(前回からの続き)
金利の上昇におびえるのはアメリカの市民も同じです。以下に記すように、QE(量的緩和策)が演出した低金利環境のもとで、米家計の借金が増加の一途をたどっているからです。
ニューヨーク連銀の発表によると、アメリカの今年第3四半期(7~9月期)の家計債務は前期比で1.1%プラスの1270億ドル増と、2008年1~3月期以降では最大の伸びとなりました。その増加の内訳は住宅ローン560億ドル、学資ローン330億ドル、自動車ローン310億ドル、そしてクレジットカードローン40億ドルなどとなっており、一般家庭に関連するほとんどすべての債務が増え続けています。
とくに最近は、一時は落ち込んでいた住宅ローンが金額、増加率ともに急速に高まっているようすが窺えます。第3四半期の米GDP成長率は年率換算で2.8%増と、前期の2.5%増からさらに上がりましたが、なかでも住宅投資の伸び率は同14.6%と突出しています。その背後にはこうした住宅ローンの拡大があるということなのでしょう。
そんなこんなで増加し続けているアメリカの家計債務のトータルは、第3四半期時点で11.28兆ドル(1ドル104円換算で約1170兆円!)にまで膨らんでいます。このペースでいくと、(リーマン・ショック直前の)2008年7~9月期に記録された同最高額12.68兆ドルを超えて拡大しそうだ、といった予測もできそうな勢いですが・・・。
ということで、上記をふまえた現状のアメリカ経済については次のようなことがいえるかと思います。GDPの7割を占める個人消費(家計)が支えるアメリカの実体経済は現在、住宅投資と自動車販売に牽引されているということ。そして住宅と自動車の購入等に必要な資金は多くの場合、借金であること。そしてその借金とはQEによってばら撒かれたマネーが元手の低金利ローンということです。アメリカの家計がこれほどの借金ができるのは金利が低いおかげ、といえそうです。
2008年秋のリーマン・ショック直後からこれまでの5年あまりの間、FRBはQEを断続的に実行し、マーケットにあふれる債券を買い入れて金利の低め誘導をおこなってきました。そのため、この間に積み上がった一般家庭向けローンの大半は利払い負担が比較的小さなものとなっているはずです。それだけいまのアメリカの家計は金利上昇に対する耐性がなさそうだ、ということ・・・。
そんな借金に好都合な環境がQE縮小によって変化しつつあります。ここでやはり気になるのが住宅ローン金利の動向。今回のFOMCでFRBはMBS(住宅ローン担保証券)の購入額の50億ドル減額を決定しました。米国債と比べるとMBSは安全性が低いうえ、流動性も乏しいこともあって、いまの債券市場では実質的にはFRBのみによって買い支えられています。その最大の買い手がMBS購入量を減らすとなると、他の金利にもまして住宅ローン金利が大きく上がるリスクが想定されます。
はたしてアメリカの家計、とりわけ住宅ローンを抱える家計は、ポストQE期の金利上昇にどこまで堪えられるのか。そして今後、ローンの延滞や焦げ付きの増加が見込まれるなかで、アメリカの金融システムは無傷でいられるのか・・・。アメリカで不動産バブルが崩壊したのはつい5~6年ほど前。「そんな『大昔』のことなんてすっかり忘れたよ!」と言わんばかりの勢いで借金を重ねるアメリカの家計は、QE縮小と金利上昇が本格化する来年以降、重大な局面を迎えそうだ、と考えています。
(続く)
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