角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

生きられるうちは生きる。

2009年10月17日 | 実演日記
今日の草履は、彩シリーズ23cm土踏まず付き〔四阡円〕
ご覧の通り、個性たっぷり「寄せ集め草履」を編んでみました。夏頃からの中途に残った布地がだいぶたまっていたので、そろそろこんな草履を編みたいなと思っていたんです。拡大画像をご覧いただけると分かりますが、すべてがかつてベースとして編まれた布地たちなんです。
これからも時間に余裕のある日は、こんな草履を積極的に編んでいこうと思っています。









「今日の草履」は、編んでいる最中にご予約と相成りました。青森県弘前市からお越しくださったおばさま四人旅。お買い上げくださった三人の中のおひとりがお選びです。
とっても賑やかなおばさまたちで、こちらの草履のごとく個性たっぷりでしたね。東北地方は口下手や寡黙な人間が多いと評されますが、なんのなんの年齢さえ重ねれば「大阪のおばちゃん」並みの人がずいぶんいますよ。

岩手県花巻市からお越しの母娘さんペア。お母さんは74歳になられると言いますから、お孫さんもいらっしゃるおばあちゃんですね。おふたり丸太椅子に腰を下ろし、結構な時間実演をご覧になりながらおしゃべりに費やされました。
娘さんのほうは早々にお買い上げを決めましたが、おばあちゃんは当初ずいぶん悩んでおりました。

娘さんが、『この草履で元気にならないとっ』と促すと、『イイよ、長生きなんてしなくて…』。
実演席でご高齢者とのおしゃべりはとても多いです。するとどうしても健康の話題が出てくるのですが、基本的に旅行が出来るくらいですからまず元気なんですね。それでもこちらのおばあちゃんは、口数が少ないばかりでなく元気も少ないと感じました。

娘さんはおばあちゃんへも草履を履かせたいのでしょう、『足はゼッタイ重要なんだから、一緒に履こっ』と言っても、おばあちゃんは『どうせ先は短いんだし…』。すると娘さんが、『お父さんはあの世でまだ来るなって言ってるわよっ』。おばあちゃんのご主人はすでに他界されていたようです。

無理にお買い上げを促すのは私の理念に反しますが、どうしても言いたかった言葉を出しました。
『あの世へ行きたいったって、お迎えが来なければ行けないでしょ。今日ここでこの草履と出逢ったのは、お父さんがまだまだ頑張りなさいって言ってる証拠ですよっ』。そして私がお勧めしたのは、今朝一番で仕上がったばかりのピンク基調の草履です。

娘さんもその草履を促し、やっとおばあちゃんのお顔に明るさが出ました。お勧めした草履を手に持ち、笑顔で西宮家をあとにしたおふたり。とても印象深い母娘さんペアとなりました。
齢74、まだまだ平均寿命は先にあります。6月に他界した私の叔母は享年75歳、死にたくなくて死んでしまったひとりです。今日17日は月命日でありました。

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