もう五年も前でしょうか。かねてからご愛用くださっていた秋田市のおばあさんが、娘さんの運転で草履のお買い替えにお越しでした。
おばあさんはその少し前に悪性の病が見つかり、まもなく手術を受けるとのこと。その病室で履く草履を新調したいとご来店でした。
『病院の人だぢサ宣伝するべっ♪』。
明るく笑っていたお顔を思い出します。
治療による心身の負担もあったのか、おばあさんはその後歩行が困難となり、車椅子生活になりました。そして認知症状が顕著になったのもその頃といいます。
あるとき介護をしていた娘さんが、車椅子に座ったままぼーっと自分の足を見つめるおばあさんに気づきました。
ふと思い、私の草履を履かせてみると、その行為は二度となくなったそうです。
それからしばらくしておばあさんは、草履を履いて歩くことはなく旅立ちました。今その草履は娘さんの足元で活躍しています。
世間の大枠では些細でも、その人にとっては極めて重要。そんな草履を編みたいと思っています。
名刺チラシに謳う「たかが草履 されど草履 角館草履」の文言は、そのときのおばあさんのエピソードから生まれました。
画像の草履はさいたま市南区の女性が、ご友人へ贈るプレゼントです。またお一人「たかが草履 されど草履」を感じてくれたなら、これに勝る喜びはありません。
明日と明後日は草履を編まない日、手の休息日です。また8日から一足一足編み上げてまいります(^^)