Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 3等A席前方上手寄り

2016年08月29日 | 歌舞伎
歌舞伎座『八月納涼歌舞伎 第一部』 3等A席前方上手寄り

『嫗山姥』
12日に拝見した時も良いなと思ったのですがますます良くなっていました。

八重桐@扇雀さんの語りにメリハリがつき、また艶も出ていて見応えがあり、また時行との合体後も華やかで非常に良かったです。上方のやり方ということもあり全体的に線の柔らかさがある感じがして新鮮に拝見。

時行@橋之助さんは砕けた調子の時の台詞廻しが芝翫さんに似てきたなあと。頑張ってきたことが空回りしてしまう悲哀が出てました。こういう柔らかめの白塗りもしっくりくるようになりましたね。

太田太郎@巳之助くんが声の張りがよくきびきびと。沢瀉姫@新悟くんがはんなり柔らかいなかでの芯の強さを表現きちんと赤姫でした。局頭の歌女之丞さんがさすがに場を締め、立ち回りの皆様も良かった。

『権三と助十』
岡本綺堂せんせの歌舞伎作品は苦手なのが多いのですがこの作品は別。大好きなんです。長屋の皆がわちゃわちゃ出てくるだけでニコニコしちゃうんです。基本的にがさつだけど良い人ばかり出てくるし。そのなかで一人、人としての情がない勘太郎の怖さが日常に潜む怖さとして表現されているのが綺堂らしさ。

今月は菊五郎劇団の芝居に比べると世話物とはいえ全体的に軽い感じはありましたけど、反対にファンタジックでコミカルな明るさがあって人物たちが皆愛らしく、非常に見やすく楽しい気分にさせる芝居になっていたなあと思います。

権三@獅童さん、とても似合った役で活き活きと演じていてとても良かったです。ぽんぽんと捲くし立てる台詞もよく、こういう明るく甘えたな軽みがあるお役はピッタリ。

助十@染五郎さん、日和見主義でちゃっかりしてるようだけど案外マジメな助十をキュートに。無精ひげ面だけど色気ある助十だったw 啖呵をきる時はポンッと台詞がいくのだけど早いテンポの台詞だと少し重めになる。もっと軽くトントンとできるといいと思う。芝居の間の作り方がさすがに巧み。

女房おかん@七之助さん、気の強い世話女房が似合う。ぽんぽんと言いたいこと言ってもイヤミにならずに可愛い。この手の焼くは安定感が出てきましたね。綺麗系も好きなんだけどこういう七くん、好きだわ~。どことなく福助さんを思い出させるところがあったりして、納涼という場だけに少し感慨が。

助八@巳之助くん、勢いがあって。声もよく通ってとても良かった。喧嘩早いけど兄思いな良い弟でした。少しマンガちっくではあるけど、どんな場面で良いリアクションをしてて舞台のうえにいることに自信を持ったなって気がしました。いわゆる世話の調子をもう少し頑張ればもっと色々できるようになる。

彦三郎@壱太郎さん、上方から来た父思いの直情型の彦三郎にピタリと嵌って、江戸風俗の芝居のなかにいいスパイス。この配役は本当にうまかった。壱くんは今は女形が多いけど立役もしっかりしてていい。

家主@彌十郎さんはもうこういうきちんとしていて、どこか飄々とした優しいお役は鉄板。

勘九郎@亀蔵さんは一見悪そうにみえなくて、イヤミもそれほど立たないのだけど、だからこそ咄嗟に猿を殺してしまうのが怖い勘九郎でした。

猿廻し与助@宗之助さんは雰囲気が優しいので猿を可愛がってるという部分はっきりみえて、だから猿も可愛くみえてきた感じがしました。

石子伴作で秀調さんがお付き合いしてくださったのが嬉しい。秀調さんの声の調子が好きなんです。