Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

国立大劇場『12月歌舞伎公演「鬼一法眼三略巻」』 特別席1階前方センター

2012年12月08日 | 歌舞伎
国立大劇場『12月歌舞伎公演「鬼一法眼三略巻」』 特別席1階前方センター

今回は半通し上演です。通しのほうがやはり人物関係がよくわかって面白い。特に前半「六波羅清盛館」があるだけで「菊畑」が段違いに面白くなる。この場は単なる様式美を見せる場だと思っていたけど筋が通ると面白い。こんなに面白く観られるとは思わなかった。キャラクターが俄然生きてくる。特に皆鶴姫の印象がかなり変わった!また今回、配役がうまく嵌ったのも人物の位置関係や位取りが鮮明になり良かったのかも。

「六波羅清盛館の場」「今出川鬼一法眼館の場」
普段は「今出川鬼一法眼館の場」通称「菊畑」のみの上演が多いですが今回は前の場を付けたので状況が見えやすく、また登場人物の位置づけもよくわかりました。

鬼一法眼@吉右衛門さん、ずっしりとした圧倒的な存在感と眼光鋭い厳しさのなかにハラのなかに秘めるものを滲みだす。このお役、似合うかしら?と思っていたのですがここ数年、複数の役者で拝見した鬼一法眼のなかで一番説得力がりました。

虎蔵実は牛若丸@梅玉さん、さすが義経役者といったところ。虎蔵での品のよい柔らかさがほどよく、正体を現した牛若丸の時の位取りの高さ、場の支配ぶりが見事。

奴智恵内実は鬼三太@又五郎さん、従来のイメージの智恵内よりは小ぶりな感じがありますが奴らしい丸みとストレートに伸びる台詞回しがとても良かったです。また表情のひとつひとつが丁寧で物語のなかの人物としての説得力がありました。キャラクターの位置づけとしては又五郎さんの智恵内のほうがしっくりくるのかも。

平清盛@歌六さん、兵法書「虎の巻」を差し出すように命令する敵役としての憎々しげな存在感をしっかり出し、物語の発端である場を締める役割をはたしていました。上手いですね。

皆鶴姫@芝雀さん、「清盛館」では姫らしいたおやかさに武芸に秀でているという凛とした強さをバランスよく見せる。皆鶴姫って強い女性だったんですね、初めて知りました。そして「菊畑」では一途に虎蔵を思う気持ちを真っ直ぐに。芝雀さんは赤姫がとてもお似合いです。

湛海@歌昇くん、湛海を演じるには若すぎるとは思いますがしっかりやっていたと思います。皆鶴姫に言い寄り振られた上に剣術にも負けてしまうという小物ぶりが面白かったです。

女小姓楓@廣松くん、あまり女形を手掛けてこなかったと思いますがしっかり女形としての形になっていたのは見事だと思います。精進しているのでしょうね。顔の拵えも上手くなり可愛い女小姓となっていました。

「檜垣茶屋の場」「大蔵館奥殿の場」
『一條大蔵譚』として演じられる二場です。こちらも序幕で平清盛という存在を見せたことで物語が見えやすくなりました。たった一場を付け加えるだけで見えてくるものが鮮明になる。国立劇場は通し狂言を頑張って上演してくださいますが意義は大きいと思います。みどり狂言ばかり上演する松竹ももっと考えていってほしい。

一條大蔵卿@吉右衛門さん、当たり役中の当たり役のひとつです。作り阿呆のなかにみせる悲哀と憤怒、その表情の切り替えの上手さには感嘆するばかり。また台詞廻しの高低の使い方も見事。一條大蔵卿の複雑な心持ちがしっかりと伝わってくる。作り阿呆の部分の愛嬌は前回、前々回のほうが作っているのか本性なのかわからない繊細さがあり雰囲気が優しげで個人的には前のほうが好みだったかな。今回は阿呆を作ってるという作りこみの部分が強くでた感じ。

常盤御前@魁春さん、品格ある佇まいのなかに哀しみを秘める。源氏を守るために運命に身を投じた女という感じがあります。弱さより強さのほうがみえる常盤御前。

鬼次郎@梅玉さん、使命感に燃える一本気さがあり、また終始場の緊張感を保つ。

お京@東蔵さん、キリリとしたなかに女狂言師としての柔らかさもみせて緩急の付け方が巧い。

鳴瀬@高麗蔵さん、知的で凛とした風情が素敵でした。

女小姓弥生@米吉くん、ふんわりとした雰囲気と品のよさ、ひたすら可愛いです。ぜひとも女形に進んで行って欲しいです。