東京・台東借地借家人組合1

土地・建物を借りている賃借人の居住と営業の権利を守るために、自主的に組織された借地借家人のための組合です。

【判例】未払いNHK受信料、5年の短期消滅時効が適用される(旭川地裁平成24年1月31日判決)(2)

2012年03月01日 | 民法・借地借家法・裁判・判例

3 争点

 (1) 本件受信契約の無効

 (2) 本件受信契約の解約による終了

 (3) 消滅時効の成否

4 争点に関する各当事者の主張

 (1) 本件受信契約の無効(争点(1))

 (控訴人の主張)

  ア 民法1条2項,旧法1条[新法1条],憲法21条及び国民主権原理違反旧法32条1項(新法64条1項)は「協会(日本放送協会)の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は,協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。」と規定している。同規定は,そもそも知る権利の侵害であり,憲法21条に反する上,上記規定が,放送法に基づき締結される受信契約は,私法上の契約であっても,被控訴人は放送事業の顧客である受信設備を設置した者(視聴者)に対して一切の債務を負わないという意味であれば,契約当事者間の信義則(民法1条2項)に反し,ひいては,放送法の基本理念たる放送の最大限普及,放送による表現の自由の確保,放送の民主主義への貢献(旧法1条[新法1条])に反し,憲法21条及び国民主権原理に反する。

  イ 憲法19条違反

  旧法32条1項(新法64条1項)は,受信設備を設置した者に被控訴人との契約締結を強制することを意味するから,憲法19条に違反する。

 (被控訴人の主張)

  ア 民法1条2項,旧法1条[新法1条],憲法21条及び国民主権原理違反について旧法32条(新法64条)及び規約9条は,受信契約の締結及び被控訴人の放送を受信できる受信機を廃止しない間の受信料の支払を義務付けるだけであって,受信料の支払義務は,控訴人が,被控訴人の放送を視聴したか否かにかかわらず生じるものである。被控訴人が放送する番組の視聴を強制するものではないし,一般放送事業者が放送する番組の視聴を禁止するものでもない(東京高裁平成22年6月29日判決[甲5])。 また,旧法32条1項(新法64条1項)の規定は同法1条の目的・原則を達成するための体制の一端として定められたものであって,もとより民主主義に資するものとして合理性を有している。

  したがって,控訴人の主張は失当である。

  イ 憲法19条違反について

憲法19条で保障される内心とは,特定の歴史観,世界観等の人格形成に関わる内心を指すものであって,放送法で定められた受信料の支払を回避したい,受信契約の締結を回避したい等の内心がこれに含まれないことは明らかである(前掲東京高裁平成22年6月29日判決・その上告審である最高裁第三小法廷上告棄却及び上告不受理決定[甲6]参照)。また,控訴人には,受信設備を設置しないことによって,受信契約を締結しない自由があるところ,控訴人はその自由な意思に基づいて受信契約を締結したものである。

  したがって,控訴人の主張は失当である。

 (2) 本件受信契約の解約による終了(争点(2))

 (控訴人の主張)

  ア 受信契約の内容は,被控訴人が提供する放送を受信する対価として受信料を支払うというものであり,この内容について,被控訴人と消費者(受信設備設置者)間の合意が認められる。また,受信設備を設置するか否かは消費者の自由意思に任されており,解約も一定の要件を満たすことで可能とされていることも考え合わせれば,控訴人との受信契約は,当事者双方の合意によって成立する契約であることが確認される。したがって,受信契約には,消費者契約法の適用がある。

  イ 平成20年改正前の規約9条は「放送受信契約者が受信機を廃止することにより,放送受信契約を要しないこととなったときは,放送受信章を添えて,直ちに,その旨を放送局に届け出なければならない。」と規定している。同規定は,受信契約の解約の方法を著しく制限し,消費者の利益を一方的に害する条項であるから,消費者契約法10条に反し無効である。

  そして,控訴人は,被控訴人に対し,平成16年2月ころ,受信契約の解約の意思表示を行ったから,本件受信契約は終了している。

 (被控訴人の主張)

 消費者契約法11条2項は,個別法が消費者契約法に優先して適用されることを規定しており,その趣旨は,民法及び商法以外の個別法の私法規定の中に,消費者契約法の規定に抵触するものがあることを前提として,個別法が当該業種の取引の特性や実情,契約当事者の利益等を踏まえた上で取引の適正化を図る点にある。

 受信契約の締結を義務付ける旧法32条(新法64条)は,放送法の構造と立法趣旨の下に定められたものであって,もとより合理性のある規定であり,かつ,旧法32条(新法64条)と同趣旨の下で定められた規約9条も,あらかじめ総務大臣の認可を受け,一般に周知される等の手続も経たものであって(旧法32条3項[新法64条3項],規約15条),旧法32条(新法64条)及び規約9条が消費者契約法11条2項にいう「民法及び商法以外の他の法律に別段の定めがある」場合に当たる。したがって,旧法32条(新法64条)及び規約9条は,当事者間でこれと異なる合意をすることを禁止する強行規定と解されるものであることからすれば,そもそも,旧法32条(新法64条)及び規約9条と異なる契約を締結することができない場合であって,消費者契約法10条が適用され得る余地はないというべきである(前掲東京高裁平成22年6月29日判決参照。なお,前記諸事情を考慮すれば,旧法32条(新法64条)及び規約9条が,控訴人の主張する消費者契約法10条の「民法1条2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」に当たらない。)。

 (3) 消滅時効の成否(争点(3) )

 (控訴人の主張)

  ア 受信料債権の法的性質について

  受信契約の内容は,被控訴人が提供する放送を受信する対価として受信料を支払うというものであり,他のインターネットの有料動画配信契約等の私法上の契約と同様である。したがって,受信契約は私法上の契約である。

  仮に,行政法上の契約であっても,民法の時効の規定が除外されることにはならず,個別法が時効期間を定め,又は民法の時効の規定を排除するものでない限り,民法の時効の規定が適用される。現に水道契約は,行政法上の契約であるものの,短期消滅時効が適用されている(東京高裁平成13年5月22日判決・判例体系[最高裁平成15年10月10日第二小法廷上告不受理決定]参照)。

  被控訴人は,国又は地方公共団体とは別個の法人格であるから,当然に会計法30条や地方自治法236条は適用されない。また,放送法において,受信料の時効期間について何ら定めておらず,かつ,時効期間を定めていないからといって民法の時効の規定を排除する趣旨であるとは解しがたい。

  以上によれば,消滅時効期間については,一般法たる民法の適用又は準用がされるというべきである。

  イ 消滅時効期間について

  (ア) 本件受信料債権は,民法174条2号の「自己の労力の提供・・・を業とする者の・・・供給した物の代価に係る債権」に当たるから,消滅時効期間は1年である。

  (イ) 本件受信料債権は,民法173条1号の「生産者・・・が売却した・・・商品の代価に係る債権」に当たるから,消滅時効期間は2年である(電気料債権につき大審院昭和12年6月29日判決・民集16巻1014頁,前掲東京高裁平成13年5月22日判決[最高裁平成15年10月10日第二小法廷上告不受理決定]参照)。

  (ウ) 本件受信料債権は,民法173条2号の「自己の技能を用い,注文を受けて,物を製作・・・することを業とする者の仕事に関する債権」に当たるから,消滅時効期間は2年である。

  (エ) 本件受信料債権は,民法169条の「年又はこれより短い時期によって定めた金銭・・・の給付を目的とする債権」(以下「定期給付債権」という。)に当たるから,消滅時効期間は5年である。

  (オ) 被控訴人による放送サービスの提供は「他人のためにする製造・・・に関する行為」(商法502条2号)に当たり営業的商行為である。

   また,被控訴人は商行為をすることを業とする商人(商法4条1項)であり,仮にそうでなくとも公法人が行う商行為については,商法2条が適用される。

   したがって,本件受信料債権は,商法522条の「商行為によって生じた債権」に当たるから,消滅時効期間は5年である。

 (被控訴人の主張)

  ア 受信料債権の法的性質について

  受信料債権は,対価性のない特殊な負担金という法的性質を有するものである。

  イ 消滅時効期間について

 (ア) 民法173条,174条について

  上記のとおりの受信料債権の法的性質からとすると,受信料債権は,労働・商品等の代価を内容とする民法174条2号,同法173条1号及び2号の債権とは法的性質を異にする。また,受信料債権は,文言上も民法174条2号,同法173条1号,同法173条2号のいずれにも当たらない。

 (イ) 民法169条について

  a 民法169条の立法趣旨

  民法169条は,「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権」(定期給付債権)について5年の短期消滅時効を規定する。

  その立法趣旨は,①弁済がないと直ちに債権者に支障が生ずる債権であるから速やかに弁済されるのが通常であること,②通常それほど多額でないため受領証の保存が怠られがちであって後日の弁済の証明が困難であること,③定期金は長年放置された後に突然支払の請求をされると多額になってしまうため債権者の懈怠に対して特に債務者を困窮から保護する必要があることと解されている。

  しかし,受信料債権については,①ないし③の立法趣旨はいずれも当てはまらない。

 b 受信料債権については,民法168条1項所定の基本権たる定期金債権は存在しないから,民法169条は適用されない。

 すなわち,受信機を設置した者が旧法32条1項(新法64条1項)に定める契約締結義務に基づき放送受信契約を締結した場合,当該契約は受信機設置の日から成立し,受信料債権は受信機設置の月から発生するとされるものである。このように受信料債権の発生は受信機の設置の事実に起因するものであって,受信料を定期的に給付することを目的とする基本権たる定期金債権に起因して発生するものではない。

 c 民法168条1項の適用を認めた場合の実質的な不都合性

  そもそも民法168条1項が定期金債権について第1回目の弁済期から20年間での時効消滅を認めたのは,長く続く定期金について最後の弁済期まで時効を進行させないのは,不当とされたからである。

  仮に,受信契約によって発生する基本権が民法168条1項の「定期金の債権」に該当するとした場合,当該基本権は第1回目の弁済期から20年間行使しないときに消滅することになる。

  しかしながら,被控訴人との間で受信契約を締結することが,被控訴人の放送を受信することができる受信設備を設置した者の法的義務とされ(旧法32条1項[新法64条1項]),あらかじめ総務大臣の認可を受けた基準によるのでなければ受信料を免除することはできず(旧法32条1項[新法64条2項]),被控訴人の平成23年度の収支予算,事業計画及び資金計画が承認された際には,「公平負担の観点からも,契約の締結と受信料の収納が確保」されるようにとの衆議院の附帯決議がされているとおり,受信料については,国民・視聴者の公平負担が強く求められており,20年間行使されないことにより基本権が時効消滅することを認めるのは妥当ではなく,否定されるべきである。

 d 永小作料債権および賃借料債権との相違点

  なお,例外的に,基本権につき民法168条1項の適用を否定されつつ,支分権につき民法169条が適用されると解されている債権として,永小作料債権及び賃借料債権を挙げることができる。

  しかし,これらの債権について上記のような解釈が認められるのは,仮に,基本権の消滅を認めてしまうと,永小作権については,無償の永小作権となってしまい,物権法定主義(民法175条)に反すること,賃借料債権については,無償の賃借権となってしまい,賃借料債権が発生することが契約の要素となっている賃貸借契約の概念と矛盾してしまうことといった,形式的な理由によるものである。

  受信料債権については,永小作料債権及び賃借料債権に関する議論に見られるような形式的な理由は見出し難く,このような例外的な解釈をする前提を欠いている。

 e 上記のとおり,民法169条を含む短期消滅時効制度については,その適用範囲はできるだけ狭く解すべきである。

  特に,受信契約に基づく受信料は,対価性のない特殊な負担金という性質を持つとされる,他に例のない極めて特異な法的性質を有するものであり,その受信料に関する債権も,定期給付債権の典型とされる賃借料債権や給料債権等とは全く異なる法的性質を有する債権であるから,定期給付債権とは認められないと解すべきである。受信料債権について,あえて定期給付債権に該当するとして短期消滅時効を認めるべき合理的な理由や必要性は何ら存在しないばかりか,短期消滅時効を認めることは受信料の公平負担を阻害する弊害も危惧される。

 f 以上によれば,受信料債権には,民法169条は適用されない。

 (ウ) 商法522条について

  被控訴人の放送等業務の遂行は,商法502条が定める営業的商行為には当たらない。

  また,被控訴人は,営利を目的として業務を行うものではないから,商法4条1項の商行為をすることを業とする商人には該当しない。さらに,被控訴人の放送等業務の遂行は商行為ではないから,商法2条の規定に基づいて商法が適用されることはない。

  したがって,受信料債権は,商行為によって生じた債権ではないから,商法522条が適用される余地はない。



(旭川地裁 平成24年1月31日判決)(3)へ続く


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