Snowtree わたしの頭蓋骨の下 *鑑賞記録*

舞台は生もの、賞賛も不満もその日の出来次第、観客側のその日の気分次第。感想というものは単なる個人の私感でしかありません。

新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』3等A席中央上手寄り

2006年05月04日 | 歌舞伎
新橋演舞場『五月大歌舞伎 昼の部』3等A席中央上手寄り

『ひと夜』
なんだかとんでもないお話です。子供に見せちゃいかんと思いました(笑)。しかし、なんでも歌舞伎でいいじゃんと思ってる私でも歌舞伎なの?と思いました。時代背景が大正だからかな?リアル感がありすぎる感じ。物語としては面白いんですけど、でも感覚的な部分でいうと宇野信夫はやっぱり苦手…(TT)。いわゆる無意識の悪意ってやつを歌舞伎で見せられるとちょっと拒否感を覚えてしまうのです。本とか映画とかでは拒否感が無いどころかそういうダークな部分は好きなんですが「歌舞伎」でやらなくてもとか思ってしまうんですよねえ。

おとよ@芝雀さん、ファムファタル的な女性かああ…。いつもの芝雀さんと違う~、こういう役ってどうよ?という微妙なファン心が…。まあ芝雀さんだからそれほどいやらしくみえないともいえるが…。おっとりした感じがあるので天然系にみえるし。それほど作りこんだ感じはしなかったのだけどいつもよりかなり色ぽかったです。時々、艶かしさも感じさせました。こういう役柄にも結構ハマるのかあと新鮮でした。声を低めにとった台詞回しはお父様の雀右衛門さんに似てましたねえ。

松太郎@信二郎さん、なんつーかすんごい役でした(笑)嫉妬深い旦那なんですが、オカマぽくてなよなよしてるくせにかなり危ない系。似合ってるとこがまたなんとも(笑)こういう役もできてしまう信二郎さんてばいったい…(笑)あまりにキャラ立ちしすぎですよ。

田口義道@歌昇さん、上手いですね。独身男の孤独感や焦燥感があり、おとよが現れてちょっと下世話な心が浮かぶ様子は可笑しくも下品にならず見事。なかなかああいうように表現できるものではない。外見はむさくるしいけどなんとなく可愛らしい田口でした。バカップルに振り回されたあげくのポカーンとした表情が良かったなあ。私も一緒にポカーンとしてました(笑)

『寿式三番叟』
素晴らしかったです。なぜに新橋演舞場には幕見が無いの~~~~。これ通いたいんですけどっ。染五郎さんと亀治郎さんの二人の勢いある三番叟は見事でした。鋭さとキレのある染五郎と柔ら味と粘り気のある亀治郎の対照的な二人の踊りが見ものでした。二人とも見事な舞いっぷり。『寿式三番叟』という演目自体ほんとに良い舞踊だと思う。曲も良いんですよ~。新作ですがこれは定番舞踊になるでしょうねえ。

千歳@種太郎くんがとても丁寧にきれいに踊っていて将来が楽しみ。

翁@歌六さんは重厚さがあり翁らしい。

三番叟@染五郎さん、とてもシャープで大きさがあり品格をみせる。身体の軸がまったくといっていいほどぶれない非常に端正な踊り。顔に表情をつけず、天に向かって踊っているかのよう。力強く板を踏んでいるにも関わらず流れるような身体の動き。天に舞い上がっていくような雰囲気をみせます。贔屓目で言えばとにかく美しい姿でした。

三番叟@亀治郎さん、柔らかく表情豊かに激しく踊る。細かく身体の表情をつけキメの部分で身体を残す粘り気のある澤瀉屋らしい派手さのある動き。どちらかというと地の踊り。どことなく土の匂いを感じさせる。

正反対の踊りといっていい二人の三番叟。図らずも天と地の踊りになっていたと思います。見事に奉納を現わしてたなあ。私はどちらかというと染五郎の踊りのほうが好きです。

『夏祭浪花鑑』
やはり義太夫狂言のなかでも面白い芝居のひとつだなあ。まだちょっとこなれてないというか、少々テンポがまだろっこしいのが残念。役者それぞれに適役でいい感じなんですが。とくに段四郎さんに頑張っていただきたいかな。女形さんたちが皆さん素敵だわ~。あれ?私ったらそろそろ初心に戻りつつある?綺麗だわ、カッコイイわ、可愛いわで満足なところが今回ありました(笑)

団七九郎兵衛@吉右衛門さん、団七をやるにはそろそろ貫禄がありすぎて今回が最後くらいかなあとちょっと思っていたんですが、表情豊かに丁寧に心理描写をすることで団七というキャラクターを浮かび上がらせて今だからできるものというものを見せてもらいました。特に大詰めの「長町裏の場」の舅に対する想いが見事に伝わってきてかなりの見ごたえがありました。ただ全体的にバランスよくやるには幹部役者がもう一人ほど欲しいかもとも思いましたが。わりと今回若手中心なのでどうしても貫禄ありすぎ。大親分に見えちゃうよ(笑)

お梶@芝雀さん、きっぱりとした姿と台詞でかっこいい女になってましたよ。きゃっ、素敵(贔屓目です)。任侠の女房役は合うかなあと心配していたのですが似合ってました。あとはもう少し団七に惚れてる可愛らしさがプラスされたら最高なんですが。後半が楽しみ。

お辰@福助さん、似合うだろうと思っていてピッタリでした。いなせな姉御といった風情が良いです。最初ちょっと老けた化粧かなあと思ったのですがかえって色気が増していた感じ。 まさしく顔に色気がある女。男勝りのとまでの強さはないのですが、それだけに徳兵衛を信頼している女の可愛さみたいな部分が出ていたと思う。

徳兵衛@信二郎さん、大役をまかされてしっかり演じてきました。信二郎さんの素直な芸風が真直ぐな気性の徳兵衛とうまく重なりかなり良い出来だと思います。吉右衛門さんと並んでしまうとどうしても貫禄不足になってしまうのですがそれは仕方ない。とてもカッコイイ徳兵衛でした。

琴浦@宗之助さんはいつも以上に美人さんでした。あらあ、こんなに美しくなれるだなんて。しかも傾城としての色気もしっかりと醸し出してきて素敵でした。台詞がちょっと一本調子な部分がありましたが後半良くなってくるでしょう。

おつぎ@吉之丞さんが本当に良かったです。さりげなく情を見せてくるのですよね。心から三婦を信頼している女房としての説得力。ベテランならではのたたずまい。

釣舟三婦@段四郎さん、アクの強さ、存在感は抜群なんですよね。三婦にピッタリな役者さんだと思う。気風のよさ、男らしさがあっていい三婦なんですが。早く台詞を完全に入れてくださいまし。 後半期待しております。

義平次@歌六さん、やっぱり上手い。この方は本当になんでもこなせる役者さんですよねえ。役によって体の大きさが見事に変化する役者さんです。今回はいやらしい強欲じじいぶりが見事でした。一瞬でどういうキャラクターかを見せる。ここまでアクの強い義平次を演じられるとは思ってもみませんでした。


3 コメント

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TB返しさせて頂きました~ (愛染かつら)
2006-05-11 12:11:49
こんにちは。

TB返しさせて頂きました~。



寿式三番叟、雪樹さんの「天と地の踊り」という表現はまさに言いえて妙ですね。

確かにそういう感じを受けました。

さすがに表現力がおありです~。



次に拝見するのが本当に楽しみですね。

そして来年1月も…(笑)

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有り難う御座います。 (花餅屋の太夫元)
2006-05-24 01:04:53
こんにちは。

トラックバック有り難う御座います。

表現力豊かですね。

見習わせていただかねば…(汗)

何度も歌舞伎を観ておられると言うのが、文章からも伝わってまいります。

色んな方の歌舞伎の感想を見るのが物凄く勉強になりますので、また遊びに寄らせて頂きます。
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こんにちは (雪樹)
2006-05-24 11:03:41
花餅屋の太夫元さま、こんにちは。こちらこそTBありがとうございます。観劇感想はどう書いて表現しようか、悩みますよね。難しいです。私も色んな方の感想を読むのが好きです。自分と違った視点に勉強させられること度々。ぜひまた遊びに来てくださいね。私のほうでも花餅屋の太夫元さまのところに寄らせていただきます(^^)
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