低血圧な朝

 低血圧なので朝はいつも、大層ぼさりとしている。
 頭の内と外側とが、どちらともつかずに入り乱れたままで、どちらも一緒にぼさぼさしている。
 まともな思考なんぞはまだまだ、心地よい眠りの森の小道をたどったその奥で、ごろごろしながら留まっていたりするのである。

 兎に角とりあえず、卵を割った。
 するとこぼれ落ちてきたのは、双子になり損ないの、不細工なハート形をした黄身だった。
 殻の中でよほど別たれがたかったのか、しっかと抱っこし合った形のままで、ポロン、こぼれ落ちてきた。
 こぼれ落ちてきてそのままに、黙ってひたと、こちらを見上げてくる。
 あらま……と間抜けに呟いて、見蕩れているうちに、途方に暮れてきた。
 このものたちを、いったいどうしたものか…。

 為す術もなく、ぼさりと立ち尽くしながら、兎に角とりあえず見つめてみた。
 ジツ…、と見つめ合ったまま、双方どうにも、動きが取れない。
 と、ふいに……。 
 ついに緊張に耐え切れなくなったものか、黄身の双子の片割れが、ふるりと一ふるえしたかと思うと、切ないようなか細さで、「ああ、もう駄目だ…」と一声こぼし、みずからその身をほどきながら、崩れ落ちてしまった。…のであった(嗚呼…)。
 その、最期の一ふるえのあまりの可憐さが、かなり結構、この身に応えた。身に応えながら、ご飯を食べた(当然卵も)。身に応えながら歯を磨き、身に応えながら髪を梳き…。
 全身の毛繕いをおえる頃に、ようやっとこさ、正気になった。

 低血圧な私の朝とは、まこと斯様なものである。 
 正気になってから天気予報をしっかと見て、意気揚々と傘を持ってでかけ、意気揚々と(?)ロッカーに置き忘れてきた。 
 結局とうとう帰り道で、雨に濡れてしまった。晩秋の雨は、冷たひ。
 (2006.11.14)

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