東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【借地借家 豆知識】 地代・家賃の供託について

2012年02月06日 | 弁済供託

 借地・借家の場合、賃料を払いたいけれど、相手が受け取ってくれないというこということは珍しくありません。

 例えば、家主が賃料を6万円から5000円値上げしたとします。借主が「高すぎる」といって認めなければ問題となります。借主としては2000円加算した6万2000円の賃料で支払に行くと、家主は「話が決まってからでいい」といって受け取ってくれません。

 このような場合には、借主は賃料を供託すると賃料不払になりません。供託しておけば、家主との話合いはいくら長引いても心配はありません。供託とというのは、借地・借家に限らず、相手がお金など弁済の目的物を受け取ってくれない場合に、法務局にその目的物を預ける手続きです。

 実際供託する額は、家主に従来の額に2000円を加算した6万2000円を供託しておきましょう。供託の原因欄には、「賃料の増額請求があり、あらかじめ賃料の受領を拒否され目下係争中」と記載します。

 しかし、家主が6万2000円を内金で受け取るといった場合は判例では「特段事情のない以上、賃料の全額の弁済として提供されるのであればその受領を拒絶する趣旨を含むものと解することができる」として、受領拒否と認めています(註)。供託することも可能ですが、6万2000そ円で支払っておくこともできます。その際は、念のため家主に対して、支払った賃料は賃料全額であることを意思表示しておきましょう。この意思表示は内容証明郵便で出しておきましょう。

 なお受領書に「内金として」と記載されても、それだけでは賃料増額を認めたことにはなりません。

 

東京借地借家人新聞より


 ここからの文章は東京・台東借地借家人組合。

 借地借家法第32条2項は、「建物の借賃の増額について当事者間に協議が調わないときは、その請求を受けた者は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物の借賃を支払うことをもって足りる。ただし、その裁判が確定した場合において、既に支払った額に不足があるときは、その不足額に年1割の割合による支払期後の利息を付してこれを支払わなければならない」と規定している。

 借家人が相当と思う賃料を支払えば、債務不履行として取り扱わないと規定している。賃料が著しく低額で税金以下ということを本人が知っていたという事例は判例上、債務不履行になる(最高裁 平成8年7月12日判決)が、そうでなければ通常は現行賃料を支払っていれば充分である。値上げを言われたからといって、迎合して何も自分の方から賃料を増額して支払う必要はない。

 例えば、月額数1000万円という高額の家賃の場合であれば、万が一、裁判で増額が認められた場合は年10%の支払利息は可なり大変であるが、そうでなければ、裁判が確定してから支払っても遅くないし、それで充分である。また、賃料の増額請求権は5年で消滅時効になるので、5年間の差額を考慮すれば足りるのであるから、先走って現行賃料に自ら加算して支払う必要などない。

(註) 「家主が、家賃の弁済の提供を受けた際、内金としての受領する旨述べたことは、特段の事情のない以上、家賃の全額の弁済として提供されるのであればその受理を拒絶する趣旨を含むものと解すべきである。したがって、家主は、借家人が債務の本旨に従った弁済の提供に対し、その受領を拒絶し、その後も受領しない意思を示したものいわなければならない」(東京高裁昭和61(1986)年1月29日判決、判例時報1183号88頁)。

 この東京高裁昭和61(1986)年1月29日判決に対し、東借連常任弁護団の見解は、「賃料の増額請求がされた場合、賃借人が相当賃料として従前額を提供し、賃貸人がこれを賃料の内金として受領しようとする事例が多い。この場合の賃貸人の態度が受領拒絶に当たるかが問題となる。最高裁昭和50年4月8日判決は、受領拒否に当たらないとする。本件判決は、右最高裁判決と相反するものであるが本件では家主の増額請求に相当無理な点があるという特殊なケースであり、われわれとしては、安易に本判決の理屈付けを利用せず、従来どおり支払った上、賃料全額であることを通告する方式を堅持していきたい。」ということで、供託を認める判例があることに寄り縋り、安易に供託することを諌める。

 賃料の一部として受取る・内金として受取る・と賃貸人が言っているにも拘らず、賃料を持ち帰って、供託をすると賃料不払(債務不履行)で契約を解除される恐れがある。賃料の一部としての内金の受取りを民法494条の受領拒否に当たらないという最高裁判決が変更されない限り、供託は危険である。

 殊に、借地の場合、組合の誤った指導から、無効の供託による債務不履行を理由とする契約解除による建物収去・土地明渡請求訴訟で、敗訴した場合の借地人の財産的損害は莫大である。取返しがつかないことになるので、注意しなければならない。 

  
関連記事
判例紹介】 家賃の一部(内金)として受領する旨の回答が受領拒絶に当たるとされた事例

【Q&A】 賃料を内金として受領すると言われた場合どうするか 

 

 

東京・台東借地借家人組合

無料電話相談は 050-3656-8224 (IP電話)
受付は月曜日~金曜日 (午前10時~午後4時)
土曜日日曜日・祝祭日は休止 )
尚、無料電話相談は原則1回のみとさせて頂きます。