アリの一言 

天皇制、朝鮮半島、沖縄の現実と歴史などから、
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翁長前知事「音声データ」実在するなら公開を

2018年10月29日 | 沖縄・翁長知事

     

 歴史的出来事は、その評価とは別に、事実が客観的により正確に記録される必要があります。後世の教訓とするためにも。

 沖縄県知事選(9月30日投開票)で玉城デニー氏が当選し新知事に就任したことは、重要な歴史的出来事です。玉城氏の知事選出馬(写真左)、そして当選に決定的役割を果たしたのが、翁長雄志前知事が玉城氏を「後継指名」したとされる「音声データ」です。これ自体が重要な歴史的遺物です。

 ところが、この翁長氏の「音声データ」の内容はいまだに明らかにされていません。それどころか、実在することも確認されていません。

 先の「新聞週間」にあたって沖縄タイムスは10月15日付で特集を組み、知事選をめぐる「本紙記者取材ドキュメント」を掲載しました。その中で、「翁長音声データ」について次のような記述がありました。

 「突然、翁長氏の生前の音声データが発見された。音声は17日(8月―引用者)に翁長氏の遺族関係者から新里米吉県議会議長に渡されていた。(中略)突然のニュースに…政経部長で当日デスクの宮城栄作は取材班に『いつ録音されたものか、音声の中身を取材するように』とメールを送った。内容の骨子の掲載も目指すよう伝えた」

 デスクとしては当然の指示です。ところが、「ドキュメント」にはこの宮城部長の指示がどう実行されたのかについては一言も触れられていません。それどころか、「音声データ」自体についての言及がそれ以降全くありません。そして、翁長氏が指名したとされる玉城氏の出馬をめぐる動きに流れ込んでいきました。

 つまり、「翁長音声データ」は「いつ録音されたものか」も「音声の中身」も確認されないまま、まして「内容の骨子」は掲載されることなく、存在を当然の前提として選挙報道へ突き進んだのです。

 以後、今日に至るも、沖縄タイムスには宮城部長が指示した内容についての後追い報道はありません。琉球新報も同じです。

 「翁長音声データ」の経緯を振り返ってみましょう。

 それは、8月19日付の沖縄タイムス、琉球新報が、ともに1面トップで、「知事選 呉屋・玉城氏を後継指名 翁長知事が生前録音」(タイムス)、「知事選 翁長知事、後継2氏指名 音声で呉屋、玉城氏」(新報)と報じた時から始まりました。「ドキュメント」が言う通り、まさに「突然」でした。

 しかしそのニュース源は、「複数の関係者が明らかにした」(タイムス)、「関係者によると」(新報)と、いずれももっとも不明確な「関係者」なるものでしかありませんでした。

 「音声データ」をめぐって固有名詞が明らかにされたのは、「音声は17日に新里米吉県議会議長が遺族から受け取った」(タイムス)という新里氏(写真中)だけです。

 一方、「県議会与党会派おきなわは20日…音声データに疑義があるとして、音声が開示されるまでは、知事選の人選を進めている調整会議に出席しないことを同会議の照屋大河議長に伝えた。音声を聞いたという新里米吉県議会議長に対し音声の開示を求めたが、新里氏は開示を拒否した。…(会派おきなわは)開示しなければ、与党が擁立する方針の玉城デニー衆院議員を支援しないことを示唆した」(8月21日付琉球新報)

 会派おきなわが「開示」を求めたのには理由があります。「調整会議が17日に開いた選考委員会では、呉屋氏のほか謝花喜一郎副知事、赤嶺昇県議会副議長が推薦された」(8月19日付タイムス)からです。赤嶺氏は会派おきなわの県議です。赤嶺氏が知事選の有力候補だったにもかかわらず、「音声の存在で局面が急転し」(同21日付琉球新報)、玉城氏が有力候補となったからです。

 会派おきなわの再三の開示要求にもかかわらず、新里氏はこれを拒否し続けました。

  「県議会与党の会派おきなわが…音声の公開を求めている件で、音声を聞いたという新里米吉県議会議長は21日、公開を改めて否定した」(同22日付琉球新報)
 「新里氏は出張先の東京で記者団に、音声の提供者が望んでいないとし、『要望があるからといって公開できる話ではない』と重ねて否定した」(同22日付沖縄タイムス)

 「音声の提供者」とはだれなのか?選挙中の翁長氏の「遺志」を代弁した妻の樹子さんが「音声データ」の公開を拒否するとは考えられません(写真右は玉城陣営の集会の壇上に置かれた翁長氏の帽子)。ではいったいだれが?

 「音声データ」はその内容はおろか、存在の確認もされないまま、玉城氏が出馬を受諾したことによって、「音声騒動にケリ」(同24日付琉球新報)と報じられました。以後、「翁長音声データ」問題は沖縄タイムス、琉球新報の両紙の紙面から消えました。

 繰り返しますが、翁長氏が「後継指名」したとされる「音声データ」は歴史的意味のあるものです。プライベートな部分は別にして、その内容、特に「後継指名」に関する部分の内容は明らかにされる必要があります。新里氏をはじめ「オール沖縄」陣営には今からでも「音声データ」を公開する責任があるのではないでしょうか。


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