ウクライナ戦争中に起こった大規模なインフラ攻撃として記憶に残っているのが、ロシアからドイツに天然ガスを送る海底パイプライン「ノルドストリーム1・2」の爆破(2022年9月26日)です。
ウクライナ政府は事件直後から、「ロシアは冬前にパニックを引き起こしたいのだ」(ポドリャク大統領府顧問)とロシアの犯行だとして非難しました。NHKはじめ日本のメディアもウクライナ側のコメントを大きく報じました。
その後、真相が明らかになることはありませんでしたが、ここにきて急展開しました。
7日のANN(テレビ朝日系)やNHKのニュースによると、米紙ワシントン・ポスト(6日)が、「バイデン政権がウクライナ軍による攻撃計画の情報を事前に把握していた」と報じました。
「ワシントン・ポストは6日、ウクライナ軍特殊部隊6人が身分を偽って船を借り、バルト海に潜りパイプラインを破壊する計画だったと報じた。ヨーロッパの情報機関が最初に把握し、去年6月にCIA(米中央情報局)に伝えられた。ウクライナ軍トップのザルジニー総司令官の下で計画され、ゼレンスキー大統領には知らされていなかったという。
ワシントン・ポストはこの情報をSNS上に流出した米軍機密文書から入手したとしている。NSC(国家安全保障会議)のカービー戦略広報調整官は「ドイツなど欧州3カ国で調査中だ」と述べるにとどめた」(7日昼のANNニュース)
この事件をめぐっては、ニューヨークタイムズ紙が今年3月7日、「複数の米当局者の話として…親ウクライナ派のグループの妨害工作だった可能性を示す新たな情報がある…ウクライナのゼレンスキー大統領や政権幹部が工作に関わっていた証拠はない」と報じていました(3月9日付朝日新聞デジタル)。
ワシントン・ポスト紙は入手した「米軍機密文書」から、破壊計画はウクライナ軍トップの下で計画され、それを欧州情報機関がいち早くつかみ、6月(実行の3カ月前)には米政府に伝えられたと具体的に報じました。
ところが、ゼレンスキー大統領はこのワシントン・ポスト紙の報道について、独紙ビルトのインタビューに答え、「ウクライナはそのようなことは何もしなかった。私は100%何も知らなかった」と述べました(8日付朝日新聞デジタル)。
ワシントン・ポスト紙の報道は具体的で、米政府のカービー調整官も否定していないことからも、信ぴょう性が高いと思われます。ゼレンスキー氏がそれでもなお否定するなら、具体的な反証を示す必要があるでしょう。
ワシントン・ポスト紙も「ゼレンスキー大統領には知らされていなかった」としていますから「私は100%何も知らなかった」というのは事実かもしれません。しかしそれならば、大統領に知らされないまま軍トップの下で重大な作戦が計画されたことになり、ウクライナ政府の軍統制の実態が問われることになります。
いずれにしても、今回の「ダム破壊」とともに、「海底パイプライン破壊」の真相も徹底的に究明される必要があります。
それは、事件直後、ウクライナ政府の発表の鵜呑みにして「ロシアの犯行」を示唆する報道を繰り返したメディアの責任でもあります。