要はあるのか。


  (答) 一般的には故意・過失によって他人の権利を侵害した場合には、不法行為による損害賠償の責任を負う(民法709条)。しかし、失火の場合は、重過失がない限り民法709条の規定は適用されず、民事上の損害賠償の責任を負わない(失火ノ責任ニ関スル法律(註))。

(註) 「民法709条ノ規定ハ失火ノ場合ニ適用セス但シ失火者ニ重大ナ過失アリタルトキハ此ノ限リニアラス」(「失火ノ責任ニ関スル法律」)。

 最高裁昭和32年7月9日判決重過失を次のように定義している。「通常人に要求される程度の相当な注意をしないでも、わずかの注意さえすれば、たやすく違法有害な結果を予見することができた場合であるのに、漫然これを見過ごしたような、ほとんど故意に近い著しい注意欠如の状態を指すものと解するを相当とする」

(1) どのような事例が重過失になるのか。

重過失とされた裁判事例としては、
① 炊事場で夕食の支度をしていた主婦が、点火中のガスコンロに油の入った鍋をかけたまま、来客の応対をするために、その場を離れた間に、ガスコンロの火が鍋の中の油に引火し、火災が発生した事例 (東京地裁 昭和57年3月29日判決)。

② 石油ストーブに給油する際、石油ストーブの火を消さずに給油したため、石油ストーブの火がこぼれた石油に着火して火災が発生した事例 (東京高裁 平成15年8月27日判決)。

③ 寝たばこの火災の危険性を十分認識しながら、何ら対応策を講じないまま、喫煙を続けて火災を起こした事例 (東京地裁 平成2年10月29日判決)。

 民法では、賃借人は賃借している建物をその建物の用方に従って、また善良なる管理者の注意をもって使用する義務を負っている(民法616条・400条)。これを借家人の「用方遵守義務」といい、建物を失火によって焼損させることも用方遵守義務違反で債務不履行になる(最高裁 昭和47年2月18日判決、民集26巻1号63頁)。 (*)平成16年の民法改正、用語の現代語化で「用方」→「用法」

 失火責任法は民法709条の適用を排除しているだけで、契約関係に基づく債務不履行には適用がない。賃借人は失火の場合、重過失がなくても過失があれば、賃貸人に対して用方遵守義務違反として債務不履行による損害賠償責任を負う(最高裁 昭和30年3月25日判決、民集9巻3号385頁)。

 (2) 家主(賃貸人)が蒙った火災の損害どの程度、賠償しなければならないか。

 下級審の判例の多数に従うと、アパート等の「共同住宅の部屋の賃貸借において、当該賃借部屋、廊下等の部分、その他の階下の部分に対する損害についても賠償をなすべき義務がある」(東京高裁 昭和40年2月18日判決)として延焼部分の損害についても賠償責任を負うとされている。また賃貸人は損害賠償の請求に消火活動によって蒙った損害も含めることが出来るとされている。

 家主賃貸人)の損害賠償請求を拒絶するには質問者の無過失の立証責任が必要である。
質問者は食事の準備中に火を消さずに現場を離れ、油が加熱され、油に引火して火災が発生した場合は上記①の判例から重大過失になる。この場合はアパートの居住者に対する損害賠償は発生する。

 火を使っている最中に台所から離れていなければ、食事の準備中に鍋の油に火が入り、火災になった場合は重過失にはならない。しかし、無過失の立証が出来ない場合は家主に対する損害賠償責任は免れられない

 過失で火災になった場合は、火元の賃借人とアパートの居住者とは契約関係のない第三者であるから、そこでは不法行為による損害賠償の責任(民法709条)は「失火ノ責任ニ関スル法律」の規定が適用される。アパートの居住者に対しては損害賠償の責任を負わない。

 結論、賃借人の失火が重大な過失でなければ隣近所に対して賠償責任は負わないが、過失で火災になった場合は債務不履行行為があるので、家主(賃貸人)に対しては賠償責任が発生する。

 

 なお、火災等で莫大な損害賠償請求に泣かないためにも、借家や賃貸アパート・マンションに住むときには火災保険・借家人賠償責任担保(特約)を付けた火災保険に入ることを推奨する。

 借家人賠償責任担保(特約)は借家や賃貸アパートに入居している人のための火災保険の特約である。借家人賠償責任担保特約は、火災、破裂・爆発、漏水等によって借家や賃貸アパートが損壊し、賃借人が賃貸人に対して法律上の賠償責任を負った場合、その損害を補償する特約である。また、隣家の失火により借家が類焼した場合にも、原状回復が出来ない状態(債務不履行)なので、それをカバーする特約でもある。

 賃借人の故意・重過失による損害の場合は、賃貸人が加入している保険会社が保険金を既に賃貸人に支払っている場合、保険会社から賃借人は保険代位による損害賠償請求を受ける可能性がある。但し、軽過失による損害の場合は「代位求償権不行使条項」により保険会社は賃借人に対する求償権を行使しないことになっている。

 お勧めの火災保険・借家人賠償責任担保(特約)は、例えば、火災共済・借家人賠償責任特約である。

 

東京・台東借地借家人組合

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