湘南ライナー日記 SHONAN LINER NOTES

会社帰りの湘南ライナーの中で書いていた日記を継続中

沖縄エピソード10 Thank you

2007-12-22 21:45:25 | 沖縄日記


「沖縄ウイルスにかかってしまう人が多いようです」
バスガイドさんの言葉が印象的だった。
一度訪れると、多くがリピーターとなり、仕舞いには移住してしまう人もいるという。
(ただ、実際に移住した人の半数がUターンすることになるらしいが)
それほど魅力があるという沖縄。
はい、完全に感染しました。帰ってきたばかりなのに、また行きたい。週末ごとに行きたいほど。
やはり沖縄は、文化が本土とは違っている。それにひかれているはずなのに、逆にかつての日本が色濃く残っているともいえる不思議さが魅力なのだ。
前回のリゾート地滞在ではまったく知る由もなかったが、今回時間の許す限り路地ウラまで歩き回ってウイルスに感染した。
2泊3日じゃなくてね、長期滞在して、もっと知って、もっと話して、そしてもちろん、もっともっと食ってみたい!あぁ、脳と胃にウイルスが…。
ワ・ワクチンを!


とりあえず、今回で沖縄の話はこれで。

沖縄エピソード9 Half&Half

2007-12-22 01:25:55 | 沖縄日記


「ナーベラ」
「ごめんねー、終わったよー。季節じゃないからちょっとしか仕入れなかったよー」
「ジャア、トーフーチャンプルートナスミソネ」
儀保駅から首里城へ向かう丘の途中にある『椿食堂』。
僕たちが地元の人たちに混じって家庭料理を感動しながら食べていると、外国人の男性と日本人の女性のカップルが入ってきて、おばあちゃんにオーダーした。男性のほうは常連さんのようだ。


しばらくすると、おばあちゃんがご飯をよそう担当のおじいちゃんに向かって指示する声が聞こえた。
「あの子たちは、半分でいいのよー」
聞こえたんだか聞こえていないんだか。おじいちゃんはニコニコしながら、そして信じられないくらいゆっくりゆっくり自分の仕事を続けるのだ。
見ればやっぱり、僕のご飯と同様にお茶碗は山盛りになっていた。
「ハンブンニシテクダサイ」
と、お茶碗が二つ厨房に戻される。
「だから言ったじゃない。ごめんねー、でも若い人はいっぱい食べなきゃダメだって、おじいさんが言うのよー」
店内が笑いに包まれた。当のおじいちゃんは相変わらず何も言わず、ただただニコニコしているだけ。
こんなやりとりで、僕たちの料理がいっそうおいしくなったことは言うまでもない。
つくづく料理とは、作る人と食べる場所だと思う。
何も飾らない普通の料理がこんなにおいしいのは、やはりそこで食べているからこそなのだ。
「勝手に本に載って、たくさん人が来るから困るよー」
招かれざる客である僕たちを、それでもこのご夫婦はニコニコと見送ってくれるのである。
働くことが楽しい。ずっとここで、こうしてお店をやっていたい。
二人の顔には、確かにそう書いてあった。





沖縄エピソード8 Deep morning

2007-12-20 01:19:38 | 沖縄日記


朝の静寂を切り裂くように、突然遠くで怒鳴り声が響いた。
声のほうを見ると、狭い道の先にタクシーが斜めに止まっている。人影も見えるので、そのあたりで言い争っているようだ。接触事故で、どちらかが喧嘩腰なのだろう…なんて思っていたら、実は呼んだタクシーに乗る乗らないで、男女がやりあっていたようだ。
男はいかにもチンピラ風、女は派手なワンピースを着た水商売風。なんだか昔の映画から抜け出してきたような服装だった。
いや、服装だけではない。彼らの背景も、間違いなく昭和のセットそのもの。
ここは『桜坂社交街』(社交街ですよ!)。小さなスナックやバーが軒を連ねる一帯だ。


市場通りを抜けたら、いつのまにか迷い込んでしまった。
さっきの男女の言い争いは、早朝のいま始まったわけではなく、昨夜からの続きということか。朝でもこうなのだから、夜はとてもじゃないが独り歩きは危険そうだ。
そんな一角を、部活へ行く中学生が当たり前のように自転車で走り抜けたり、路地から子供が飛び出してきたり。また、違う沖縄を垣間見た気がした。
もちろん、ドアの向こうに女性が見える狭いお店が並んだ、もっとディープな一帯が隣の市にあるらしいが(これは実際に“見学”に行ったマジシャンK君談)。






沖縄エピソード7 Okinawa time

2007-12-19 00:52:29 | 沖縄日記


「サンシンを弾いて歌うおじさんがいるんですが、こちらに呼んでもいいでしょうか」
と、お店のお姉さん。沖縄の旅の夜だ、断る理由もない。
ちょうど空いた隣の席に、そのおじさんはやってきて腰をおろした。そして、ベョンベョンと賑やかにサンシンを鳴らし始めたのだ。
栄町市場前の『うりずん』という古民家をそのまま居酒屋にした二階の座敷は、この陽気なおじさんに乗せられて、一気に盛り上がることになる。
『涙そうそう』の大合唱から始まり、『安里屋ユンタ』の「サーユイユイ」という合いの手、グラスを掲げて「ハイ、カンパイ!」…。
二階にいたお客全員が、大声と手拍子とアクションで、どんどん一体感が増していく。
最後は両手をあげる、あの沖縄独特の踊りだ。これが果てしなく続く。


「さあ、がんばれ」「まだまだ~」
励まされながら、頭の上で腕を左右に振り続ける。ついたての向こうでも、ひらひらと手が揺れている。
ツラいのだが、みんな飛びきりの笑顔。疲れたけれど、いつまでもこうしていたい。そこには、なんとも素敵な沖縄らしい時間が流れていた。僕はもう、こらえ切れずに涙があふれてくる。
だってオレ、肩が痛いんだよー!ょー、ょ- …(エコーかけて読んで)。
まったく予期していなかった展開に、僕たちはすっかり酔いしれた。
こんなに腹から大声を出し、歌い、笑ったのはいつ以来だろう。美味しい料理もかなり食べて、さっきまで満腹だったはずなのだが、このあと沖縄そばをペロッといってしまうのだった。

沖縄エピソード6 Stray child

2007-12-18 00:08:24 | 沖縄日記


O部長と国際通りを歩いていると、4~5歳位の男の子がワーワー泣きながら僕たちを追い越して行く。
そして、突然振り向いて戻っていったかと思うと、また追い越す。
なんだか、まとわりついているカンジ。その泣き声は、
「あ~、あ~、おが~ざぁ~ん、おが~ざぁ~~ん」
と言っているようだ。
お母さんとはぐれたのかと声をかけたら、うなづいた。
いやいやどうしたものかと困っていると、タイミングよく向こうからパトカーがやって来た!
婦警さんに事情を話しバトンタッチ。やれやれと僕たちは、お茶を。


この旅行二回目の『ぶくぶく珈琲』(カフェ琉球珈琲館)を楽しんでから、来た道を引き返す。
すると、さっき迷子と出会った場所に近いお土産物屋さんの店先で、あの子が遊んでいるではないか。何事もなかったかのように。
どうやら、その店の子か、従業員の子のようだ。ちょっと納得がいかなかったものの声をかけておく。
「あれ?見つかったのか?」「よかったな」
「う・うん」
なんだよー、世話かけやがって、地元の子じゃん、迷子じゃないじゃん。
O部長と話しながら歩いていると、急に僕たちの横に現れ、こう言って走り去ったのだ。
「でも、お母さんはいないよ」

わざわざ追いかけてきてまで言ってくれたけど、その言葉の意味がいまだによくわからない。
もしかしたら、家を出ていったお母さんのことが急に恋しくなって泣きながら近所をウロウロしていただけなのかもしれない。そういえば、沖縄県は離婚率が全国一だというからね。
だったら、親身に話を聞いてあげるべきだったのか。あの、まとわりつきぶり?!を思うと。


写真は、この話とは一切関係ありません。

味わう登録有形文化財

2007-12-16 21:48:14 | 沖縄日記


周りのお客さんは、濃い顔ばかり(沖縄の人)。
とはいっても、お店の近所の人ではないようだ。みんな“お出かけ”の格好をしている。
離れたところから、沖縄そばの銘店を目指してやってきた感じ。
そんな顔ぶれが、期待を高めてくれる。
もっとも僕たちは、もっと遠く1500km離れた地からやってきたのだけれど。
ゆいレール『市民病院前』駅から十数分、住宅街が広がる丘の中腹にある『しむじょう』。古民家をそのまま店舗にした雰囲気のいいお店だ。
澄んでいるのにコクがあるスープが絶品。コシのある麺との相性もよく、黄色い生姜を乗せるとまたよく合うのだ。昨夜、街中で食べた濃い目の一杯もおいしかったが、これはまたまったく違う印象。
もう黙ってただただズルズルやるのみ。
幸せは、あっという間に過ぎていった。
でも、一緒に出掛けた I君と、「うまかった」「うまかった」と、その幸せを何度も反芻しながら下る坂道もまた楽しかった。


早く着いたので敷地内を見せていただくと、お掃除中。これが実に丁寧に。おそばも、おいしいはずです!


かわいらしい暖簾が出ました。


古い民家そのままの店内。


店内からの眺めも趣がある。


写真中央部、丘の中腹です(駅から撮影)。

沖縄エピソード4 Old teacher

2007-12-15 01:20:11 | 沖縄日記


ガイドブックにも紹介されている首里城近くの石畳の坂道。
その途中にある『真珠(まだま)』というカフェのテラスから市内が一望できるとあったので、楽しみに出掛けた。
ところが、もうずいぶん前にクローズになっていたようで、一息つくことさえできない。
12月だというのに日差しが強く、Tシャツ姿でも汗をかくほどだった。しかたなく、途中の木陰に腰をおろして水を飲んでいると、いかにも地元という顔立ちのおじさんに声をかけられる。
そして、子供の頃に教わったという漢字の覚え方を延々とレクチャーされてしまった。
「国という字から口を取ったら何?」
「玉」
「じゃあ玉から点を取ったら何?」
「王」
「その点を上に付けたら?」
「主、かな」
「こーやって字ーを覚えたものさー」
実際には訛りがあるので、何度も聞き返すから、こんなにスムーズな会話になっていない。
終わりの見えない問答に困っていたら、通りかかった観光客がそのおじさんに質問を投げてきた。
心で「ありがとう」と言いながらバトンを渡し、僕は坂道を登り出す。
しばらくあちこち歩き回ってから見下ろしてみると、彼はまた別の観光客に話しかけていた。
とはいっても観光客の数は、意外に少ない。いくら眺めが素晴らしくても、この数ではカフェの経営は難しいかもしれない。
それでも、話し好きな地元のおじさんにとっては、大忙しの午後のようだったが。

沖縄エピソード3 Powdersnow

2007-12-14 01:07:47 | 沖縄日記


運ばれてきた氷の山を見て、瞬時にムリだと胃袋がつぶやいた。
だって、今日はすでにかなりの量の食べ物を次々と胃袋に流し込んでいたから。しかも、あと1時間後の18時からはホテルで宴会も始まるのだ。さあ、困った。
僕がこれから格闘しようとしているのは、『ぜんざい』。
『ぜんざい』といっても沖縄のそれは、『氷ぜんざい』のことらしい(氷の上にあずきやミルクがトッピングされている『氷あずき』とも異なる)。甘いもの好きならば一杯くらいは食べておくべきと、宿泊していたホテルの裏手にある『千日』という甘味処に足を運んだのである。
基本セルフサービスなのだが、なぜかおばちゃんが水とお茶も持ってきてくれた。
さて、スプーンを氷に差し込んでみて驚いた。
氷がふわっふわだ。『かき氷』の氷のように荒い氷ではなく、まるでパウダースノー。キンキン、ザクザクしていない。とにかくふわっふわなのだ。
下に沈んでいる本来のぜんざいの部分をスプーンですくって、ふわっふわの氷と一緒に口に運ぶ。
うまい! なんという歯応え! 舌応え!


そして、ふわっふわの氷は、冷たさを感じる前に口の中でスーッと融けていくようだ。最初は見た目の大きさに圧倒されてしまったが、実際にはたいしたボリュームではないことがわかった。
これは、イケるぞ。俄然、完食の自信がみなぎってきた。
しかも、楽しい。かまくら作りのようにスプーンで真ん中を掘っていっても崩れない。どんどん進む、どんどん食べる。こんな食べ物、本土には何でないんだ!
などと思いつつ食べていたが、実は本来のぜんざいの部分もかなりのボリュームで、さすがにお腹が張ってきた。
そして、器に残った小豆を夢中でかっこんでいると、いつのまにかおばちゃんがやってきて、カラになった湯飲みにドボドボとお茶を注いでしまった。
「寒くなっちゃったでしょ、飲んで」
「あっ、す・すみません」
ようやく完食したというのに、さらに湯のみいっぱいのお茶を飲めと…。
お袋さんの気持ち嬉しかったが、胃袋さんは悲鳴をあげた。

驚かないでくださいよ、これで300円ポッキリ!

沖縄エピソード2 Timetrip

2007-12-13 01:37:50 | 沖縄日記


「すみません、すみませ~ん」
お店の人の姿がなく、サーターアンダギーを手に僕は途方に暮れていた。
店の奥、壁の向こうをのぞきこむが、そこはもう別のお店だ。腰の曲がったおばあさんが丁寧に品物を並べていた。
「コレ、買いたいんですけど、お店の人がいなくて」
「えっ、今いたけどね…」
と言いながら出てきてくれた彼女に、僕は自然にお金を渡した。
すると、まるでいつもそうしているかのように、柱に掛かっている袋をピッと一枚取って商品を手早く放り込んでくれるのだった。
こんなことは、当たり前のように何十年も繰り返されているに違いない。お隣とも、お客とも、顔と顔を見合わせ、言葉を交わしながら信頼関係を築いているのだ。


モノレール安里駅近くの栄町市場は、牧志公設市場あたりと比べ観光客の姿はほとんどない。小さな店が肩を寄せ合う地元の人向けの昔ながらの市場である。
訪れたのが朝の9時前だったので、まだ開いている店も少ない。
それでも、ご近所同士で朝の挨拶を交わしていたり、家族総出でもやしの根を取っている店先の風景に遭遇。どんどん昭和にタイムスリップしていった。
見るもの、聞くもの、ここで暮らす人々にとってはすべて何気ない、ごく普通のことばかりのはず。
でも僕たちにとっては、それがどうしようもなく愛しくて、涙が出そうになるほど懐かしいことばかりなのだ。
「ありがと」
「こちらこそ、お世話さま」
シワだらけのおばあさん笑顔に送られ、なんだかホンワリした気分で市場を後にした。
これも沖縄ではごく当たり前のお菓子サーターアンダギーが、忘れられない味になったことは言うまでもない。


サーターアンダギーを買ったお店で。

沖縄エピソード1 Her attack

2007-12-11 00:22:31 | 沖縄日記


乗客565名を乗せたJAL909便那覇行きは、機首を下げ既に着陸体勢に入っていた。
グガゴリゴリゴリ…
足下から車輪が出る鈍い音が響く。モニターに映し出される海面が、より鮮明になってきた。
ところが、ここから高度がなかなか下がらない。いや、再び上がっているようにも思える。
しばらくすると、機長のアナウンスが始まった。あきらかに慌ている様子だ。
直前に着陸した便のバードストライク(鳥がぶつかる、あるいはエンジンに巻き込む)で、滑走路が一時封鎖されたという。
そして、息遣いが荒いままに、機長はこう付け加えた。
「当機は燃料を十分積んでおります、心配はありません」
わざわざそんなこと言わなくてもなあと思っていたら、僕の目の前でこちらを向いて座っているフライトアテンダントが、飛びきりの笑顔で言った。
「そんなこと言われると、かえって心配になりますよねぇ」
機内に生じた緊張が一瞬でほどける。いつも乗っている人の口から出た冗談。実に気の利いた、またタイミングのいい一言だった。
飛行機には数えるほどしか乗ったことがないが、その度にフライトアテンダントの振る舞いには感心させられる。持ち上げる、軽くあしらう、毅然とする…。乗客に合わせて実に柔軟に対応するのだ。しかも、そのどれにもまったく嫌味がない。生まれ持った資質なのか、それとも訓練の賜物か。接客のエキスパート、気分よくさせる天才である。
だからこそ、彼女たちにやられてしまう(虜になってしまう)輩があとを絶たないのであろう。


そんなフライトアテンダントと向き合う形で座ることになったのは、今回で二度目。フライトアテンダントが好みのタイプか否かにかかわらず、この席は微妙である。
向かい合わせなのに、まともに目を合わせることができない。かといって、何もしゃべらないでいるというのもきわめて不自然。僕は人見知りなのだが、気まずい雰囲気に耐えかね、勇気を振り絞って言葉をかけることになる。今日の人が好みのタイプでないことだけが唯一の救いか。
離陸の際にも差し障りのない話をした。そして、さっきの一言である。
僕の並びに座っている社長が「降りれないなら、このままもう少し飛んで、台湾にでも行ったらどうだ」と軽口をたたく。
すると、彼女は両手をグーにして力を込め「降りましょうよ!」と。
その仕草が、妙に可愛い。改めてよく見てみると、品のある顔立ち。足の形もきれいだ。なんだか、もう少し向き合っていたくなった。そうだな、あと一時間ほど上空を旋回してくれれば、実務レベルの具体的交渉に入ることも可能なのではないか…
そう思い始めた頃には、何事もなかったかのように飛行機は那覇空港にソフトランディングしてしまうのだった。
そして、別れを惜しみながら僕は立ち上がり棚からバッグを下ろす。
すると、彼女が急に近づいてきてこう言ったのだ。
「そのバッグかわいいですね、私もOOOO大好きなんですよ」
お高くとまりがちなフライトアテンダントが、決して高価ではない、そして僕が好きなブランドが好きだなんて…。ひょっとしたら彼女、オレのこと好きなんじゃねえのか?
その後、僕はひとりフワフワと上空に舞い上がり、しばらく旋回してからようやく沖縄に着地したようだ。
果たして、その地はパラダイスであった。


※写真はすべて「壺屋やちむん通り」で。