10日のNHKスペシャルは、「キーウの夏 戦争の中の“平和”」と題し、ウクライナの著名な映像作家によるドキュメント映像を流しました(写真は同番組から)。この中で注目されたのは、現在ウクライナで「ギルティ・シンドローム」と言われる現象(症状)が広がっていることです。
「ギルティ・シンドローム」とは、文字通り訳せば「有罪症候群」でしょうか。ウクライナの場合、兵士としてロシアと戦わないことのうしろめたさ、罪悪感で精神的打撃を受けていることをいうそうです。
キーウ(キエフ)の東部農村の夫婦(写真中)は、ロシアの軍事侵攻からまもなく、ニューヨークに住む娘のもとへ避難しました。ウクライナでは18歳~60歳の男性は戦闘要員として出国が禁止されていますが、夫(54)は心臓に持病があるため兵役を免除されました。
住み慣れた家を空けてNYへ避難するのは苦渋の選択でしたが、近所の人々から思わぬ言葉を投げかけられました。「戦争から逃げるのか」「裏切り者」。
夫婦はNYでも毎日、テレビやネットでウクライナ情勢に目を凝らしました。やがて、「こうして平穏に暮らせば暮らすほど罪悪感がつのる。空襲があってもウクライナにいる方がいい」との思いに抗えず、娘の強い反対を押し切って、ウクライナへ戻りました。
近所の人々は、避難した時とは打って変わって、夫婦を熱く迎えました。避難していたためそれまでの職(食肉加工)を失った妻が生活のために就いた新たな職は、軍隊に入って兵士への食事を賄うことでした。心臓病を抱える夫も「軍に志願するつもり」だといいます。
ウクライナはまだ国民皆兵制ではなく志願制ですが、政府は「志願」を促す広報を強め、各所で「徴兵カード」を配布しています(写真右)。「拒否すれば“裏切り者”の烙印が押される」(映像作者)空気が広がっています。映像作者自身、こう言います。
「徴兵カードを受け取ったらどうしようと自問自答を続けている。自分は戦わなくていいのか、記録するだけでいいのか。うしろめたさがずっとある」
以上が番組の概要です。
「国家総動員法」公布(1938年4月1日)以降の日本をほうふつとさせます。
「徹底抗戦で国を守る」という国家指導者の連日のアピール、報道の統制・一元化は国中を戦闘モードにし、良心的な人ほど「戦わないことへのうしろめたさ、罪悪感」を抱く。地域が相互監視・非難の目に包まれる。そこに充満しているは、「国家を守る」という大義の国家主義です。
こうした国家主義の中では、立ち止まって、「徹底抗戦」ではなく「停戦・和平」を望む声・主張は抑圧されます。「非国民」として。
軍事侵攻と徹底抗戦はもちろん異質です。真逆と言っていいかもしれません。しかし、人を殺傷する暴力であることに変わりはありません。
戦争を1日も早く終わらせるためには、ロシア、ウクライナ双方が、そして世界中が、国家が振りまく国家主義のくびきから脱して、人間の立場、市民の立場から、何をすべきかを考え、主張することが必要なのではないでしょうか。
※書きたいことが溜まってきたので、ブログをしばらく毎日更新します。