『笙野頼子三冠小説集』

 この一冊、いつものようにお風呂で読んでたら本当に目眩がしてきました。
 『笙野頼子三冠小説集』を読みました。

 “医者に行かない理由はどこからでも出てきた。例えば医者に行って、何をしているのか訊かれたら困るのだとか。だって正確に言えば、やはり私はナニモシテナイのだから答えに詰まるのだ。” 150頁

 文学賞には疎いのですが、三冠というのは芥川賞と三島賞と野間文芸新人賞のことでした。それで三冠…なるほど。
 芥川賞をとった「タイムスリップ・コンビナート」、実は未読のでした。主人公が“マグロと恋愛する夢を見て”始まるこの作品は、現実と非現実、うつつと夢の世界がぐでんぐでんに混濁する話です。

 面白かったのは再読の「二百回忌」と「なにもしてない」です。特に「二百回忌」は、流石…と唸りたくなる程、抱腹絶倒の面白さです。二百回忌とは、主人公沢野センボンの父方の家で行われる、“死んだ身内もゆかりの人々も皆蘇ってきて”出席するという盛大な法事のことで、そもそも主人公の家は、“こういう法事のためにだけ存続してきた”と語られます。しかしだね…。
 その肝心の二百回忌のしきたりとは、“しきたりを重視する他の法事と異なり、無礼講が身上”で、“本家の人々も命懸けで、出鱈目な事をしなくてはならない”というものです。くだくだしくは説明しませんが、兎に角凄まじいしきたり破りな法事です。古臭い共同体の概念のあれやこれやが容赦なく破壊されていく様が、胸がすくほどに天晴れです。ただただ面白楽しくてしかたありません。この破壊力のすさまじきことよ。

 「なにもしてない」もとても面白かったです。“ナニモシテナイ”主人公が接触性湿疹になったときの話で、面白いと同時にかなり気持ち悪かったです。普通、接触性湿疹でこんな風に話が発展しますか? シュールな描写が続き、背中の辺りがそそけて来ます。
 (2007.2.15)

コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )