アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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“最後のコメント”で「拉致問題」に言及した皇后美智子の政治性

2018年10月22日 | 天皇制と政権

     

 美智子皇后の皇后としては最後の「誕生日コメント」が、宮内記者会の質問に対する文書回答の形で、19日宮内庁から発表されました。その内容には見過ごすことができない多くの問題が含まれています。(以下「コメント」は宮内庁HPより)

 ①    宮中祭祀を強調する宗教性

 コメントには「祈る」という言葉が4回も出てきます。一般的にも「幸運を祈る」などと言いますが、皇后が言う「祈る」には特別に意味があります。

 「国と人々のために祈り続けて」「新しい御世の安泰を祈り続けていきたい」―これらは、皇后の務めとしての「祈り」、すなわち宮中祭祀のことです。宮中祭祀は国家(天皇)神道の中心であり、天皇・皇后の主要な仕事はその実施、すなわち「祈る」ことです。

 美智子皇后が最後のコメントでその「祈り」を強調したことは、(象徴)天皇制が国家神道という宗教に立脚した制度であることを改めて浮き彫りにするものです。

 明仁・美智子両氏が個人的にどんな宗教活動を行おうと、それが「私的行為」として行われるなら問題はないでしょう。しかし実際は、憲法に規定されている天皇の「国事行為」、あるいは規定がないのに公費で行われている「公的行為」が神道の宗教活動と混然化しています。これが問題です。来年行われる「退位・即位」の儀式はその典型です。こうした天皇制の実態は、国の宗教活動を禁じた憲法に明確に違反します。

 ②    「退位」を「譲位」と強弁する違憲性

 コメントは来年の天皇明仁の「退位」を「退位」とは言わず「御譲位」と2カ所で繰り返しています。これは美智子皇后が一貫してこだわっている表現です。

「譲位」とは天皇が自らの意思で天皇の位を譲ることです。しかし現行憲法では、「退位」「即位」は憲法や法律に基づいて行われることになっています。そこに天皇の意思が入り込む余地はありません、あってはならないのです。

 ところが明仁天皇は「ビデオメッセージ」(2016年8月8日)で自ら「退位」を表明しました。これ自体、憲法の「象徴天皇制」の規定を逸脱した行為です。美智子皇后のコメントはあえて「退位」ではなく「御譲位」という言葉を使うことによって、明仁天皇の憲法逸脱行為を擁護し追従したのです。

 ③    あえて「拉致問題」に触れた政治性

 コメントは天皇(皇后)退位後の活動についてこう述べています。

  「これまでと同じく日本や世界の出来事に目を向け、心を寄せ続けていければと思っています。例えば、陛下や私の若い日と重なって始まる拉致被害者の問題などは、平成の時代の終焉と共に急に私どもの脳裏から離れてしまうというものではありません。これからも家族の方たちの気持ちに陰ながら寄り添っていきたいと思います」

  「忘れてはいけないこととして拉致問題に触れたことには驚いた」(原武史・放送大教授、20日付東京新聞)といわれるように、「拉致問題」を持ち出したのはいかにも唐突です。

 「拉致問題」は言うまでもなく朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)との外交交渉の重要課題であり、安倍政権の生命線です。しかも「家族に寄り添う」とは間接的に朝鮮を批判しているとも受け取れます。きわめて政治的な発言と言わねばなりません。

  美智子皇后が公式コメントで「拉致問題」に言及したのはこれが初めてではありません。今も日本政府と朝鮮政府の間で綱引きが行われている「日朝平壌宣言」(2002年9月17日)。その発表から1カ月後の2002年10月19日、今回と同じ「誕生日コメント」で美智子皇后はこう言いました。

 「一連の拉致事件に関し、初めて真相の一部が報道され、驚きと悲しみと共に、無念さを覚えます。…今回帰ることのできなかった人々の家族の気持ちは察するにあまりあり…」
 これは帰国した人々以外は「死亡した」という朝鮮側の説明を間接的に批判したものともいえ、「拉致問題」での「反北朝鮮」世論を喚起する役割を果たしました(写真右、9月25日のブログ参照https://blog.goo.ne.jp/satoru-kihara/d/20180925)。

 今回の発言はそれに続くものです。南北朝鮮会談、朝米会談に続いて日朝会談が政治的課題になっているまさにそのタイミングに、安倍政権が固執している「拉致問題」に皇后が言及したことは、天皇(皇室)の政治的活動を禁じた憲法に抵触するばかりか、現実政治に及ぼす影響の点でもきわめて重大です。

 あと半年すれば皇后から退く人の回顧話、として見過ごすことはできません。このコメントは皇后の公式発言として歴史の記録に残ります。何重にも憲法に抵触する皇后美智子の”最後のコメント”を絶対に容認することはできません。


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