通称「九曲り」のヒバ林
竜巻沢へ下りた地点の崖から生える根元曲がりのヒバ。
この上にまっすぐの幹を伸ばしている。
◎檜山の「ヒバ」(ヒノキアスナロ)
檜山の通称「ヒバ」と呼ばれているのは和名「ヒノキアスナロ」(アスナロ)である。井上靖の『あすなろ物語』で「あすは檜(ヒノキ)になろう、檜になろうと考えているが、永久に檜になれない・・」と紹介されている。子どもころにこの話を聞いて、「可哀そうに!」と思ったことを覚えている。
※以下、北海道新聞2018年12月2日の記事(黒川伸一記者)を参考に
ヒバ林は関東以北に点在し、江差町、上ノ国町、厚沢部町の3町がほぼ北限である。地元では、このヒバを「ヒノキ」と呼んで、ヒバ山を「ヒノキ山」と呼んできた、檜山の地名もこのヒノキ山に由来する。
このヒバは15世紀以降建築材として使われるようになった。安土桃山時代の1596年(慶長元年)、伐採地の上ノ国に「檜山(ひのきやま)番所」が設置され、ヒバを調達・流通させる仕組みができたという。江戸時代に入り、伐採地は江差、厚沢部に広がり、番所は江差に移る。
その後、ヒバ材生産が盛んになり、松前藩を潤したという歴史がある。そのせいで、ヒバ天然林はほとんど姿を消してしまったという。しかし、江差町の椴川上流部の「ヒノキアスナロ・アオトドマツ自生地」は国の天然記念物に指定され、保護されているという。ここのヒバは遺伝子を調べると、氷河期を乗り越えた「祖先集団」に最も近く、道外種とは異なるらしい。
◎今回は下見を兼ねた探訪
拙著のもとになった「ほっかいどう山楽紀行」の連載を企画してくださった北海道新聞本社の黒川伸一記者が、上掲の記事の延長上で、10月にこの天然記念物の自生地を訪れたいという。同行のお誘いが掛ったので、その前に下見を兼ねて訪れることにした。
函館営林署OBのTaoさんによると、昔は見学者も多く、その核心部を周回する林班界に沿ったルートが整備されたという。しかし、現在はその取り付きまでの林道が廃道になっているので、周回路も薮に還っているのではないかということだった。そのルート地図もいただいてトライした。
GPSトラックログをもとにしたコース図
「古事の森」(モデル林)の駐車場に車を置いて、とりあえずは廃道化した林道を進んで昔の見学者のためのルートがあったいう尾根に登る「九曲り」の跡を偵察することを目的とした。それを登ることができたら、椴川源流部を囲むように連なる尾根を歩き、核心部の「三角点名・竜巻山(408.3m)」を経由し、その尾根を下り、竜巻沢を歩いて周回できればと思った。
結果、南下する446ピーク手前から竜巻山の間はブナ林が切れて、強烈な笹薮漕ぎに手こずったが、予定通り踏破することができた。
7:00古事の森~7:45沢へ下る地点~7:55九曲り取り付き~8:25周回尾根~9:40 446ピーク~11:15竜巻山~12:40竜巻沢へ~13:45古事の森。総所要時間6時間45分。
江差町市街地を抜けて国道を南下し、上ノ国町境界手前の椴川集落から椴川林道へ。
檜山古事の森(ひばモデル林)
歴史的建造物の修復に備えヒバを4百年かけて育成する「檜山古事の森」をこの国有林に設定し、植樹作業等に取り組んでいる。
古事の森は作家・立松和平氏の提唱により林野庁が全国展開しており、ここは全国3番目でヒバは初。
古事の森から廃道化した林道を進む。途中に崖崩れも多く歩き辛かった。
「九曲り」へ取り付くために沢へ下りる手前に、周回路が記載された案内図の看板が落ちていた。
沢へ下りる踏み跡ははっきりしないので、適当に薮を漕いで沢へ下りて、登り返す沢へ取り付いた。
沢の左手の尾根を登って行ったら、大きくジグを切って登って行く「九曲り」の道が見つかった。
登り切ったら、尾根のコル手前で周回路の分岐に出た。意外にも新しい標識が立っていた。左へ進んだ。
ヒバ林で覆われた尾根には踏み跡がはっきりと残っていた。このまま続くことを願って前進。
ミズナラの巨木がたくさんあった。
根元の曲がったヒバ
倒木更新のヒバ
標高400mを越えた辺りからヒバ林がなくなり、ブナなどの疎林帯となる。周回路の痕跡すらない強烈な笹薮漕ぎが続いた。
薮漕ぎの途中から唯一の展望~昨年登った天狗岳が見えた。
薮漕ぎの尾根
途中一ヶ所だけ斜面にヒバナ林が出現。大木もあった。しかし、尾根は強烈な薮漕ぎのまま。
辛い笹薮漕ぎが続く
竜巻山手前のコルから再びヒバ林が出現。薮が薄くなり歩きやすくなる。
ヒバの倒木が遮る竜巻山への登り。
竜巻山山頂から下り尾根を眺める。三等三角点は探したが見つからなかった。
ヒバ林の尾根には踏み跡が残っている。
尾根で見つけたキノコとツルシキミの実
尾根を覆うヒバ林。この尾根は主に右側の急斜面にヒバ林が広がっていた。
下の方の急な尾根には、ジグを切るはっきりとした踏み跡が続いていた。
倒木に覆われた竜巻沢へ下りる。水量は長靴でも大丈夫だったが、長靴の上からスパッツを付けた。
地形図からは滝はなさそうだったが万が一に備えてロープを背負ってきた。しかし、不要だった。
周回路は、ここから登り返して尾根筋から九曲りへ繋がっているようだが、近いので予定通りそのまま沢を下った。
沢から見上げる岩を覆うヒバの複雑な根元
このように穏やかな所もあったが、倒木が多くて結構手こずった。
複雑な枝ぶりのヒバを見上げる。
急斜面にしがみつくように根を張るヒバ。
竜巻橋が見えた。ゴールは近い。左から竜巻林道へ上がり、竜巻橋を渡って椴川林道へ出た。
椴川林道を400mほど戻ってゴール。
途中、1時間半ほどの強烈な薮漕ぎもあったが、国の天然記念物というだけあって、これまで檜山の山では見られないほどの天然のヒバ林を楽しむことができた。不思議に急斜面にヒバ林が密集していた。なお、自生しているはずのアオトドマツは分からなかった。トドマツは目にしたが、そもそもアカトドマツとの違いが分からない。
竜巻沢を下ったことで、急斜面の下から生える根元の複雑な形の上にまっすぐに伸びる逞しいヒバも多く目にすることができて、大満足だった。
この結果を黒川さんへ報告して、10月の本番のルートを相談する。多分、今回と同じルートになるだろう?