7月9日

 ボッカッチョ/平川祐弘訳『デカメロン 下』を読んだ。

 八日目から最終の十日目まで。一篇、また一篇と読んできてとても楽しかった。ただただ唖然とする話も幾つかあって女性の扱い酷いけどw、それも含めての「これが『デカメロン』か…」と面白かった。 
 
 めも)語り手の性別や人柄と話の内容には、必ずしも関係を持たない(女性が語り手なのに、、、な話もある)。
 観念的な人間造型もボッカッチョの傾向。理念先行型の創作の一例で、夫婦の愛情関係がゲーム感覚で描かれている(第十日第十話)。
 
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7月1日

 ジョセフ・オコーナー/栩木 伸明訳『シャドウプレイ』を読んだ。
 
 素晴らしかった。
 舞台はヴィクトリア朝ロンドン。ブラム・ストーカーが劇場支配人としての役目を果たす傍ら『吸血鬼ドラキュラ』の執筆に至る経緯が、当代一の人気だった二人の名優との何とも名付けがたい交わり(深い愛も狂おしい嫉妬も憧れも)を軸に語られていく。
 作中には『ドラキュラ』からの引用や目くばせ、仄めかし、名優アーヴィングが得意としたシェイクスピア劇のセリフの引用やもじりなど惜しみなく鏤められている。

 繊細で人に優しく夢見がちだったストーカーが、その想像世界の中では邪悪な流血の物語を生み出していた…ということ、その、誰にも見せない昏い顔を持つ人物造形に感嘆した(そこがタイトルに繋がる)。
 
 当時の有名な事件(切り裂きジャックやオスカー・ワイルドの裁判など)との絡みも面白い。そして名優エレン・テリーが大好きだった。
 
 
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6月19日

 ボッカッチョ/平川祐弘訳『デカメロン 中』を読んだ。
 
 四日目から七日目まで。ボッティチェㇽリの絵(特に松林の方)を見るたびに、これは一体どういう…と思っていたのでやっとその話を読めた訳だが、想像以上にひどい話だった。絵画になった場面より話そのものが。
 あと、イザベラ(ここではリザベッタ)とバジルの鉢の話が入っている。


 めも)中世の科学では魂の所在は心臓の中(殺された恋人の心臓に口づける)。
 キリスト教徒とイスラム教徒の交渉や平和共存も描かれている。
 美しい自然と美しい被造物の調和は西洋中世文学の基本的なモティーフの一つ。
 教会で説かれる道徳とは異なる人間性に基づく行動原理を示唆している。

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6月7日

 ヘルマン・ブロッホ/川村二郎訳『ウェルギリウスの死 上・下』を読んだ。
 

 
 素晴らしい読み応えだった(そして時間かかったw)。
 翻訳自体が割と古いものでもあり、言葉ひとつひとつの選び方がゆかしくて、息の長い文章はとても美しかった。

 “少年の日と同様に彼は生け垣を手でかい撫でることもできただろう、(略)それは死と死への歩みへむけられた夢、幼い日々このかたのすべての夢見心地の待機の目標、記憶の目標と源泉へむけられた夢だった、それは透明で、けっして消えることのない、認識をもとめてやまぬ夢だった。”

“人間とは彼にとっては無にすぎなかった。お伽噺(とぎばなし)の生物、美に覆われた美の演技者にすぎなかった。”
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5月28日

 フランティシェク・クプカ/山口巖訳『カールシュタイン城夜話』を再読した。 
 
 病に伏した皇帝カレル四世と3人の側近たちのチェコ版『デカメロン』で、この時代の雰囲気は格別。

 ただ、様々な女性についての21篇なのに、如何に敬虔かつ貞淑か(或はその逆か)の話になりがちではあるし、カレル四世が夫として誠実であろうとしたのはわかるけれど、3人の妻が若くして出産後数年の内には亡くなることに淡々と触れられているのが、今回は辛かった(王が独身ではいられない立場なのも…)。
 とりわけ好きだったのは「オルガ」や「ブランカ」「スヴィードニツェのアンナ」。

 "王たるものは妻に愛されるべきなのだろうか?”

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5月20日

 キム・チョヨプ/カン・バンファ ユン・ジヨン 訳『この世界からは出ていくけれど』を読んだ。
 
 原書での意図に沿うようにつけられたという日本語版タイトル(同名の短篇はない)が、内容にぴったりで素敵だ。

 自ら選んだ訳ではない与えられた環境にいる、間違いみたいに生まれた世界にいる、旅路の果てにたどり着いた星にいるそれぞれの登場人物たちを、一見頼りなくか細い線(でも確かに)で繋いでいく読み心地だった。
 例えば、その世界から出ていく者と、何処へも行けずに見送る者とのすれ違いほどの邂逅と別離を描いていても、それを哀しい物語にはしないところがとてもよかった。とりわけ好きだったのは、「ブレスシャドー」や「古の協約」「認知空間」。
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5月10日

 マーガレット・アトウッド/大島かおり訳『浮かびあがる』を読んだのだった。
 
 随分古い作品だなぁ…と思ってたら、アトウッドの第二作だった。もうすぐ北烏山編集室さんから出る『リーディング・リスト』の目次に入ってるんだけど、それまで本を読んでこなかった定年退職後の父親に勧める本としてどうだったんだろう…。

 “厄介なのは、わたしたちのからだの上に瘤みたいな頭がのっかっていることだ。”
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5月8日

 バーネット/脇明子訳『秘密の花園』を、ん10年ぶりに読んだ。
 
 子どもの頃から繰り返し読んだお話。
 メアリとコリンが大人たちに都合のいい ”良い子“ ではないところが、今も昔もこの作品を好きな理由として大きいことを、あらためてしみじみ(かんしゃくをかんしゃくでもって鎮めるとか素晴らしいw)。
 そして『デカメロン』を読んだ時もそうだったけれど、文学の中で描かれたパンデミックについて、そこに居合わせた人々の恐怖を少なからずは身を以て知った今だから、そこは感じ方が違っているはず。
 まだ幼いメアリがひとりぼっちで味わった怖さを思うと、“秘密の花園” や友達に出会えて本当によかったねぇ…と。

 昔読んだ本は手元にないので、愛蔵するのにぴったりな素敵な装幀でお迎え出来てとても嬉しい。
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5月1日

 ボッカッチョ/平川祐弘訳『デカメロン 上』を読んだ。
 
 先日の『神曲』の訳注でボッカッチョに触れている箇所が幾つもあって、ますます読んでみたくなった。
 まずは上巻の3日分(1日に10人で10話)。一日目はまだ小手調べな感じで、二日目以降からじわっと面白くなる(まあ、概ね大らかにエロい喜劇…ですw)。例えばダンテの聖職者批判とも響き合う話や、ダンテのパロディのようにも読める話があって興味深いし、シェイクスピア作品の材源になった話を読めたのもよかった。
 『終わりよければすべてよし』を読んだ際のあのもやもや~っと割り切れない感じが、元になった話には殆どない(大らかにエロいのでw)…とか。
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4月22日

 ダンテ・アリギエリ/原基晶訳『神曲 天国篇』を読んだ。
 
 まず、行き届いた各歌解説が素晴らしかった。
 ダンテの抱いた神の真理に近付くことへの絶望の深さが、この作品を書かせたのかと思うと気が遠くなる。
 (神学的理論と哲学用語が頻出する詩…)

 以下、解説からの覚書。
 神がいる至高天は満たされているので静謐であり、原動天(天使の世界)は最も至高天に近いので神を最も欲し最速で回転する。その愛ゆえに天体は神と一体になろうとして回転する。
 自由意志は神から人類への「最大の贈り物」で、神との契約(誓願)は自由意志の放棄で成立する。
 神の本質は知性であり、その知性による認識から自由意志による神への愛がもたらされるとされ、その結果、天上と地上の愛の照応関係が成立する(ゆえに、教皇達が神の調和の表現である法を無視するのは駄目)。
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