『須賀敦子全集 第2巻』

 『須賀敦子全集 第2巻』読みました。

 “「終点にだれもいないより、神さまがいたほうがいいような気もするわ」
 そう言われてみると、結局はそういうことかと胸にひびくものがあって、やわらかな母の信仰がうらやましかった。” 216頁 

 須賀さんのエッセイをこれまでに、『トリエステの坂道』『ユルスナールの靴』『須賀敦子全集 第1巻』…と読んできました。ですから自ずと、この人はどんな10代を過ごしたのだろう…どんな過程を経てこんな人生を歩むことになったのだろう…と、賛嘆の思いの中で小さな疑問がむくりと頭をもたげます。戦後間もない時期にヨーロッパに遊学してしまうあたり、ちょっと想像を絶する勇気です。

 ミラノやパリで過ごした日々と、日本で家族と共に過ごした更に遥かな記憶との間を、章から章へと渡っては時にさかのぼり時に戻ってくるその筆。時空間を軽々と飛び越えて、追憶同士が繋がってしまうことも。…もしやそこには、記憶の綾なす精巧なレース模様が残されているかもしれない…。
 思い出がまた別の記憶へと通じる扉となる。そこにあるのは、追憶の波のたゆたいそのもの。 

 作品全体を通して、父親を描くことに重点が置かれているような気がするのは、作者自身が“父への反抗を自分の存在理由みたいにしてきた”と語っていることからも、無理のないことかもしれません。
 けれど私は、身勝手な夫に翻弄されていたようで不思議なしなやかさを持っていた母親の方に、より惹かれるものを感じました。
 (2007.1.9)

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