歌舞伎座『吉例顔見世十一月大歌舞伎 夜の部』 3等A席中央
『宮島のだんまり』
よく観る演目だわ、なんて思っていたんですが私が最近観たのは6年前だった(笑)萬次郎さんが6年前と同じ役だった。一応、ストーリーはあるけど歌舞伎衣装のファッションショーだと思ってみればいい演目。というか私がそう観てるってだけの話ですど。
顔見世らしい役者並びです。どこ観たらいいか悩む。福助さん、女だか男だかわからない袈裟太郎。骨太さがある福助さんなので似合う。もっとおどろおどろしいくらいでも良いんじゃないかと。六方がまるで見えなかったのが残念。次回観劇までのお楽しみ。見えた人によるとよく体が動いていたそう。
歌昇さん、錦之助さん、存在感ありました。高麗蔵さん、綺麗だった。女形でもああいうキリッとした拵えだと似合うんですよねえ。芝のぶちゃん、可愛い。大勢のなかで埋もれてなかったです。歌江さんはとりあえず何やっても目立つ。何か濃いのよね。
『仮名手本忠臣蔵九段目 山科閑居』
大舞台でした。これだけで夜の部は大満足してしまいました。それにしても九段目もよく出来た話です。物語が密なんですよね。忠臣蔵という大きな物語の流れのなかに段づつにそれぞれまた物語のうねりがある。見事だわ~。
さて今回の配役、戸無瀬@芝翫さん、本蔵@幸四郎さん、由良之助@吉右衛門さん、力弥@染五郎さんが九段目初役とのこと。しかし初役揃いとは思えないほどしっかりハマってた。なんとも良いバランス。それぞれ不足なし、という充実した舞台でした。
前半の女のドラマ部分。この部分、とっても好きなんです。
まず戸無瀬の芝翫さんがさすがのうまさを見せる。私、玉三郎さんのやるせない雰囲気の戸無瀬がかなり好きなんですが、今回の芝翫さんが貫禄の芝居で、これがまた素晴らしくて。いやあ、ほんとすごいなあと。この方の「情」のあり方はとっても暖かい。外観の無骨そうな雰囲気がかえって情を際立たせている感じ。なさぬ仲、だからこそというのが伝わってくる。また芯の強さと脆さが絶妙に同居している。この戸無瀬が初役とは、恐れ入りました。
そして菊之助さんの小浪はもう手の内に入ったお役で安定感すら感じます。しかし菊ちゃん、白無垢姿がえらい可愛い。清楚でいじらしい姿に萌え萌え。時々声が超音波になってしまうのが気になるところですが、ここをもう少し押さえられるともっと切々としたものが出るのではないかしらん。
魁春さんのお石がまた素晴らしい出来。魁春さんの持つ品格が、お石という女性の気丈さに繋がって、女のいやらしい意地悪な雰囲気を一切見せない。お石はヘタすると意地悪な女に見えちゃうんだけど、魁春さんのお石は心ならずも、の部分がきちんと見える。芝翫さんの熱さをグッと受け止めるだけの力量がみえてビックリです。最近、梅玉&魁春兄弟にもう一味いいものが出てきた感じがします。
後半、男のドラマ部分。いつもここの部分が物足りなくて、付けたし感を感じていたんですけど、今回しっかりドラマとしてみせてきたのがさすが。
幸四郎さんの本蔵、観る前はこの役どうなんだろう?と思っていたのですが、これがハマっていました。幸四郎さんは九段目は由良之助をよくやっていますが、正直、由良之助より本蔵のほうがニンだと思いました。鋭い雰囲気が敵役実はの二重性の部分にうまくハマるし、自分のしたことへの後悔、奥方と娘への情愛をクッキリと見せてくる。ただまだ独白部分が物足りないなあ。幸四郎さんならもっとしっかり聴かせられるのではないかと思う。まだ調子をうまく掴みきれてない感じも。本蔵って難しいのねえ、とつくづく思いました。後半にもう一度観る予定なのでその時が楽しみです。
吉右衛門さんの由良之助、もうピッタリ。これですよ、これ。出てきただけで納得させる大きさ。九段目の由良之助は現在の役者では吉右衛門さんが一番かもしれない。しかし、幸四郎さん、吉右衛門さんが並ぶと舞台が狭く感じる(笑)空気がやたら濃いんですよね、この二人。今回、お互いの悲哀をしっかり感じあっているのがわかる。今回、姿が似ているのもいいです。本蔵と由良之助が表裏一体のキャラだという部分が際立って。
染五郎さんの力弥、なかなか良いじゃないですか。この段の力弥ってわりと難しいと思うんですが、しっかり存在感がありました。そこはかとない色気と鋭さと。濃い面子のなかで沈まず、由良之助の息子としての佇まいがきちんと見えました。吉右衛門さんとの間が良いせいだと思います。
個人的に菊之助さんと染五郎さんの並びが嬉しい。今回ほんのちょっとなのが残念。この二人でこれから何かやってほしいです。質的に丸本物でこの二人、合うと思うんですよね。
『土蜘』
好きな演目です。しかし九段目の次にこれは少々重かったかも?これも結構集中力がいる演目なのでちょっとくたびれちゃいました。
富十郎さん、やっぱりこの方の台詞好き~。空気がさ~っと軽くなるんですよね。鷹之資くんが太刀持ち頑張ってました。ようやく落ち着いて座っていられるようになったみたい(笑)
菊之助さんの胡蝶は華やかでひとつひとつ丁寧。情景もきちんとみせてきましたが私の好みからするともう少し艶が欲しいかな。
さて、菊五郎さんの踊り、華やかで艶があって好きなんです。芸風はサラっとしている方ですが舞踊となると粘りがあると思います。んで、今回も楽しみにしていたんですが、いつもより大人しい。どことなく疲れているような…。いつもだと僧の部分でもう何か妙な艶があって独特の異をみせたような気がするんだけど。うーん、うーん。上手さという部分はしっかり見せていただけたんですけど、何かが足りない。私が求めすぎなのかな?そろそろお年だし、いわゆる「うまさ」の部分を見るべきなんだろうとは思うのですが。菊五郎さんには華やかさを求めてしまうのです。
間狂言はなんとも贅沢な配役。梅玉さん、仁左衛門さん、東蔵さん。なんだか微笑ましいです。そして芝雀さんなかなかの美女ぶり。玉太郎くんが可愛らしくて注目を一気にさらっていきました。
『三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場』
なぜここにこれを持ってきたのか不思議な演目(笑)今は晩秋、春じゃないぞぉ~と。どさくさまぎれに、という感じもしなくもないけど楽しかったからいいや。
おとせの宗之助さんがなんかいいぞ、どうした?ってくらいいいぞ。いつもの一本調子が消えてるし。薄倖そうな雰囲気、優しげな雰囲気、おとせにピッタリ。川への落ちっぷりがお見事!
そして似合うのかしら?と思っていた孝太郎さんのお嬢吉三がこれがまた良い。女のときのふんわりした雰囲気から一転男に変化する時の声の調子が良いんですよ。今まで似てるなんて思ってもみなかった仁左衛門さんに声がとっても似てるんですね、ビックリ。顔つきも時々、あら?っと思う時があったくらい。小柄だし、体つきも柔らかなので、女から男への体の変化の部分の切り替えはさほど見えないのがちょっとだけ物足りなかったりもしました。これは玉三郎さんのお嬢も同じだったけど、中性的な雰囲気で押しきったのに比べまだそこまでの押しの強さはなかった。でもこれからこなれてくると、孝太郎さんのお嬢吉三のキャラがもっと立ってきそう。思った以上にハマっていて良かったです。
お坊の染五郎さん、カッコイイ。なんか最近、染五郎さん妙に綺麗になっているような?ちょっと痩せすぎかな?とは思うんだけど立ち姿がやはり良いです。品があって訳ありな感じ。御家人あがりの、の部分が際立ちます。でも、もう少し鋭さをみせて欲しい。台詞回しは吉右衛門さんに似ていました。たっぷりと台詞を聴かせる。声がもう少し響くともっと良いのだけど。染五郎さんのお坊、通しで観たい。伝吉殺しの部分とか結構ハマると思う。吉祥院での甘さとかも出せそうだし。
松緑さんの和尚吉三、拵えが似合うじゃないですか~。ニンだとは思ってたけど想像以上に似合う。明るい声も存外にいい感じ。ただ、大きさが足りないかな。台詞廻しが性急すぎるんですよね。ちょっと早すぎないかしら?もっと緩急をつけてほしい。以前よりはかなり聴きやすい台詞廻しにはなっているんだけど喧嘩仲裁のとこはもっとたっぷりしたほうが大きさがでると思うの。江戸っ子な感じはしっかりあるんだけど、もう少しいわくありげな、部分があると。せっかくの目があるのだから目力を使ってほしい。
それにしても、『三人吉三』は最近、通しで見る機会が多いので「大川端」だけじゃ物足りないですね。この三人でやってくれないかなあ。
『宮島のだんまり』
よく観る演目だわ、なんて思っていたんですが私が最近観たのは6年前だった(笑)萬次郎さんが6年前と同じ役だった。一応、ストーリーはあるけど歌舞伎衣装のファッションショーだと思ってみればいい演目。というか私がそう観てるってだけの話ですど。
顔見世らしい役者並びです。どこ観たらいいか悩む。福助さん、女だか男だかわからない袈裟太郎。骨太さがある福助さんなので似合う。もっとおどろおどろしいくらいでも良いんじゃないかと。六方がまるで見えなかったのが残念。次回観劇までのお楽しみ。見えた人によるとよく体が動いていたそう。
歌昇さん、錦之助さん、存在感ありました。高麗蔵さん、綺麗だった。女形でもああいうキリッとした拵えだと似合うんですよねえ。芝のぶちゃん、可愛い。大勢のなかで埋もれてなかったです。歌江さんはとりあえず何やっても目立つ。何か濃いのよね。
『仮名手本忠臣蔵九段目 山科閑居』
大舞台でした。これだけで夜の部は大満足してしまいました。それにしても九段目もよく出来た話です。物語が密なんですよね。忠臣蔵という大きな物語の流れのなかに段づつにそれぞれまた物語のうねりがある。見事だわ~。
さて今回の配役、戸無瀬@芝翫さん、本蔵@幸四郎さん、由良之助@吉右衛門さん、力弥@染五郎さんが九段目初役とのこと。しかし初役揃いとは思えないほどしっかりハマってた。なんとも良いバランス。それぞれ不足なし、という充実した舞台でした。
前半の女のドラマ部分。この部分、とっても好きなんです。
まず戸無瀬の芝翫さんがさすがのうまさを見せる。私、玉三郎さんのやるせない雰囲気の戸無瀬がかなり好きなんですが、今回の芝翫さんが貫禄の芝居で、これがまた素晴らしくて。いやあ、ほんとすごいなあと。この方の「情」のあり方はとっても暖かい。外観の無骨そうな雰囲気がかえって情を際立たせている感じ。なさぬ仲、だからこそというのが伝わってくる。また芯の強さと脆さが絶妙に同居している。この戸無瀬が初役とは、恐れ入りました。
そして菊之助さんの小浪はもう手の内に入ったお役で安定感すら感じます。しかし菊ちゃん、白無垢姿がえらい可愛い。清楚でいじらしい姿に萌え萌え。時々声が超音波になってしまうのが気になるところですが、ここをもう少し押さえられるともっと切々としたものが出るのではないかしらん。
魁春さんのお石がまた素晴らしい出来。魁春さんの持つ品格が、お石という女性の気丈さに繋がって、女のいやらしい意地悪な雰囲気を一切見せない。お石はヘタすると意地悪な女に見えちゃうんだけど、魁春さんのお石は心ならずも、の部分がきちんと見える。芝翫さんの熱さをグッと受け止めるだけの力量がみえてビックリです。最近、梅玉&魁春兄弟にもう一味いいものが出てきた感じがします。
後半、男のドラマ部分。いつもここの部分が物足りなくて、付けたし感を感じていたんですけど、今回しっかりドラマとしてみせてきたのがさすが。
幸四郎さんの本蔵、観る前はこの役どうなんだろう?と思っていたのですが、これがハマっていました。幸四郎さんは九段目は由良之助をよくやっていますが、正直、由良之助より本蔵のほうがニンだと思いました。鋭い雰囲気が敵役実はの二重性の部分にうまくハマるし、自分のしたことへの後悔、奥方と娘への情愛をクッキリと見せてくる。ただまだ独白部分が物足りないなあ。幸四郎さんならもっとしっかり聴かせられるのではないかと思う。まだ調子をうまく掴みきれてない感じも。本蔵って難しいのねえ、とつくづく思いました。後半にもう一度観る予定なのでその時が楽しみです。
吉右衛門さんの由良之助、もうピッタリ。これですよ、これ。出てきただけで納得させる大きさ。九段目の由良之助は現在の役者では吉右衛門さんが一番かもしれない。しかし、幸四郎さん、吉右衛門さんが並ぶと舞台が狭く感じる(笑)空気がやたら濃いんですよね、この二人。今回、お互いの悲哀をしっかり感じあっているのがわかる。今回、姿が似ているのもいいです。本蔵と由良之助が表裏一体のキャラだという部分が際立って。
染五郎さんの力弥、なかなか良いじゃないですか。この段の力弥ってわりと難しいと思うんですが、しっかり存在感がありました。そこはかとない色気と鋭さと。濃い面子のなかで沈まず、由良之助の息子としての佇まいがきちんと見えました。吉右衛門さんとの間が良いせいだと思います。
個人的に菊之助さんと染五郎さんの並びが嬉しい。今回ほんのちょっとなのが残念。この二人でこれから何かやってほしいです。質的に丸本物でこの二人、合うと思うんですよね。
『土蜘』
好きな演目です。しかし九段目の次にこれは少々重かったかも?これも結構集中力がいる演目なのでちょっとくたびれちゃいました。
富十郎さん、やっぱりこの方の台詞好き~。空気がさ~っと軽くなるんですよね。鷹之資くんが太刀持ち頑張ってました。ようやく落ち着いて座っていられるようになったみたい(笑)
菊之助さんの胡蝶は華やかでひとつひとつ丁寧。情景もきちんとみせてきましたが私の好みからするともう少し艶が欲しいかな。
さて、菊五郎さんの踊り、華やかで艶があって好きなんです。芸風はサラっとしている方ですが舞踊となると粘りがあると思います。んで、今回も楽しみにしていたんですが、いつもより大人しい。どことなく疲れているような…。いつもだと僧の部分でもう何か妙な艶があって独特の異をみせたような気がするんだけど。うーん、うーん。上手さという部分はしっかり見せていただけたんですけど、何かが足りない。私が求めすぎなのかな?そろそろお年だし、いわゆる「うまさ」の部分を見るべきなんだろうとは思うのですが。菊五郎さんには華やかさを求めてしまうのです。
間狂言はなんとも贅沢な配役。梅玉さん、仁左衛門さん、東蔵さん。なんだか微笑ましいです。そして芝雀さんなかなかの美女ぶり。玉太郎くんが可愛らしくて注目を一気にさらっていきました。
『三人吉三巴白浪 大川端庚申塚の場』
なぜここにこれを持ってきたのか不思議な演目(笑)今は晩秋、春じゃないぞぉ~と。どさくさまぎれに、という感じもしなくもないけど楽しかったからいいや。
おとせの宗之助さんがなんかいいぞ、どうした?ってくらいいいぞ。いつもの一本調子が消えてるし。薄倖そうな雰囲気、優しげな雰囲気、おとせにピッタリ。川への落ちっぷりがお見事!
そして似合うのかしら?と思っていた孝太郎さんのお嬢吉三がこれがまた良い。女のときのふんわりした雰囲気から一転男に変化する時の声の調子が良いんですよ。今まで似てるなんて思ってもみなかった仁左衛門さんに声がとっても似てるんですね、ビックリ。顔つきも時々、あら?っと思う時があったくらい。小柄だし、体つきも柔らかなので、女から男への体の変化の部分の切り替えはさほど見えないのがちょっとだけ物足りなかったりもしました。これは玉三郎さんのお嬢も同じだったけど、中性的な雰囲気で押しきったのに比べまだそこまでの押しの強さはなかった。でもこれからこなれてくると、孝太郎さんのお嬢吉三のキャラがもっと立ってきそう。思った以上にハマっていて良かったです。
お坊の染五郎さん、カッコイイ。なんか最近、染五郎さん妙に綺麗になっているような?ちょっと痩せすぎかな?とは思うんだけど立ち姿がやはり良いです。品があって訳ありな感じ。御家人あがりの、の部分が際立ちます。でも、もう少し鋭さをみせて欲しい。台詞回しは吉右衛門さんに似ていました。たっぷりと台詞を聴かせる。声がもう少し響くともっと良いのだけど。染五郎さんのお坊、通しで観たい。伝吉殺しの部分とか結構ハマると思う。吉祥院での甘さとかも出せそうだし。
松緑さんの和尚吉三、拵えが似合うじゃないですか~。ニンだとは思ってたけど想像以上に似合う。明るい声も存外にいい感じ。ただ、大きさが足りないかな。台詞廻しが性急すぎるんですよね。ちょっと早すぎないかしら?もっと緩急をつけてほしい。以前よりはかなり聴きやすい台詞廻しにはなっているんだけど喧嘩仲裁のとこはもっとたっぷりしたほうが大きさがでると思うの。江戸っ子な感じはしっかりあるんだけど、もう少しいわくありげな、部分があると。せっかくの目があるのだから目力を使ってほしい。
それにしても、『三人吉三』は最近、通しで見る機会が多いので「大川端」だけじゃ物足りないですね。この三人でやってくれないかなあ。