角館草履の『実演日記』

〓袖すり合うも多生の縁〓
草履実演での日々の出会いには、互いに何かしらの意味があるのでしょう。さて、今日の出会いは…。

根室からの福の神。

2013年11月07日 | 実演日記




今日の草履は、彩シリーズ27cm土踏まず付き[五阡四百円]
男性用サイズの中に一つか二つは、こうした赤い草履を展示したいと思っています。赤は元気やエネルギーの象徴と云われますし、魔除けや厄除けの意味もあるんだそうです。還暦に赤いちゃんちゃんこを贈るのは、「暦が還る」=「赤ちゃんに戻る」=「赤いちゃんちゃんこを略して赤ちゃん」の意と、この厄除けなんですね。それと思うのが、赤には「福」のイメージがありませんか。いずれにしても赤い草履は、いくつものゲン担ぎが溢れているように思います。

80歳も過ぎたであろうかというおばあちゃんが、『あぁ、きっとこれだぁ』と言いながら草履コーナーへたどり着きました。何人かの地元民に訊ねたところ、最後の人が西宮家を教えてくれたんだそうです。おばあちゃんの様子は、ほんとに「たどり着いた」という感じでしたよ。お住まいが北海道根室市とのことで、さらに遠い旅路を連想させました。

詳しく聞いてみると、東京に暮らす娘さんが先月当地を訪れたのだそうです。旅行に先駆け角館をネット検索し、そのとき角館草履を知ったとのこと。履いてみたいと思いながらも時間がとれず、立ち寄ることなくそのままご帰宅。その話を電話で知ったおばあちゃんが、『じゃあ、私が買ってきてあげるわよっ』と請け負ってしまった故の「たどり着いた」というわけでした。母として娘との約束はなんとしても果たしたかったのでしょう。

ただご希望サイズの在庫がなく、2足をオーダーとなりました。お持ち帰りできたとしても北海道から東京へ発送するわけですから、おばあちゃんも注文が叶い安堵のご様子でしたね。

おばあちゃんの旅は、お母上の故郷を訪ねる旅でした。ずいぶん前に亡くなったであろうお母上は、秋田県三種町のご出身。墓参を目的に、北海道内に暮らす親類縁者10名ほどのご一行様です。おばあちゃんが無事に目的を果たせたことを、みなさんもことのほか喜んでくださいました。そしてほかのみなさんまでも、『思い出になるわねっ』とそれぞれにお買い上げです。
その様子を見ていたおばあちゃんが、『あらあら、草履が全部なくなっちゃったねぇ。あたしが福の神なんじゃないの!?』。

本日角館草履の実演席に舞い込んだ「福の神」は、はるばる北海道根室市からお越しでした。娘さんへお作りする草履は、一つに真っ赤な配色を考えています。
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