9月24日

 リチャード・E・ルーベンスタイン/小沢千重子訳『中世の覚醒 アリストテレス再発見から知の革命へ』を読んだ。
 
 頗る面白かった。そも、何故アリストテレスの “再” 発見なのか。何故偉大な哲学者の膨大な著作は1000年以上も闇に埋もれていたのか…と、歴史を紐解いていく流れは物語を読むようだった。

 アリストテレスの再発見が、当時の聖職者や学者たちに与えた衝撃と興奮は想像するのも難しい。神が存在しないアリストテレスの世界観を、そこから如何にキリスト教徒に容認出来るものに変えていったのか。アリストテレス主義的キリスト教への、保守派と急進派の論文による闘争、禁書、命題の禁止、断罪、粛清…。
 自然の探究者にとっての真理と、神学者にとっての真理の相容れないままの並存。哲学と神学が統合された思想体系の成立した後、時代は信仰と理性の分離に進んでいったことなど。

 今までに読んだ本の内容と重なる部分があるのも面白かった(『書物の破壊の世界史』とか『ヒュパティア:後期ローマ帝国の女性知識人』とか『神曲』とか)。あと、『薔薇の名前』の副読本によさそう(完全版はまだですか…)。
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8月9日

 クラフト・エヴィング商會 著/坂本真典 写真『らくだこぶ書房|21世紀古書目録』を再読した
 
 1997年の秋、“砂時計をひっくり返すようにして” 2052年から『未来の古本たち』の目録がクラフト・エヴィング商會に届けられた。そこから選んで取り寄せた(!)本の数々が紹介されている。

 私がまず読みたいのは、『老アルゴス師と百の眼鏡の物語』かな(百眼の老眼鏡ってw)。ギリシア神話の登場人物たちの老境を描いた大人の童話〈21世紀のギリシア神話〉シリーズ、全部読みたいよ全部。
 茶柱の美学と哲学を説く『茶柱』も読みたいし、てゆか他の本も全部読みたい…。
 あと、装幀フェチとしても堪らない一冊である。

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7月23日

 小川公代『翔ぶ女たち』を読んだ。
 
 頗る面白かった。そして胸熱。
 野上弥生子、ヴァージニア・ウルフ、オースティン、シルヴィア・プラス、『エブエブ』『年年歳歳』『水星の魔女』などなどなど…翔べなかった女たち(エヴリンは翔んだけど!)がここに会し、縦横無尽に繋がり合う。思いがけず、でも説得力がある。

 とりわけ3章「魔女たちのエンパワメント」では『花の子ルンルン』や『白鶴亮翅』『マクベス』にも話が及び、魔女というテーマにも魅かれてとてもよかった。魔女が排除されてきたこと(家父長制社会が「悪魔」とみなすのは、女性の自立を目指す思想とその生き方)、今も続いていること。その為のエンパワメント。
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7月19日

 後藤里菜『沈黙の中世史──感情史から見るヨーロッパ』を読んだ。
 
 中世ヨーロッパの人々にとって言葉とは声であり、キリスト教世界はうるさく声と音とで統治された。一方、沈黙に近いあり方が美徳とされ、沈黙は聖性に結び付けられていく。
 そして聖職者の座から追放された敬虔な女性が口を開くのは、預言者や男性の仲介者の役割としてだった…。

 第五章“聖女の沈黙”ではベギン(半聖半俗の女性たちの活動)について頁が割かれていて、興味深い内容だった。
 心身の服従を示す規範でもあった沈黙、その沈黙がどんな人物たちによって如何に破られていったのか…という過程をめぐる論考でもあり、感情史としてとても面白かった。

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7月17日

 坂月さかな『星旅少年 4』を読んだわ。
 
 久しぶしで嬉しくて1巻から読み返してしまった。どっぷり浸って満足。
 今回は、ジリとスミヒトとピピの幼馴染みが顔を合わせた時の雰囲気も好きだった。
 美味しそうに料理が並んだテーブルの上、部屋の中の細々としたところや背景の街並みまで、いつまでも眺め飽きない。

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7月8日


 わたしたちの定員二名の箱舟に猫も抱き寄す 沈みゆかなむ

 雨があなたの本性だつた だとしても 硝子の窓に沈む紫陽花

 永遠に降るにはか雨、にはかあめ わたしは本を壊してしまふ

 何万回でも逃げ出した猫追ひかける 七月、私たちの永久に続くトランジット

  ──睦月都『歌集 Dance with the invisibles』

#短歌
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6月11日

 小川公代『世界文学をケアで読み解く』を読んだ。
 
 文学作品を通して〈ケアの倫理〉について知ることが出来る。
 物語からのアプローチという方法が、取っ掛かりとしてとても読みやすい。家父長制における女性の役割を指す「家庭の天使」と〈ケアの倫理〉を、どう引き離して考えたらいいのか…という問題は特に気になった。

 『マッドマックス 怒りのデス・ロード』『シブヤで目覚めて』『菜食主義者』『ソラリス』『侍女の物語』『誓願』『犬婿入り』など、そんな風にも読めるのか…と驚いたり。
 そして、エミリー・ブロンテが最期の日まで家族のためのパンを焼こうとした(かも知れない)ことを思い続けてしまう。
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5月31日

 大滝和子『「銀河を産んだように」などⅠ Ⅱ Ⅲ歌集』を読んだ。『人類のヴァイオリン』を愛読してきたので、全三歌集はとても嬉しい。
  
 〈サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい〉
 〈きみと舐めているにあらぬにアイスクリーム羊皮紙へにじむ花文字のあまさ〉
 〈くるおしくキスする夜もかなたには冥王星の冷えつつ回る〉
 〈めざめれば又もや大滝和子にてハーブの鉢に水ふかくやる〉
 〈さみどりのペディキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ〉
 〈相対性理論を習うまなざしの二億秒まえ飼っていた猫〉
 〈ゆえ知らずわれに湧きくる不安をば珍熱帯魚として眺むるも〉
 (「銀河を産んだように」)

 〈きょうもまたシュレディンガーの猫連れてゆたにたゆたに恋いつつぞいる〉
 〈《存在》はとこしえにあるものなりや角度とともに雪降りきたる〉
 〈躰とは脈うつ大陸それぞれの孤独な奴婢に統べられながら〉
 〈超新星ばらまき猫という猫の硝子へだてて耳うつくしき〉
 〈都あり。ゆらぎゆきかうものらみな《その女王》のしもべなるかな〉
 〈昆布茶飲みふとおもいだす 自転車でキュリー夫人は新婚旅行〉
 〈みずからを誰もが《われ》と思いつつこの世の埃吸いこみている〉
 〈卯年(うどし)なる夏目漱石怒りつつ倫敦塔をのぼりつめしか〉
 〈君に背を向けて地球を一周しまた戻りくる音速われは〉
 (「竹とヴィーナス」)
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5月23日

 薩摩秀登『物語 チェコの歴史 森と高原と古城の国』を読んだ。
 
 とても読みやすくて面白かった。
 そも、チェコという国の一貫した通史を書くことはできるのか。中世のチェコ王国と現代のチェコ共和国を、単純につなげて解釈するのは違うのでは…という観点から、時代ごとに特定の人物をとりあげることでチェコ史をたどっていく。
 
 お目当てはカレル四世の時代だったけれど、もっと遡ったモラヴィア王国や聖人アネシュカの章も読めてよかったし、ハプスブルク家の崩壊後の 経緯も、そういうことだったのか…と興味深い内容だった。
 (窓外放擲事件の件があると、思わず「待ってました」となってしまうw)
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4月29日

 週末に届いた『アンナ・コムネナ』5巻、遡って4巻をお浚いしてからの一気読み。
 書影を見た時点で予想していた展開だったし、次巻が最終巻と知って「ああ😢……」てなってる。
 

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