『ポパイ』や『ホットドッグ(プレス)』によって西海岸的イメージを刷り込まれた僕たちは、当然のことのように片岡義男を読みあさる。
一方で、ニューヨークやシカゴ的な匂いから徐々にトロピカルな香りに変わっていった南佳孝のLPも聴きまくっていた。
「ァィウォンチュー…」
ある日、こんなインパクトのある歌い出しと共に、この二人が合体してしまったのだ。
映画『スローなブギにしてくれ』(1981年)である。
短編小説なのに、どうやって映画化するのだろうと興味深く公開を待ったが、氏のいくつかの短編が見事に繋ぎあわされていて驚いた。また、南氏の歌がフィルムの映像に妙にマッチしていたのを覚えている。
それ以降も南氏は聴き続けているのだが、なぜだろうか片岡氏の作品はまったく読んでいない。もう何十年も(笑)。
それが、ひょんなことから再会することになった。
その本は『ナポリへの道』(片岡義男著 東京書籍刊1300円+税)。
西海岸、ニューヨーク、シカゴ、福生、大和、そして長い時を経て、次はナポリか…と思ったら、ナポリはナポリでもスパゲッティのナポリタンの話なのだ(笑)。
ナポリタンが大好きな僕に、M博士がこの本の存在を教えてくれたのである。
『ナポリへの道』は、片岡氏が自らの体験をなぞりながら、ナポリタンが戦後の日本で、どのように“日本食”となっていったのかが描かれている。
もちろん「少なくとも現在では唯一の文献」として『
ナポリタン』も登場する。
すっかり衰退しているのかと思っていたら、あんがい盛り返していて驚いたとも語っている。確かに、冷凍食品やチルド食品、外食、中食などを含めた全体量では増えているのかもしれない。でも、古くからの喫茶店で供される
ナポリタンは確実に減っている。古くからの喫茶店自体がどんどん店を閉じているからね。実は、古いナポリは、絶滅の危機に瀕しているのだ。
ナポリへの道をたどる旅は面白かったが、僕にとってのナポリタンはポンペイの街のように、火山灰に埋もれてしまいそうなのだ。