エルネスト・サバト、『英雄たちと墓』

 『英雄たちと墓』の感想を少しばかり。

 “写真のアレハンドラは何かに憧れるような深みのあるあの顔、何か漠としたものを求めるあの表情を浮かべていたが、それこそ最初に出会ったとき彼の心を惹きつけて離さなかったものだった。” 194頁

 素晴らしく、凄まじい読み応えだった。逆巻く渦に魅入るような心地。これはもう憑かれるしかない…と腹を決めたものの、最後には茫然とならずにはいられなかった。吐く息を、吐きだす傍から奪われていく息苦しさの感覚が、いつまでも後を曳く。 
 ブエノスアイレスの混沌を土壌に咲いた、若くて狂おしい恋の徒花。前世紀の別荘で老人が語る古い内乱の話と、没落した旧家の歴史(80年も父親の首と一緒に閉じ籠った娘…)。熱情と恐怖と、邪悪の気配。徐々にうっすらと見えてくる、のたうつ狂気の血脈と頽廃。エディプス劇…。と、幾つもの要素を含んで重層的なこの物語は、しかもそれらがみっちりと描きこまれていることで、非常に重厚でもある。そして、異様で過剰だった。

 序の中で明らかにされていることがあり、初っ端から驚く。それは、アルゼンチンの旧家の娘であるアレハンドラが、寝室にしていたミラドール(小塔)で父親を射殺し、自身もガソリンを撒いて焼死した…という事件のこと。それから、殺された父フェルナンドが書いた手記『闇に関する報告書』が発見されたこと、である。つまり、物語はそこへ向けて語られていくことが、先に知らされているのだ。そして、何故アレハンドラは拳銃に残った弾丸を使わず焼死を遂げたのか…と、謎の提示がある。
 本文ではまず、17歳のマルティンがアレハンドラに出会い恋に堕ち、抜き差しならない状況に呑まれていった日々が、後年のマルティンとブルーノの回想という形で語られている。いつも暗い領域へ戻っていく、謎めいて複雑なアレハンドラ。彼女の魂は老成していながら、物騒なかぎろいに包まれているようでもあり、確かに魅力的だ。そして、彼女が何気なくこぼした言葉は、死後に思い出すと恐ろしい響きを伴う…。

 だが、何と言っても圧倒されたのは、やはり『闇に関する報告書』だった。これは端的に言ってしまえば、盲人や盲目であることに強迫観念を抱いている狂人の手記である。盲人たちが洞窟に潜む怪物たち(疫病や魔女、蛇…)を通して世界を動かす…と言った妄想が、これでもかこれでもかと縷々綴られ、遂に盲人たちの拠点へ…という驚異の報告書でもある。サバトの言葉によれば、“地獄の幻影かも知れない”。

 最後の一文にたどり着くまで、張り詰めていたような気がする。濃くて重くて、いつまでも思いを巡らしていたくなる、素晴らしい読み応えだった。

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2月27日(月)のつぶやき(読んだ本、『トリストラム・シャンディ』)

08:14 from web
ほっしゃん。じゃなかった北村!全部言って!!(ふがふがふが…)
08:18 from web
おはよございますー。真夜中の腹痛の所為で、眠いよー。でもこれからちゃちゃっと片すわ。今日も本が読めるように。

 ☆    ☆    ☆    ☆

20:02 from 読書メーター
【トリストラム・シャンディ 下 (岩波文庫 赤 212-3)/ロレンス・スターン】を読んだ本に追加 →book.akahoshitakuya.com/b/4003221230 #bookmeter

20:15 from 読書メーター
【トリストラム・シャンディ 下 (岩波文庫 赤 212-3)/ロレンス・スターン】
 時間をかけてどっぷり付き合った、トリストラムの生涯と意見(の、はずが…?)。
 何て愛すべき小説だろう…あきれるほどに、笑っちゃうほどに。型破りでやりたい放題なやんちゃぶりと、言葉の端々に見せる人としての真っ当さとの奇妙な釣り合いが、私には好ましかった。そしてしょうもない下ネタさえ、いつのまにか楽しみになってしまったよ(とほっ)。
 またもや脱線に次ぐ脱線か…と思えば、頃合いを見計らって此処と其処でひょいとつじつまを合わせてしたり顔、だなんて小憎いものだ。時折作者に絡んでみたい気分になったりするのも、何だか無性に楽しかった。つまるところ、隅々に至るまでどこまでも、大らかなシャンディ精神にすっぽりと蔽いくるまれていることが、一等の魅力だった。本当に、読み終えてしまうのがさみしかった。叔父トウビーの心根の美しさと言ったら…。

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2月26日(日)のつぶやき

09:23 from web
おはよございますー。風呂上がりのまたりにゃうー。交響曲、のだめだー(違)。
09:34 from web
トリストラムは、昨日読み終わっちゃったよう。さみしいけれど、この気持ちの収まらなさをどうしてくれようか…ぐるるる。
12:16 from twicca
熱燗呑みつつ、鰻の蒲焼き待ちにゃう。うな丼と迷ったけれど…。
14:18 from web (Re: @catscradle80
@catscradle80 ありがとうございます! きっかけを下さった猫のゆりさんのお蔭ですわ♪ すっきりしないと言いますか、ここまで来たらとことん作者に付き合いたい気分でしたので…(笑)。
17:55 from web
チャトウィンの『どうして僕はこんなところへ』は、単行本の表紙からあまり変わらないといいなぁ。だって、あの眼差しが…(きゅん)。とまれ「パタゴニア」が大好きなので、凄く楽しみ~。

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2月25日(土)のつぶやき

06:57 from web
小池さんの服装、好きだなぁ。色が室井さんと被ってるけれど。一瞬スカーフかと思ったら、シャツの柄がアシンメトリーなのね。
07:00 from web
ふう、おはよございます。おめざのナボコフ「海軍省の尖塔」、よかったです。妄想?と思いつつ。
07:05 from web (Re: @catscradle80
@catscradle80 おはようございます♪ リョサは面白いですねー。特に『悪い娘の悪戯』は、読みだしてしまったら早いと思いますよ^^ 
07:11 from web
風呂供本はトリストラム。第九巻に来たら読み終えるのがさみしくて、とまってたの。
07:15 from web (Re: @catscradle80
@catscradle80 緑の家は、あの手法に慣れるまでが手古摺りますね。内容はすごく面白いのだけれど、全体が見えてくるまでが辛いし…。

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2月24日(金)のつぶやき

08:14 from web
おはよーございますー。なかなか調子がすっきりしないけれど、読みかけの本が今日は進みますように。これが、ごっついおもろいんですわー(糸子風こんな感じ?)。
08:26 from web
フエンテスの「澄みわたる大地」は、508頁か(最近、頁数をチェックしてしまうへな猪口)。この現代企画室のセルバンテス賞コレクション、他の作品も気になるなる。統一感のある装丁も面白いし。

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2月23日(木)のつぶやき

04:49 from web
雨降りの朝。風がうなってるよ。びゅおおおおお。
08:17 from web
優子って、別れてないよねぇ…。旦那の影も見えないけれど。寄りつかないだけかww
09:48 from web
おはよございます。『ナボコフ全短篇』が折り返し地点なので、ここでメモ。とりわけ好きだったのは、「翼の一撃」「じゃがいもエルフ」「ナターシャ」「バッハマン」「オーレリアン」。ちょっと異色の「ドラゴン」も面白かった。

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2月22日(水)のつぶやき

04:49 from web
おめざのナボコフ。今朝は「完璧」。
11:36 from 読書メーター
【粛清/ソフィ オクサネン】を読んだ本に追加 →book.akahoshitakuya.com/b/4152092726 #bookmeter
12:18 from web 
ソフィ・オクサネンの「粛清」が、本当に凄くよかった。素晴らしい。で、著者近影を見てううむ…と唸る。美人だ。解説には、メイクと衣装で“北欧の文学的レディー・ガガ”と評されている…とあった。ううむ。
19:15 from 読書メーター
【リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)/上田 早夕里】を読んだ本に追加 →book.akahoshitakuya.com/b/415031053X #bookmeter

19:17
from 読書メーター
【リリエンタールの末裔 (ハヤカワ文庫JA)/上田 早夕里】 やはり表題作がとても好き。それから、「幻のクロノメーター」。
19:36 from web
ピーター・グリーナウェイの「ベニスに死す」……(放心)。

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ソフィ・オクサネン、『粛清』

 『粛清』の感想を少しばかり。

 “祖母がザラを見た。まともにザラを見たのは、このときがはじめてだった。そのまなざしは、ザラの目を突きぬけて体内へ――口から喉へ――はいりこんできて、喉が締めつけられた。(略) その微笑をきっかけにして、言葉が一つ一つ芽生え、ぼんやりとした黄色い花を咲かせはじめた。” 53頁

 素晴らしい読み応えだった。胸を締めつけられ、来し方を振り返り溜め息をこぼすしかないような…そんな読後感だが、読めて本当によかった。戦争や男たちに無惨に踏みしだかれた主人公たちが、普通の弱さを抱えて苦しみながらも歩いてきた姿に、静かに揺さぶられた。
 時に忘れ去られた小村に暮らす老女アリーダと、彼女の庭に倒れていた若い娘ザラ。やがて2人の女が背負ってきた苦難の物語は、行きつ戻りつする時間の流れの中で詳らかにされていく。徐々に明らかになる事柄の重みに慄きつつ、目を逸らさせない物語の吸引力にはただただ圧倒された。はっと息を呑み、またゆっくりと息を吐く…幾度繰り返したことか。

 物語は、1992年のエストニア共和国ラーネマーから始まる。そぼ降る雨の朝、独り暮らしのアリーダ・トゥルーが、自宅の庭に若い女が倒れているのを見付ける。盗賊団のおとり役かとアリーダは疑うものの、おどおどと怯えている彼女を家の中に入れることにしたのだが…。
 忽然と現れたエストニア語を話す娘ザラは、一体何から逃れてきたのか。なぜ異様なまでにびくびくと落ち着かない様子なのか。そもそもなぜ、アリーダの元にやってきたのか。それから、アリーダの家の窓に小石の雨が降る理由について。それらの答えの一つ一つが苛酷であり、また、アリーダには縁もゆかりもないと思われた2人の間にも、あまりにも重過ぎる事実が潜んでいた。それはもう、アリーダにとってはパンドラの箱を開けるにも等しい、夢にも思わぬ繋がりであることが、読み進めていくうちに読み手には伝わってくる。でも、繋がり自体を知っているザラには、アリーダの態度に謎しか見えない。

 ところで、アリーダの周辺で、執拗なまでに書き込まれるハエが気になって仕方なかった。ハエ嫌いのアリーダが一匹たりとも見逃さない様子は少し不気味だが、不快で不穏な空気をハエの存在で表しているのかと思った。ので、後で…。

 40年代まで遡る章では、反ソビエトと見做された人々が次々と粛清されていたエストニアで、かつてのアリーダやその姉インゲルが、必死に生き延びた時代が描かれている。そして一方には、ウラジオストクで育ったザラが、エストニアにたどり着くまでの経緯を語る章がある。どちらにも暴力が溢れ、目を蔽いたいほどの悲惨に満ちている。
 果たして、そんなアリーダとザラの邂逅にどんな意味があるのだろう…と、胸に引っかかっていた問いの答えは、かけ結ばれた彼女たちの心の内にきっとある。

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2月21日(火)のつぶやき

06:34 from web
おはよございます。緑茶をごきゅごきゅ。ね、眠いわねぇ…。
06:46 from web
スウェーデンの作家ということで興味が湧き、読んでみた「黄昏に眠る秋」。第二弾の「冬の灯台が語るとき」が出ているのだが…。ん、こっちの方が好きかも知れないから読もうかなぁ。タイトルはもう、凄くそそるわ。
07:14 from web (Re: @catscradle80
@catscradle80 『チューブな形而上学』は面白いですよねぇ。可愛い顔して何この子…って、まじまじと表紙の顔を見つめ返してしまう感じ(笑)。

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2月19日(日)のつぶやき

06:39 from web
存外にいい感じで体重の維持が出来ているのじゃが(とりあえず冬太りはない)、あと少し落としたいと思うとなかなかだなぁ。何しろ寒いしねぇ。
08:05 from web
おはよございますー。今日は図書館が休みと知り、ちょっと残念な折角の青空。でも予報は曇りのち雪。風呂供本に迷っているにゃう…。

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