7月に読んだ本

7月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:3961

「烈女」の一生「烈女」の一生感想
未だ、悪人ではなく悪女。烈士ではなく「烈女」…。先日名前を聞いたばかりの相馬黒光(実業家)やプーラン・デーヴィー(盗賊・政治家)、マーガレット・ミード(文化人類学者)の章など、初めて知ることも多かった。ほんの上辺しか知らなかったことも。カミーユ・クローデルについては湯原かの子の著作をかつて読んだが、彼女の無念を思うと何度でも胸が痛くなる。
読了日:07月31日 著者:はらだ 有彩
グールド魚類画帖グールド魚類画帖感想
再読。素晴らしい。暴政が横行する流刑地タスマニア(まず司令官は発狂)。その暴虐と理不尽な死に満ちたクソな世界への怒りと抗議を記して、それでも語り手ビリー・グールドは己の書き連ねた「魚の本」を“愛の物語”と呼ぶ。そしてゆっくりと声なく死んでいく魚の絵を描くとき、“ほんの一瞬の真実”をそこに宿らせたのだと言う。牢に籠められ錯乱気味にもなりつつ、狂った世界へ向かって「絶望してやるもんか」と唾を吐くような手記の凄まじさとその孤独よ。(タツノオトシゴはウロボロスの竜へ…。ぐるり)
読了日:07月30日 著者:リチャード・フラナガン
翔ぶ女たち翔ぶ女たち感想
頗る面白かった。野上弥生子、ヴァージニア・ウルフ、オースティン、シルヴィア・プラス、『エブエブ』『年年歳歳』『水星の魔女』などなどなど…翔べなかった女たち(エヴリンは翔んだけど!)がここに会し、縦横無尽に繋がり合う。思いがけず、でも説得力がある。とりわけ3章「魔女たちのエンパワメント」では『白鶴亮翅』『マクベス』にも話が及び、魔女というテーマにも魅かれてとてもよかった。魔女が排除されてきたこと(家父長制社会が「悪魔」とみなすのは、女性の自立を目指す思想と生き方)、まだ続いていること。その為のエンパワメント
読了日:07月23日 著者:小川 公代
沈黙の中世史 ――感情史から見るヨーロッパ (ちくま新書 1805)沈黙の中世史 ――感情史から見るヨーロッパ (ちくま新書 1805)感想
中世ヨーロッパの人々にとって言葉とは声であり、キリスト教世界はうるさく声と音とで統治された。一方、沈黙に近いあり方が美徳とされ、沈黙は聖性に結び付けられていく。そして聖職者の座から追放された敬虔な女性が口を開くのは、預言者や男性の仲介者の役割としてだった…。第五章“聖女の沈黙”ではベギン(半聖半俗の女性たちの活動)について頁が割かれていて、興味深い内容だった。心身の服従を示す為の沈黙、その沈黙がどんな人物たちによって如何に破られていったのか…という過程をめぐる論考であり、感情史としてとても面白かった。
読了日:07月19日 著者:後藤 里菜
星旅少年4-Planetarium ghost travel- (パイコミックス)星旅少年4-Planetarium ghost travel- (パイコミックス)感想
久しぶしで嬉しくて1巻から読み返してしまった。どっぷり浸って満足。今回は、ジリとスミヒトとピピの幼馴染みが顔を合わせた時の雰囲気も好きだった。美味しそうに料理が並んだテーブルの上、部屋の中の細々としたところや背景の街並みまで、いつまでも眺め飽きない。
読了日:07月17日 著者:坂月 さかな
中野京子と読み解く クリムトと黄昏のハプスブルク中野京子と読み解く クリムトと黄昏のハプスブルク
読了日:07月16日 著者:中野 京子
年年歳歳年年歳歳感想
小川公代『翔ぶ女たち』の前に読んでおきたくなった。声を摘み取られてしまう側にいるひとたちに言葉を与える物語、として。祖父の墓参り(ちゃんとした食器や供え用の料理の大荷物の用意をして、軍事境界線近くの山奥まで…)に拘る母イ・スンイルの昔ながらの信仰のこと、彼女のネガティヴ・ケイパビリティ、母娘でアルファとベータが交互することについて…など思う。“あの子にはそこで生きろと言ったのに、私にはどうしてそう言わなかったの。/帰ってくるなと、/おまえが生きやすいところにいろとあの子には言ったのに。”
読了日:07月15日 著者:ファン・ジョンウン
スピン/spin 第8号スピン/spin 第8号
読了日:07月12日 著者:恩田陸,尾崎世界観,斉藤壮馬
紙魚の手帖Vol.17紙魚の手帖Vol.17感想
お目当ての、川野芽生「不死者の物語──女生徒」を(大好き)。あと、久しぶしに翻訳ミステリを読みたくなった。
読了日:07月12日 著者:貫井 徳郎,堂場 瞬一,川野 芽生ほか
リーディング・リストリーディング・リスト感想
素晴らしい読み応え。学生に“史上最悪の教授”と酷評されたレスリー(日系四世)は、父親にリーディング・リストを作って欲しいと頼まれる。薦めた本(小説を読んだことがない人にいきなりがっつり系)を自分も再読し、内容に自身を取り巻く状況を重ねたり、登場人物を元恋人や親族の誰かに準える読み方をしてしまう(研究者には向いていないらしい)。その一方、同じ本を読みながら父親と向き合い、エキセントリックな一族の秘められた部分を知る。レスリーの鬱状態は酷くなるばかりで、はらはら目が離せなかった。最後の章で胸がいっぱいになった
読了日:07月11日 著者:レスリー・シモタカハラ
デカメロン 下 (河出文庫 ホ 6-3)デカメロン 下 (河出文庫 ホ 6-3)感想
八日目から最終の十日目まで。一篇、また一篇と読んできてとても楽しかった。ただただ唖然とする話も幾つかあって女性の扱い酷いけどw、それも含めての「これが『デカメロン』か…」と面白かった。
読了日:07月09日 著者:ボッカッチョ
『スタア誕生』『スタア誕生』感想
再読。先日読み返した『噂の娘』の姉妹作(内容は続篇なのだが刊行には16年の隔たりがある)。少しずつ変わっていくモナミ美容室と、そこに流れる女たちの時間、主人公の両親のその後のことも、映画女優を夢見る “金魚の娘”みっちゃんの更なる奮闘も、小さな記憶の齟齬を交えながら語られていく。零れていく。“キラキラした明かるい虹色の光のせいで、そこはいつも時間が失われているようなのだ”
読了日:07月03日 著者:金井 美恵子
シャドウプレイシャドウプレイ感想
素晴らしかった。舞台はヴィクトリア朝ロンドン。ブラム・ストーカーが『吸血鬼ドラキュラ』の執筆に至る経緯が、当代一の二人の名優との何とも名付けがたい交わり(深い愛も狂おしい嫉妬も憧れも)を軸に語られる。作中には『ドラキュラ』からの引用や目くばせ、仄めかし、名優アーヴィングが得意としたシェイクスピア劇のセリフの引用やもじりなど惜しみなく鏤められている。繊細で人に優しく夢見がちだったストーカーが、その想像世界の中では邪悪な流血の物語を生み出していた…ということ、その、誰にも見せない昏い顔を持つ人物造形に感嘆した
読了日:07月01日 著者:ジョセフ・オコーナー

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

5月に読んだ本

5月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4473

「銀河を産んだように」などIIIIII歌集 (短歌研究文庫, 5<新お-1>)「銀河を産んだように」などIIIIII歌集 (短歌研究文庫, 5<新お-1>)の感想
『人類のヴァイオリン』を愛読してきたので、全三歌集はとても嬉しい。〈サンダルの青踏みしめて立つわたし銀河を産んだように涼しい〉〈めざめれば又もや大滝和子にてハーブの鉢に水ふかくやる〉〈さみどりのペディキュアをもて飾りつつ足というは異郷のはじめ〉〈ゆえ知らずわれに湧きくる不安をば珍熱帯魚として眺むるも〉〈きょうもまたシュレディンガーの猫連れてゆたにたゆたに恋いつつぞいる〉〈躰とは脈うつ大陸それぞれの孤独な奴婢に統べられながら〉〈超新星ばらまき猫という猫の硝子へだてて耳うつくしき〉
読了日:05月31日 著者:大滝和子
カ-ルシュタイン城夜話カ-ルシュタイン城夜話の感想
再読。病に伏した皇帝カレル四世と3人の側近たちのチェコ版『デカメロン』な設定で、この時代のチェコの雰囲気は格別。ただ、様々な女性についての21篇なのに、如何に敬虔かつ貞淑か(或はその逆か)の話になりがちではある。あと、カレル四世が夫として誠実であろうとしたのはわかるけれど、3人の妻が若くして出産後数年の内には亡くなることに淡々と触れているのが、今回は辛かった(王は独身ではいられない…)とりわけ好きだったのは「オルガ」「ブランカ」「スヴィードニツェのアンナ」──"王たるものは妻に愛されるべきなのだろうか?”
読了日:05月28日 著者:フランティシェク クプカ
きつね月きつね月の感想
再々読。二度と同じ模様にならない言葉たちの万華鏡を覗くよう。“ほとんどの単語は平和条約を結び合っている。ぶつかり合うことがあっても、すぐに抱き合ってしまう。相手の顔を見なくても済むように。(略)ふたつの単語が出会って、わたしたちの自由を奪う。たとえば、巨匠と文学、声と民主主義、休暇と自然。うんざりするような組み合わせを見ると、肺に力が入らなくなる。” “文字たちと尼僧たちは海に向かって走り出し、睡蓮の刺を探すために、衣の裾をめくりあげて、ひらひらと砂浜を渡っていく。自分の肖像画と似ている人が滅多にいないの
読了日:05月24日 著者:多和田 葉子
物語チェコの歴史: 森と高原と古城の国 (中公新書 1838)物語チェコの歴史: 森と高原と古城の国 (中公新書 1838)の感想
とても読みやすくて面白かった。そも、チェコという国の一貫した通史を書くことはできるのか。中世のチェコ王国と現代のチェコ共和国を、単純につなげて解釈するのは違うのでは…という観点から、時代ごとに特定の人物をとりあげることでチェコ史をたどっていく。お目当てはカレル四世の時代だったけれど、もっと遡ったモラヴィア王国や聖人アネシュカの章も読めてよかったし、ハプスブルク家の崩壊後の 経緯も、そういうことだったのか…と興味深い内容だった。(窓外放擲事件の件があると、思わず「待ってました」となってしまうw)
読了日:05月23日 著者:薩摩 秀登
フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者フランスの高校生が学んでいる10人の哲学者
読了日:05月21日 著者:シャルル・ペパン
この世界からは出ていくけれどこの世界からは出ていくけれどの感想
原書での意図に沿うようにつけられたという日本語版タイトル(同名の短篇はない)が、内容にぴったりで素敵だ。選んだ訳ではない与えられた環境にいる、間違いみたいに生まれた世界にいる、旅路の果てにたどり着いた星にいるそれぞれの登場人物たちを、一見頼りなくか細い線(でも確かな)で繋いでいく読み心地だった。例えば、その世界からは出ていく者と、何処へも行けずに見送る者とのすれ違いほどの邂逅と別離を描いていても、それを哀しい物語にはしないところがとてもよかった。好きな作品は「ブレスシャドー」「古の協約」「キャビン方程式」
読了日:05月20日 著者:キム・チョヨプ
感傷ファンタスマゴリィ (創元日本SF叢書)感傷ファンタスマゴリィ (創元日本SF叢書)の感想
とてもよかった。まず耽美で残酷かつ甘苦い毒滴る作風が好みで堪らないのだが、人の嗜虐性や暴力、どす黒い憎悪(例えば人々を“魔女狩り”へと駆り立てるものの正体)をきっちり描く筆致にも痺れる。表題作では“幽霊とは思考の産物” という件からの、己が己であることの確かさがぐらぐら揺るがされ、自己確立の脆さを突き付けられる展開が頗る響いた。「4W」はシスターフッドの物語としても読めるしそこが好きでもあり、「ウィッチクラフト≠マレフィキウム」で見据えているものは性別に関係なく誰もが考え続けるべきことなのだろう…とも思う
読了日:05月17日 著者:空木 春宵
未明01未明01
読了日:05月14日 著者:外間隆史
ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ (中公文庫 か 15-6)ピース・オブ・ケーキとトゥワイス・トールド・テールズ (中公文庫 か 15-6)の感想
再読。素晴らしかった。遠い日々の記憶が弛んで寄り集まり、褪色したモザイク模様になる。過去に凝る茫洋とした時間の淵から掬い上げられる、鮮やかなイメージと繰り返すその語り直しに、ふと眩暈する読み心地だった。とりわけ、何度も出てくる “まゆみの生垣” をめぐらし曲がりくねった狭い道の描写は、時間を行き来してとめどない語り口そのものとも重なる。“それとも、いつかこの今の瞬間、今こうして見ている月と、この道と、風と、こうして今わたしの感じているすべての感覚を思い出すことがあるだろうか。”
読了日:05月14日 著者:金井 美恵子
浮かびあがる浮かびあがる
読了日:05月10日 著者:マーガレット アトウッド
秘密の花園秘密の花園の感想
偏愛本。子どもの頃から繰り返し読んだお話。メアリとコリンが大人たちに都合のいい ”良い子“ ではないところが、今も昔もこの作品を好きな理由として大きいことを、あらためてしみじみ(かんしゃくをかんしゃくでもって鎮めるとか素晴らしいw)。そして『デカメロン』を読んだ時もそうだったけれど、文学の中で描かれたパンデミックについて、そこに居合わせた人々の恐怖を少なからず身を以て知った今だから、そこは感じ方が違っているはず。幼いメアリがひとりで味わった怖さを思うと、“秘密の花園”や友達に出会えて本当によかったねぇ…と
読了日:05月08日 著者:F.H.バーネット
殴り合う貴族たち (文春学藝ライブラリー 歴史 29)殴り合う貴族たち (文春学藝ライブラリー 歴史 29)
読了日:05月07日 著者:繁田 信一
デカメロン 上 (河出文庫 ホ 6-1)デカメロン 上 (河出文庫 ホ 6-1)の感想
先日の『神曲』の訳注でボッカッチョに触れている箇所が幾つもあり、ますます読んでみたくなった。まずは上巻の3日分(1日に10人で10話)。一日目はまだ小手調べな感じで、二日目以降からじわっと面白くなる(まあ、概ね大らかにエロい…w)。ダンテの聖職者批判とも通底する話や、ダンテのパロディのようにも読める話があって興味深いし、シェイクスピア作品の材源になった話を読めたのもよかった。『終わりよければすべてよし』を読んだ際のあのもやもや~っと割り切れない感じが、元になった話には殆どない(大らかにエロいのでw)…とか
読了日:05月01日 著者:ボッカッチョ

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

4月に読んだ本

4月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:3980

アンナ・コムネナ 5 (星海社COMICS)アンナ・コムネナ 5 (星海社COMICS)
読了日:04月29日 著者:佐藤 二葉
シェイクスピアの記憶 (岩波文庫 赤792-10)シェイクスピアの記憶 (岩波文庫 赤792-10)
読了日:04月26日 著者:ホルヘ・ルイス・ボルヘス
源氏物語 5 (河出文庫 か 10-10)源氏物語 5 (河出文庫 か 10-10)の感想
再読(角田源氏は初めて)。「若菜」から「鈴虫」まで。「若菜」は流石の面白さで、容赦ない因果応報の巻。もうそんなことも起こるまい…と安心していた矢先、光源氏に信頼を裏切られた紫の上は、それまで考えてもみなかった将来への不安まで抱く(辛…)。女三の宮を迎えることを決めた光源氏が、以前と同じように紫の上が妬いてくれると思い込んでいる辺り、如何なものか。紫の上から見て、女三の宮は嫉妬するには身分が高過ぎるし、そもそういう気持ちが薄れて心が離れつつあることもわからないのか…など。女三の宮もただ気の毒で…。
読了日:04月25日 著者:
快適生活研究 (朝日文庫 か 30-5)快適生活研究 (朝日文庫 か 30-5)の感想
再読。目白連作の短篇集、面白くてつい読み耽ってしまう。未熟で鈍感な自己愛を持ち、慢性的な幸福に陥った人たちの “憎々しいおかしさ” が、これでもかと絶妙な按配に描かれていて堪らない。とりわけ、長々しい手紙を書く癖(ヘキ)をお持ちのアキコの造形には引きこまれた。(“おちこぼれ系” のおばさんや桃子たちは相変わらず)
読了日:04月23日 著者:金井 美恵子
神曲 天国篇 (講談社学術文庫)神曲 天国篇 (講談社学術文庫)の感想
ダンテの抱いた神の真理に近付くことへの絶望の深さが、この作品を書かせたのかと思うと気が遠くなる。以下、解説からの覚書。神がいる至高天は満たされているので静謐であり、原動天(天使の世界)は最も至高天に近いので神を最も欲し最速で回転する。その愛ゆえに天体は神と一体になろうとして回転する。自由意志は神から人類への「最大の贈り物」で、神との契約(誓願)は自由意志の放棄で成立する。神の本質は知性であり、その知性による認識から自由意志による神への愛がもたらされるとされ、その結果、天上と地上の愛の照応関係が成立する
読了日:04月22日 著者:ダンテ・アリギエリ
道化師の恋 (河出文庫 か 9-4 BUNGEI Collection)道化師の恋 (河出文庫 か 9-4 BUNGEI Collection)の感想
再々読。金井美恵子を読みだすと後を引く(特に目白連作)。善彦がナボコフの『青白い焔』を読んでいたので、私も読み返したくなってしまった。
読了日:04月16日 著者:金井 美恵子
レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳「源氏物語」レディ・ムラサキのティーパーティ らせん訳「源氏物語」の感想
とても素晴らしかった。まず、〈らせん訳〉とは何ぞや…それは、A・ウェイリーが成した『源氏物語』の英語版から日本語に訳す〈戻し訳〉が、多層的時間空間を巻き込んでらせん状になる(直線的な翻訳ではない)ことから名づけられた。例えば、光源氏の“光”がシャイニングという単語に置き換わったとき、光源氏のこの世を越えた神々しさが、いつか月に帰るかぐや姫と同様なものとして伝わってくる(だから彼の色好みはゼウスのそれに近い、とか)。源氏物語の重層性(和歌の本歌取りや歴史書への言及など)に共鳴させるように、(続く)
読了日:04月15日 著者:毬矢 まりえ,森山 恵
源氏物語 4 (河出文庫 か 10-9)源氏物語 4 (河出文庫 か 10-9)の感想
再読(角田源氏は初めて)。今のタイミングで「蛍」の物語論を読むと、「光る君へ」のまひろの声で響いてくるような気がする。そして「藤裏葉」の大団円。おそらくここまでで紫式部は一旦筆を置いたのではないか、という話を聞いた。いよいよ次巻で「若菜」。(あと、玉鬘にねっとり執着する光源氏、普通に気持ち悪いんだが? と思いましたw)
読了日:04月11日 著者:
彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄 (朝日文庫 か 30-1)彼女(たち)について私の知っている二、三の事柄 (朝日文庫 か 30-1)の感想
再読。──“そこに夢見るものなんか、何もないけれど”。『小春日和(インディアン・サマー)』からほぼ10年後の、桃子、花子、小説家のおばさんたちを描いた姉妹作。少し本整理をしようとして目に留まり、懐かしさについ読み耽ってしまった。(フローベール『紋切型辞典』が出てくるとにやにやしてしまう)
読了日:04月10日 著者:金井 美恵子
神曲 煉獄篇 (講談社学術文庫)神曲 煉獄篇 (講談社学術文庫)の感想
引き続き、素晴らしい各歌解説のお蔭でとても面白い。以下、解説からの覚書。ダンテは地獄のような世界を糾弾し、その報われない現実の中で人はいかに生きればよいのかを考察している。煉獄篇は〈友情篇〉という別名を持つ(友情をもとにした調和の世界の再構築)。第九歌から主題と表現が更に高度化し、読者にアレゴリー的解釈を呼びかけている。愛と自由意志との関係の前提に、タブラ・ラサ「白紙」理論がある(神がそこに“第一概念”を書き込む)。第21歌から第26歌までの主題は詩。
読了日:04月08日 著者:ダンテ・アリギエリ
セシルの女王 (6) (ビッグコミックス)セシルの女王 (6) (ビッグコミックス)
読了日:04月02日 著者:こざき 亜衣
ゴシックと身体──想像力と解放の英文学ゴシックと身体──想像力と解放の英文学の感想
19世紀におけるゴシック小説が果たした役割を読み解く、“戦術”という切り口が頗る面白かった。フランス革命、バラッド的テーマの流行、当時の自己保存の思想…などが重なって生まれた特異なジャンルが、新しいヒロイン像を描くことで、家父長的な文化に異議を唱えたり女性解放のテーマを推し進めることになっていく。『ユドルフォの謎』の想像力と空想力の件、『放浪者メルモス』にある結婚というメタファー、『嵐が丘』の「内なる神」という思想、マイノリティ性を抱える人たちのヴァンパイア物語…など、「なるほど!」と頷きまくりだった。
読了日:04月02日 著者:小川 公代

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

3月に読んだ本

3月の読書メーター
読んだ本の数:12
読んだページ数:4172

スピン/spin 第7号スピン/spin 第7号
読了日:03月31日 著者:恩田陸,尾崎世界観,斉藤壮馬
メイド服とレインコート: ブリティッシュ・ファッションの誕生メイド服とレインコート: ブリティッシュ・ファッションの誕生の感想
再読。ブリティッシュ・ファッションの起源を19世紀後半から1920年頃に求めた考察。ヴィクトリア朝後期、そこそこの経済力を持つミドルクラスが台頭するが、彼らの多くは色彩音痴だった(なんと!)。フランスへのコンプレックスを克服する為の努力から生み出された、イギリスらしいファッション。例えば女性用乗馬服は、男性スーツが完成させた地味なエレガンスを、乗馬服の美的近代化に向けた結果、モダンな健康美と洗練というイギリス人らしさを表すのに最適な女性服となった。メイド服は、雇用主と使用人の間の階級闘争から生まれた…など
読了日:03月29日 著者:坂井 妙子
神曲 地獄篇 (講談社学術文庫)神曲 地獄篇 (講談社学術文庫)の感想
行き届いた素晴らしい各歌解説のお蔭もあり、とても面白い。以下、解説からの覚書。ダンテは、ローマ皇帝権による世界全体の平和をもたらすために『神曲』の名声を求め、それがキリスト教的な善に合致すると言っている。古典古代をキリスト教の中に取り込んでいく(例えば『変身物語』はキリスト教的に解釈される)。ベアトリーチェは天国で神を見ている。商業経済への過渡期の文学という側面。『神曲』は、“西欧中世の戦闘的な文化を転換する原動力の一つになった”。
読了日:03月27日 著者:ダンテ・アリギエリ
アイルランド紀行 - ジョイスからU2まで (中公新書 2183)アイルランド紀行 - ジョイスからU2まで (中公新書 2183)
読了日:03月25日 著者:栩木 伸明
中世の写本の隠れた作り手たち:ヘンリー八世から女世捨て人まで中世の写本の隠れた作り手たち:ヘンリー八世から女世捨て人までの感想
とても面白く読んだ。昔に生きた人々と今が、写本でどう結びつくのか。忘却に埋もれた庶民の姿を垣間見せ、普遍的な思いやその社会の集合的記憶を伝えてくる写本。〈画工たち〉の章では、名もなき職人集団の技に感嘆して口絵を見るのが楽しかった。〈隠れた著者たち〉の章では、自分の言葉をテクストに残せた稀有な女性たちの存在が忘れがたい。後の時代の写字生の余計なミソジニー解釈で、自作の内容を改変されてしまう女性作家マリーのこと(その流れも含めての“写本”だが)。大胆な性表現さえ臆せず使ったウェールズの女性詩人メハインのこと。
読了日:03月22日 著者:メアリー・ウェルズリー
カストロの尻 (中公文庫 か 15-5)カストロの尻 (中公文庫 か 15-5)の感想
再読。堪能した。とりわけ好きなのは、「呼び声、もしくはサンザシ」と「『胡同(フートン)の素馨(ジャスミン)』」「廃墟の旋律」、そして表題作。岡上淑子のフォト・コラージュ作品に揺曳されたイメージの連なりに引きこまれる。まるで… “フランスの香水の小さなガラス瓶” ── “いわば香りのミイラが箱の中から微かにゆらいで立ちのぼる”。白樺派の特権意識について書かれた、「小さな女の子のいっぱいになった膀胱について」も面白かった。小さな森茉莉(というか森娘!)とパッパがちらっと出てくる。
読了日:03月18日 著者:金井 美恵子
エステルハージ博士の事件簿 (河出文庫 テ 8-2)エステルハージ博士の事件簿 (河出文庫 テ 8-2)の感想
再読。やはり面白くて隅々まで大好きだった。ペダンティックではありつつどこか飄然とした作風が、エステルハージ博士その人の風変わりな魅力にも重なる。一筋縄ではいかない三重帝国の人々が織りなす、一筋縄ではいかない怪奇な事件とその謎の行方…。お気に入りは「神聖伏魔殿」(なぜか皆“縫い取りのあるチョッキを掴んで…堆肥の山に倒れ込む”)、「イギリス人魔術師 ジョージ・ペンバートン・スミス卿」、「真珠の擬母」(オンディーヌ!)。そして今回は、「夢幻抱影 その面差しは王に似て」の夢の一片を追うような儚さがあらためて沁みた
読了日:03月15日 著者:アヴラム・デイヴィッドスン
片山廣子随筆集 ともしい日の記念 (ちくま文庫 か-88-1)片山廣子随筆集 ともしい日の記念 (ちくま文庫 か-88-1)の感想
アイルランド文学(特にケルトの幻想文学の印象が強い)の翻訳家として、そして歌人としての作品にはふれたことがあるが、随筆を読んだのは初めて。美しい文章が心地よかった。“私がたのもしく思つても思はなくても北の星に何の感じがあらうか? それにしても、昔からきまつたあの位置に、とほく静かにまばたきもしないで、むしろ悲しさうな顔を見せてゐる星はすばらしいと思ふ。すべての正しいもののみなもとである神も、あの星のやうに悲しい冷たい静かなものであらうか? 私はさう信じたい。”
読了日:03月13日 著者:片山 廣子
ユドルフォ城の怪奇 下ユドルフォ城の怪奇 下の感想
頗る面白かった。“ゴシック小説を読んだ!”という満足感にどっぷり。ピラネージの装画のイメージも相俟っておどろおどろしい内容を期待していたが、存外それほど満遍なく怪奇…という訳でもなく(ユドルフォ城は充分に不気味でよい)、非の打ちどころのないヒロイン・エミリーが恋をしたり非現実的な苦境を乗り越えていく展開は痛快なほど。とりわけ、何かと気絶してしまうエミリーが実は気骨ある女性で、己を利用しようとする輩に屈しないところが好きで感嘆した。当時このような女性を描いたということに、とても意義があったのではないか…と。
読了日:03月11日 著者:アン・ラドクリフ
ユドルフォ城の怪奇 上ユドルフォ城の怪奇 上の感想
訳者解題にもあるけれど、マダム・シェロンの造形が忘れがたい。そして、「崇高と恐怖」というテーマ。“しかし、このような心を期待で高揚させる「恐れ」とは純粋に崇高なものなのであり、一種の魅了作用によって、思わず縮みあがってしまうような事物にさえ、我々を引きつけてしまうものなのだ。”
読了日:03月07日 著者:アン・ラドクリフ
神作家・紫式部のありえない日々 4巻 (ZERO-SUMコミックス)神作家・紫式部のありえない日々 4巻 (ZERO-SUMコミックス)
読了日:03月06日 著者:D・キッサン
眠りの館眠りの館の感想
一篇一篇、息を詰めてしまう。凍てて美しくグロテスクで、どこまでが夢でどこからが異様な幻視なのか…と眩暈しながら。アンナ・カヴァンの作品群に魅了されて久しいので、Bの孤独もAの憂鬱も既に馴染みのようだった(例えばリジャイナがいてガーダがいて)。硬く閉ざした心の強張りも、絡みつく不安の感触も、ひりりと懐かしいままだ。“とはいえ、ときおり虎が羨ましく思えました。(略)そんなときは、深い傷から血が流れるように、気弱な愛が苦しいほどにこの身からあふれるのを感じたものです。”
読了日:03月04日 著者:アンナ・カヴァン

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

2月に読んだ本

2月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4442

塔のない街塔のない街の感想
隅々まで堪能して、大変満足だ。皮肉でどこか揶揄い気味な語り口も、洒脱な文章もとても心地よかった。作者には異端好みな翻訳家のイメージを持っていたが、以前某所で “今澁澤龍彦” などと称されていたことを思い出し、なるほど…とあらためて頷いたり。お気に入りは「窓通信」や「舌学者、舌望に悶舌す」、「秋の夜長の夢(ド・ポワソン著)」。
読了日:02月29日 著者:大野 露井
女教皇・女帝 (アルケミスト双書 タロットの美術史〈2〉)女教皇・女帝 (アルケミスト双書 タロットの美術史〈2〉)
読了日:02月29日 著者:鏡 リュウジ
夜明けの花園夜明けの花園の感想
大好きな理瀬シリーズの短篇集(2篇が再読)。理瀬シリーズは北見さんの装幀でそれも嬉しい。とりわけ『麦の海に沈む果実』はかつて幾度も読み返した作品なので、“またここに戻ってきた” 感に捕らわれたし、そういうことだったのか…と記憶を呼び覚まされていく快感が堪らなかった(ヨハンがあの時言ってたのこれだなぁ…とか)。今回は聖が好きだったから、いつかまた出てきて欲しい。お気に入りは再読の2篇「水晶の夜、翡翠の朝」と「睡蓮」、初読の「月蝕」。
読了日:02月28日 著者:恩田 陸
ユリシーズ 4 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-4)ユリシーズ 4 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-4)の感想
とても面白かった。とりわけ言葉への執拗な拘りや言語遊戯などについては、偏に訳注のお蔭で楽しめた。その一方で、何から何まで明け透けな小説が好きなわけではないので(ちょっとぼかしてくれ…)、その点は割り切らなければいけなかったり。第十七挿話「イタケ」の教義問答形式は、ふっ…と笑えて好きだった。ここで出てくるモリーの関係者リストwの答え合わせが、最終挿話「ペネロペイア」で出来るのかと思いきやそうでもなかったり、最後までブルームの性格がはっきりわからないところもよい(妻の不義のお膳立て? そんなオデュッセウス…?
読了日:02月27日 著者:ジェイムズ・ジョイス
ユリシーズ 3 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-3)ユリシーズ 3 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-3)の感想
とても面白く読めている(これも偏に訳注のお蔭)。とりわけ第十四挿話「太陽神の牛」の文体パスティーシュには圧倒された。古代英語から順々に時代を下って書かれているそうだが、ラテン語散文直訳体は明治の漢文くずしとか、ロレンス・スターンの文体は三遊亭円朝の人情噺の文体、本居宣長の擬古文、石田梅岩の文体とか平田篤胤『古道大意』の文体…とかとか凄い(マニアックw)。それでその内容は、婦人科病院の一室で管を巻く男どもの“猥談の宴”って何なのww 巻末のエッセイも面白くて、『ブヴァールとペキュシェ』続編説にはのけ反った。
読了日:02月21日 著者:ジェイムズ・ジョイス
作りたい女と食べたい女 5 (it COMICS)作りたい女と食べたい女 5 (it COMICS)
読了日:02月15日 著者:ゆざき さかおみ
ユリシーズ 2 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-2)ユリシーズ 2 (集英社文庫 ヘリテージシリーズ J 1-2)の感想
とても面白く読めている。これは偏に膨大かつ丁寧な訳注のお蔭だなぁ…と。第九挿話のスティーヴンの《ハムレット》論(登場人物をシェイクスピアの家族に置き換えたりw)や、第十二挿話内に挿入される文体パロディ(こういうの割と好き。33もあるw)、第十三挿話における女性向け大衆小説文体からのブルームのク○っぷり、などなど。あまり感じの良いひとは出てこない気がするが、解説にある「ダブリン気質」を聊か誇張して描いている…ということだろうか。
読了日:02月15日 著者:ジェイムズ・ジョイス
バーナード嬢曰く。 (7) (REXコミックス)バーナード嬢曰く。 (7) (REXコミックス)
読了日:02月12日 著者:施川 ユウキ
ユリシーズ 1 (集英社文庫)ユリシーズ 1 (集英社文庫)の感想
漸く遂に読み始めた。流石に面白いけれど訳注が多くて行きつ戻りつ、とても時間がかかるので先は長いなぁ…と。ギリシャ神話もシェイクスピアも一応好きなので(詳しいわけでは全然ないがw)、そういうところから楽しんでいければ。めも)スティーヴンは自分をテレマコスおよびハムレットに見立てている。へレンズやマリガンは求婚者たち、ハムレットの叔父。
読了日:02月12日 著者:ジェイムズ・ジョイス
作りたい女と食べたい女 4 (it COMICS)作りたい女と食べたい女 4 (it COMICS)
読了日:02月09日 著者:ゆざき さかおみ
ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇 (岩波文庫 赤416-6)ミヒャエル・コールハース チリの地震 他一篇 (岩波文庫 赤416-6)の感想
お目当ての「ミヒャエル・コールハース」がとても面白かったので満足。解説を読んで、多和田葉子の『エクソフォニー』を読み返したくなった。“つまりは、世の中の人たちは彼の思い出を祝福したにちがいない、もし彼が、ある一つの徳について度を越えたふるまいをしていなかったとすれば。しかし、正義の感情が彼を人殺しの盗賊としたのだった。”
読了日:02月06日 著者:クライスト
愚者・奇術師 (アルケミスト双書 タロットの美術史〈1〉)愚者・奇術師 (アルケミスト双書 タロットの美術史〈1〉)
読了日:02月03日 著者:鏡 リュウジ
リリアン卿:黒弥撒リリアン卿:黒弥撒の感想
十九世紀末の、オスカー・ワイルド事件や作者自身が起こした「黒ミサ事件」を元に描かれた鍵小説。爛熟と頽廃と、“花と香水と病的な精神の狂宴"…の中、貪婪と恥に塗れていくナルキッソスの如きリリアン卿の物語。“十五歳。可愛らしく、瑞々しく、生命に満ちて、それが何かもわからぬままに愛を渇望する。愛については本で読んだだけ、あるいは夢に心の声を聞いただけである。”
読了日:02月02日 著者:ジャック・ダデルスワル=フェルサン

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

1月に読んだ本

1月の読書メーター
読んだ本の数:15
読んだページ数:5267

若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)若い藝術家の肖像 (集英社文庫ヘリテージシリーズ)
読了日:01月31日 著者:ジェイムズ・ジョイス
本の背骨が最後に残る (文芸書・小説)本の背骨が最後に残る (文芸書・小説)の感想
大変に好みな短篇集。血の臭気に塗れて悍ましくて酷くて、それでも…容赦のない美しさが胸を衝く。人の嗜虐性や暴力、痛覚、身体改造などへの拘りからも目を逸らせなくなる。そして “物語に淫した” という言葉にぎくっ、射竦められた。とりわけ好きだったのは、表題作や「ドッペルイェーガー」(これ、男女が逆だったらあの話…)、「痛妃婚姻譚」(絢爛に飾り立てられた搾取、怖過ぎる)、「本は背骨が最初に形成る」(“焼くのが先か──”)。
読了日:01月29日 著者:斜線堂有紀
源氏物語 3 (河出文庫 か 10-8)源氏物語 3 (河出文庫 か 10-8)の感想
再読(源氏物語は他の訳者で幾度か読んだが、角田源氏は初めて)。ますます話が面白くなっていくので、凄いな…と感嘆しつつ、読んだばかりの『みんなで読む源氏物語』の角田訳について取り上げている章の内容を思い出しつつ(なるほど草子地の魅力)、堪能した。
読了日:01月26日 著者:
BlueBlueの感想
ヒカリ先生の『姫と人魚姫』の文章にも、『人魚姫』の解釈やアンデルセンについて触れている件にもとても魅かれた(滝上さん素敵だ)。演劇部員たち(皆一人称が違うw)のべたべたしない距離感の会話も心地よい。真砂として人魚姫を演じた主人公が、眞靑として人魚姫の陥った「憐れみ」を繰り返していた。
読了日:01月24日 著者:川野 芽生
ロゴスと巻貝ロゴスと巻貝の感想
素晴らしかった。本を読みたい…というそれだけの思い、こちらにまで溢れてきて何とも切なくなったり。そして、自由で幅の広い「読書」への羨望すら覚える読み心地だった。ゆっくりと読み返したいおとっときな一冊になった。
読了日:01月23日 著者:小津夜景
みんなで読む源氏物語 (ハヤカワ新書)みんなで読む源氏物語 (ハヤカワ新書)
読了日:01月22日 著者:川村裕子,ニシダ(ラランド),俵万智,安田登,三宅香帆,宮田愛萌,鴻巣友季子,円城塔,毬矢まりえ,森山恵,全卓樹,小川公代,近藤泰弘,山本貴光,角田光代
スピン/spin 第6号スピン/spin 第6号
読了日:01月21日 著者:恩田陸,尾崎世界観,斉藤壮馬
シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)シェイクスピア全集 (7) リチャード三世 (ちくま文庫)の感想
再々読。流石の面白さ。冒頭の言葉通りにこの世を憎む悪党に成り果せ、その後すみやかに堕ちてゆくリチャード3世。今回は『リチャード二世』からの時系列で読み返してきたので、あらためて「王様が禍根を残したらダメ!絶対!」と強く思った。後々の代が被る災いのスケールが凄過ぎる(血で血を洗う骨肉の、、)。なぜこれほどにリチャード3世が悪として描かれたのかについては、ヘンリー7世の王位継承権が貧弱だった所為だということだが、王位の正統性をめぐってあんなにヨークとランカスターが対立して闘ってきたことを思うと、何という皮肉か
読了日:01月19日 著者:W. シェイクスピア
ヘンリー六世 シェイクスピア全集 19 (ちくま文庫 し 10-19)ヘンリー六世 シェイクスピア全集 19 (ちくま文庫 し 10-19)の感想
再読。フランスとの百年戦争があって、更に国内ではとうとう薔薇戦争が…という流れで、内容も濃ゆいし(その分長いしw)見せ場もたんもりで流石の面白さ。第一部の乙女(かつ魔女)ジャンヌ・ダルクや、第二部からの王妃マーガレットがそれぞれに強烈な印象を残す。ランカスターとヨーク間の謀略の応酬、相次ぐ裏切り、からの更にまた寝返り…の展開で目が離せなくなる。
読了日:01月18日 著者:W. シェイクスピア
シェイクスピア全集30 ヘンリー五世 (ちくま文庫)シェイクスピア全集30 ヘンリー五世 (ちくま文庫)
読了日:01月16日 著者:W. シェイクスピア
最新版 指輪物語6 王の帰還 下 (評論社文庫)最新版 指輪物語6 王の帰還 下 (評論社文庫)の感想
やっと読めました。嬉しい。そして素晴らしく面白かった。うん10年前に挫折したこの作品を読みたくなったきっかけは、北欧神話のラグナロクの思想を受け継いでいると知ったことだった。そういう点でも「なるほど…」と思うことしきりで、いずれまた関連本なども読んでみたい。
読了日:01月15日 著者:J・R・R・トールキン
最新版 指輪物語5 王の帰還 上 (評論社文庫)最新版 指輪物語5 王の帰還 上 (評論社文庫)
読了日:01月12日 著者:J・R・R・トールキン
メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)メアリ・ジキルと囚われのシャーロック・ホームズ (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)の感想
〈アテナ・クラブの驚くべき冒険〉はこれで完結かぁ…。でも頗る面白かったので満足! シリーズ一作目でマッド・サイエンティスト(ハイドやラパチーニやモロー博士やら)の娘たちが出てきたときは、なにこの豪華メンバー…と思ったけれど、元の彼女たちはいなかったことになっていたり脇に置かれて言葉を封じられた存在だった。そんなモンスター娘たちが痛快な冒険を繰り広げ敵と闘い、そして自分たちの居場所と家族を得る話だったなぁ…と振り返って胸熱だ。皆が口を挿んでくる語りも楽しかった。(ヴィクトリア朝期の登場人物も更に豪華w)
読了日:01月10日 著者:シオドラ・ゴス
潜水鐘に乗って潜水鐘に乗っての感想
コーンウォールの自然や昔話を背景にした短篇集。訳者あとがきに、井村君江さんの書籍を参考にしたとあり、なるほど…と。好きだったのは、表題作や「窓辺の灯り」、「精霊たちの家」「ミセス・ティボリ」。
読了日:01月08日 著者:ルーシー・ウッド
かわいいピンクの竜になるかわいいピンクの竜になるの感想
潔く凛としたピンク。私もピンクには思うところがこもごもあり、過去のあれこれを苦々しく思い出す。そしてまた、自分に身体があるという現実を無理やり突きつけられる気持ち悪さ、憤りにも覚えがあって、そのことについて言語化されている件では頷きまくった。『指輪物語』を読んでいる最中なので「エルフは眠らない」の章はとても楽しかった。elvish(エルフっぽい)という賛辞がやり取りされる〈Tolkien 2019〉での川野さんの装いは、描写を読んでいるだけでも本当に素敵で、夢のような日々の心地が伝わってきてうっとりした。
読了日:01月01日 著者:川野芽生

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

12月に読んだ本

12月の読書メーター
読んだ本の数:13
読んだページ数:4332

最新版 指輪物語4 二つの塔 下 (評論社文庫)最新版 指輪物語4 二つの塔 下 (評論社文庫)
読了日:12月29日 著者:J・R・R・トールキン
最新版 指輪物語3 二つの塔 上 (評論社文庫)最新版 指輪物語3 二つの塔 上 (評論社文庫)
読了日:12月27日 著者:J・R・R・トールキン
クリスマスの殺人 クリスティー傑作選クリスマスの殺人 クリスティー傑作選の感想
どの短篇も既読だったけれど、函入りの装幀が気に入って二年前にお迎えした冬がテーマの傑作選。クリスマスのうちに読まないとまた一年先になってしまう…と思って。クリスティーが久しぶりで堪能した。
読了日:12月25日 著者:アガサ クリスティー
大仏ホテルの幽霊 (エクス・リブリス)大仏ホテルの幽霊 (エクス・リブリス)の感想
とてもよかった。1950年代後半の韓国の港町仁川、実在の大仏ホテルを舞台に描かれたゴシックスリラー(でもある)。ホテルにはシャーリイ・ジャクスンがチェックインするし、エミリー・ブロンテも微妙な具合には絡んでくる。先に『丘の屋敷』を読み返したので、語り手の一人であるヨンヒョンはエレーナであるし、他の登場人物たちの中にもエレーナがいると思えて辛くなった。ヨンヒョンが何度も使う言葉「魅了される」も胸に引っかかって痛い。“シャーリイ・ジャクスン……たぶんこの人は、恨(ハン)という言葉を理解できるんだろう。”
読了日:12月21日 著者:カン・ファギル
丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1)丘の屋敷 (創元推理文庫 F シ 5-1)の感想
再読。ずっと居場所がなかったエレーナは、報われ満たされることもないそれまでの人生と、冴えない自分への鬱屈から抜け出すことを望んでいた。丘の屋敷の怪異に魅入られていく彼女の姿は、まさにそこに “つけ込まれた” 者のそれなのだろう。人としてごく普通の弱さにつけ込む、丘の屋敷の “邪悪” の前には、誰もが無力だった…という救いのなさに戦慄する。そしてシャーリイ・ジャクスンの容赦のなさに感嘆した。“わたしはここにいる。わたしはここにいる──彼女は喜びにぐっと目をつぶり、それから取りすました声で博士に言った。”
読了日:12月19日 著者:シャーリイ ジャクスン
ヘンリー八世 (ちくま文庫)ヘンリー八世 (ちくま文庫)の感想
再読。
読了日:12月15日 著者:W. シェイクスピア
フジモリ式建築入門 (ちくまプリマー新書 166)フジモリ式建築入門 (ちくまプリマー新書 166)の感想
建築とは何か──。神の住まいとしてはヨーロッパ建築史をたどることで、人の住まいとしては日本の住宅の変遷に着目することで語られる。例えば、“民家” は神殿や教会とは違い、その時代の普通の人々の無意識の世界と如何に深くつながっているか…という話は、私には意外な観点でとても面白かった。 “人は、自分の時間的アイデンティティを、目に映るものが変らないことで確認している。” “建築は記憶と美の器。民家は生活と無意識の器。”
読了日:12月13日 著者:藤森 照信
名画と建造物名画と建造物
読了日:12月12日 著者:中野 京子
湖畔地図製作社湖畔地図製作社の感想
大好きな長野ワールドとスコープオブジェのコラボレーション、なんて美しく濃ゆい…(と、ため息しか出ない)。頁から頁へと異世界をたどって行きつ戻りつ、幾度も眺めて見惚れていられる。そして凝った装幀といい手元に潜ませておきたい宝物みたいなサイズ感といい、まず本そのものがオブジェとして素敵で流石だ。
読了日:12月12日 著者:長野まゆみ
シェイクスピア全集24 ヘンリー四世 全二部シェイクスピア全集24 ヘンリー四世 全二部の感想
再読。初読時は刊行順だったので、今回は『リチャード二世』からの時系列で読めて、流れがわかりやすくなりよかった。ハル王子とフォルスタッフの行状と掛け合いは見どころだが、とりわけフォルスタッフの出番の長いことよ。やり過ぎで露悪気味なこの人物が、シェイクスピアの登場人物の中でも人気があるというのは、何だかイギリスらしい…。“名誉ってなんだ? 言葉だ。名誉って言葉に何がある? 名誉ってやつぁ何だ? 空気だ。結構な結論だ。名誉の持ち主は誰だ? この水曜日に死んだやつ。そいつは名誉にさわれるか?”
読了日:12月11日 著者:シェイクスピア
シェイクスピア全集26 リチャード二世 (ちくま文庫)シェイクスピア全集26 リチャード二世 (ちくま文庫)の感想
再々読。“さあみんな、この大地に坐り、/王たちの死にまつわる悲しい物語をしよう──/ある王は退位させられ、ある王は戦争で虐殺され、/ある王は自分が退位させた王の亡霊に取り憑かれた、/妻に毒殺された王、寝ているうちに殺された王──/みな殺害されたのだ。” “下の庭へ? 下へ降りる? 裁きの庭へ、王は落ちる!”
読了日:12月08日 著者:W. シェイクスピア
最新版 指輪物語2 旅の仲間 下 (評論社文庫)最新版 指輪物語2 旅の仲間 下 (評論社文庫)の感想
うん10年前に一度挫折したのだが、言及されることの多い作品なので読めていないことが気にはなっていた。「北欧神話からの思想を受け継いでいる」という話を聴いたのも、あらためて興味を持つきっかけになった。という訳で最新版で読み始めたら、今回は面白い…です(そんな予感はあったw) あまり間を開けずに続きへいきたい。
読了日:12月07日 著者:J・R・R・トールキン
夢の扉: マルセル・シュオッブ名作名訳集夢の扉: マルセル・シュオッブ名作名訳集の感想
どの作品も翻訳違いで再読。なのだが、流石は “十二人の翻訳者の手になる名作名訳” はとても贅沢な内容でうっとりする読み心地だった。とりわけ戦前の文章の味わい深さは格別でもあり、そもシュオッブの名文家ぶりが往時の仏文学者や詩人たちを如何に魅了し、その翻訳に腕を振るわせたかが窺われる。素晴らしい作品集だった。
読了日:12月04日 著者:マルセル・シュオッブ

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

11月に読んだ本

11月の読書メーター
読んだ本の数:11
読んだページ数:3541

最新版 指輪物語1 旅の仲間 上 (評論社文庫)最新版 指輪物語1 旅の仲間 上 (評論社文庫)
読了日:11月30日 著者:J・R・R・トールキン
ナイトランド・クォータリーvol.31 往方の王、永遠の王〜アーサー・ペンドラゴンとは何者だったのかナイトランド・クォータリーvol.31 往方の王、永遠の王〜アーサー・ペンドラゴンとは何者だったのかの感想
アーサー王をめぐる物語の短篇や抄訳を楽しんだ中で、とりわけアレクサンダー・レルネット=ホレーニアの『帽子の男』(抄訳)がとても気に入った。アーサー王伝説の特集に便乗してニーベルンゲン伝説を題材にした作品の紹介(ちょっと強引w)とのことだけど、同作者の『両シチリア連隊』が好きだったので、是非全訳を読んでみたい。
読了日:11月28日 著者:トマス・マロリー,マイクル・ムアコック,チャールズ・デ・リント
柑橘類と文明: マフィアを生んだシチリアレモンから、ノーベル賞をとった壊血病薬まで柑橘類と文明: マフィアを生んだシチリアレモンから、ノーベル賞をとった壊血病薬までの感想
再読。昔から北ヨーロッパの人々が抱き続けた地中海南部への憧れ、その心象風景としての “レモンの花咲く国” をめぐる紀行文であり、イタリアとその柑橘類の物語を紹介するエッセイでもあり。突然変異のキメラ(例えば仏手柑のような)が珍重されたメディチ家の柑橘類コレクションについて、シチリアに富をもたらしたレモンの果樹園がマフィアの台頭を招くことになった経緯、大量のオレンジが武器として使われるピエモンテ州のオレンジ合戦を見物した話…などなどとても面白かった。アマルフィ・レモンを使ったカラマラータの美味しそうなことよ
読了日:11月27日 著者:ヘレナ アトレー
源氏物語 2 (河出文庫 か 10-7)源氏物語 2 (河出文庫 か 10-7)の感想
再読(源氏物語は他の訳者で幾度か読んだが、角田源氏は初めて)。「紅葉賀」から「明石」までの流れで、様々な女性たちが描かれる。私は朝顔の斎院が好きだけれど、彼女の立場は身分の高さに守られているとあらためて思った。寄る辺ない紫の上に対する光君は、そもそもの始め方から(誘拐、そして手〇〇)扱いがかなり軽いという側面は否めない。この先も紫の上が “最愛の人” ではあり続けても、対等な存在として光から見られることはない(その発想すらこの時代にはない)んだなぁ…と。
読了日:11月23日 著者:
パピルスのなかの永遠: 書物の歴史の物語パピルスのなかの永遠: 書物の歴史の物語の感想
素晴らしい読み応え。本を閉じて「書物の歴史の物語」という副題に向き合うと、本当にその通りだったなぁ…と胸がいっぱいになる。古のギリシアからローマへ、本を巡る遥かな時間旅行のようなエッセイ。ただ歴史をたどるのではなく著者自身の本への深い思いが伝わってくるのもよかった。思い出の中の数々の本たち。書物はそこにありつづける、これからも。手に取るのが楽しみだった装幀は、カバーを広げてみてなるほど…と感嘆。“ある意味では、私たちすべての読者は、自らに轍を残した言葉をおさめた秘密の図書館を自分のなかに持っているのだ。”
読了日:11月22日 著者:イレネ・バジェホ
セシルの女王 (5) (ビッグコミックス)セシルの女王 (5) (ビッグコミックス)
読了日:11月16日 著者:こざき 亜衣
レオナルドのユダ (エディションq)レオナルドのユダ (エディションq)の感想
ペルッツ再読8冊目。とても好きな作品だが、刊行順をたどって読み返してきたので、遺作なのねぇ…としみじみ。『第三の魔弾』の解説には、未完で見つかったのを弟子で友人でもあった人物が完成させたとある。“「君はユダの秘密と罪を知っているのかい? なぜユダがキリストを裏切ったのか、わかるかい?」/「ユダは、自分がキリストを愛しているとわかったから、キリストを裏切ったのです」少年は答えた。”
読了日:11月14日 著者:レオ ペルッツ
視点という教養(リベラルアーツ) 世界の見方が変わる7つの対話視点という教養(リベラルアーツ) 世界の見方が変わる7つの対話
読了日:11月12日 著者:深井 龍之介,野村 高文
恐竜の復元 (たくさんのふしぎ2023年12月号)恐竜の復元 (たくさんのふしぎ2023年12月号)
読了日:11月10日 著者:犬塚則久
源氏物語 1 (河出文庫 か 10-6)源氏物語 1 (河出文庫 か 10-6)の感想
再読。源氏物語は他の訳者で幾度か読んだが、今回は気になっていた角田訳で。帚木巻の序盤に雨夜の品定めがあり、その後の光君の行動に及ぼした影響を思うと、ある意味で物語展開の予告になってたんだなぁ…とあらためて面白かった。紫式部が描きたかったのが “中流の女” たちだったとしたら、それも得心がいく。あと、これは仕方がないと思うけれど、源氏物語を読むのがかなり久しぶりで、かつて以上に光君に対していらっとすることが多いw(『女は素直がいちばんですよ』とか何なん…)
読了日:11月08日 著者:
教皇ハドリアヌス七世教皇ハドリアヌス七世の感想
すこぶる面白かった。久しぶしに奇書を読んだという満足感。「澁澤龍彦が絶賛」というのもさもありなん…と思いつつ、訳者あとがきでかなり自伝的な内容と知って驚いた(そして19世紀末のロンドンに生まれた作者が、何故カトリック教会なのか…という理由にもw)。“人間嫌いの利他主義者” ジョージの半生がほぼ自伝であるなら、その後の型破り教皇爆誕からの展開が幻想文学…か。“教皇には大きな目標と、見通しのきく目と、よく聞える耳と、機知と、ひねくれた性格と、大胆さと、寂しい心とがある。おまけに世界から敵意を向けられていた。”
読了日:11月07日 著者:コルヴォー男爵

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

10月に読んだ本

10月の読書メーター
読んだ本の数:16
読んだページ数:4040

一人称小説とは何か−異界の「私」の物語 (MINERVA 歴史・文化ライブラリー)一人称小説とは何か−異界の「私」の物語 (MINERVA 歴史・文化ライブラリー)
読了日:10月31日 著者:廣野 由美子
夜毎に石の橋の下で夜毎に石の橋の下での感想
ペルッツ再読7冊目。すこぶる好みな作品。古のプラハという街が、美しい幻想の紗と甘やかな薔薇の香る夜気に蔽われている。憂愁に捕らわれたルドルフ2世、ユダヤ人の伝説的豪商とその麗しい妻の繋がりを中心に、幾つもの運命が絡まり結ぼれていく様も見事だった。優しい詛、天使たちの軋轢、占星術…。著作リストの刊行順をたどって読み返してきたので、作風が前作までに比べるとしっとりしているように感じられる。愛ゆえに、愛に煩う物語。枠物語としての閉じ方もよかった。“それにしても何てすばらしい夢だったのだろう。主は褒むべきかな。”
読了日:10月27日 著者:レオ・ペルッツ
方形の円: 偽説・都市生成論 (創元SF文庫)方形の円: 偽説・都市生成論 (創元SF文庫)の感想
再読。36もの幻想都市。惜し気なく溢れてくる奇想が勿体ないほどで圧倒されるが、都市(社会)構造に正解などあり得ないことを明かすようにそれらは呆気なく滅亡する。一つ一つの物語はかなり短く、幾つもの滅びと独裁や文明のバリエーションを一方的に眺めて通り過ぎていくのは、ひやりと不思議な読み心地だった(具体的な登場人物がいると割と珍しい)。そして様々な建築物のアイデアには目を瞠り、とりわけ幻想文学寄りの物語には魅了された(ダヴァからオリュンピア…セレニア…アトランティスの流れが好き)。方舟には何がのるのだろう…。
読了日:10月25日 著者:ギョルゲ・ササルマン
きのう何食べた?(22)特装版 (プレミアムKC)きのう何食べた?(22)特装版 (プレミアムKC)
読了日:10月24日 著者:よしなが ふみ
歌集 Dance with the invisibles歌集 Dance with the invisiblesの感想
美麗な装幀を愛でつつ。〈香水を手首にかける朝の戸に鈍き刃物の香もまじりたり〉〈わたしたちの定員二名の箱舟に猫も抱き寄す 沈みゆかなむ〉〈悲し、とふ言葉が今朝はうすあおき魚の骨格となりて漂ふ〉〈わが生まぬ少女薔薇園を駆けゆけりこの世の薔薇の棘鋭(と)からむに〉〈永遠に降るにはか雨、にはかあめ わたしは本を壊してしまふ〉〈秋雨の胸に庭あるごとくして苦しきときに顕(た)つ庭潦〉〈何万回でも逃げ出した猫追ひかける 七月、私たちの永久に続くトランジット〉〈ひと冬に少女が費やす砂糖菓子を煮詰めたやうな香水をもらふ〉
読了日:10月23日 著者:睦月 都
スピン/spin 第5号スピン/spin 第5号の感想
今回の紙、表紙も目次も手触りが好きで何度も撫でてしまう。最果タヒさんの連載が〈宝石の国詩集〉で、引き込まれた。
読了日:10月20日 著者:恩田陸,尾崎世界観,斉藤壮馬
スウェーデンの騎士スウェーデンの騎士の感想
再読(ペルッツ6冊目)。とても素晴らしかった。仕掛けの見事なペルッツ作品を読む醍醐味と、どっぷり幻想文学な雰囲気(民間魔術の呪文、亡霊との約束…)を存分に堪能した。人を欺いて手に入れた幸福らしさ(愛する家族と、己の才覚を発揮出来る身分と)を、真の幸いとして享受することは結局叶わない。それはいずれ誰かに返す借りものに過ぎない。とは言え、主人公に他の選択があり得たとも思えず、逃れる術のない運命への道筋は神によって既に描かれていた…という皮肉。あと、名前を喪失する物語としても読めてそこも面白かった。
読了日:10月19日 著者:レオ ペルッツ
ロンドンに建ったガラスの宮殿 最初の万国博覧会 (たくさんのふしぎ2023年11月号)ロンドンに建ったガラスの宮殿 最初の万国博覧会 (たくさんのふしぎ2023年11月号)
読了日:10月18日 著者:村上 リコ
聖ペテロの雪聖ペテロの雪の感想
流石、面白かった(ペルッツ再読5冊目)。物語の舞台は1932年のドイツの寒村、なので珍しく歴史ものではない。とは言え、神聖ローマ帝国復興の夢の実現だのフリードリヒ2世(シュタウフェン家)の末裔だのと、やはり頗るペルッツらしい作品なので嬉しくなった。巧妙な仕掛けは心憎く、なんと読み返し甲斐のあることよ。…そして、狂おしい願望が創りあげた物語への執着は捨てがたい。彼にとってその世界の記憶は美し過ぎる。(人とは斯様、そうあって欲しいことをそのまま真と思い込み、進んで信じようとする可愛い切ない存在であるなぁ…と。
読了日:10月17日 著者:レオ ペルッツ
閉ざされた扉 (フィクションのエル・ドラード)閉ざされた扉 (フィクションのエル・ドラード)の感想
〈全短編〉がそのまま初期短篇集(長篇から短篇小説には戻らなかったから)と。面白く読んだのは、表題作と「シロンボ」「チャールストン」(語り手を含む男3人ともク◯と思ったけどw)、「散歩」「サンテリセス」。
読了日:10月16日 著者:ホセ・ドノソ
ハプスブルク・スペイン 黒い伝説: 帝国ななぜ憎まれるか (単行本)ハプスブルク・スペイン 黒い伝説: 帝国ななぜ憎まれるか (単行本)の感想
アフリカはピレネーに始まる…と例外視され続けたスペイン。その端緒は、権勢を誇った強国への憎悪、ハプスブルク朝の覇権に対する他国の恐れにあった。それ故に捏造された黒い伝説(フェリペ2世への個人攻撃、スペイン人の狂信・不寛容・蒙昧、インディアス先住民の虐殺)。国が弱体化した後も止まなかった攻撃の新たな理由は、カトリシズムに固執して宗教改革が浸透せず、だから近代化を妨げられた→やはり蒙昧な国だ、という決めつけによるもの。まるでラテン人は呪われているかのように見えた…と。話はスペイン再興まで及び、読み応えがあった
読了日:10月13日 著者:ジョセフ・ペレス
アンチクリストの誕生 (ちくま文庫)アンチクリストの誕生 (ちくま文庫)の感想
再読。流石、面白かった(ペルッツ再読4冊目)。表題作を始め、恐ろしい難題に向き合う者の孤絶、運命に召される者の最期、物狂おしい幻想に取り憑かれた者の破滅、遠い過去からの呼び声…など、そうそうレオ・ペルッツといえばこれですよと言いたくなる、ぎゅっと濃ゆい中短篇が揃っている。一篇ずつの余韻も格別で、あれこれ思いを馳せながら眩暈し、堪能した。お気に入りは、「一九一六年十月十二日火曜日」や「月は笑う」(ルナフォビアって何故か惹かれる)「霰弾亭」「夜のない日」。
読了日:10月11日 著者:レオ ペルッツ
ハプスブルク家 (講談社現代新書)ハプスブルク家 (講談社現代新書)の感想
再読。元々関心があるのはスペイン系(あの怖くて哀しい家系図よ)なのだが、もっと遡った時代から纏められたものを読みたくて手に取ったら、昔一読した本だったw 武力に頼るのではなく一見穏健な手段、結婚によって他家が作り上げた国を頂戴してしまう…という、結婚政策で名高いハプスブルク家。とは言え、ことの始めからそれを狙っていたわけではなく、偶々幸運が重なり何とか危ない橋を渡った時期もある。そしてそれが、神の加護に守られた一族という意識に繋がっていった…と。若い頃の女帝マリア・テレジアの、胸がすくような手腕にほれぼれ
読了日:10月10日 著者:江村 洋
どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)どこに転がっていくの、林檎ちゃん (ちくま文庫)の感想
再読。流石、面白かった(ペルッツ再読3冊目)。レオ・ペルッツといえばどっぷり幻想文学のイメージだが、この作品はその点では趣が違う。ただ、ロシアの捕虜収容所からやっと解放された主人公が、復讐の念へと自らを駆り立ててひたすら転がっていく(そも内戦中のロシアへ舞い戻るのが狂ってる)のは、かなり尋常ではない。それに復讐とは言うものの、あくまでも決闘という形式に拘っているところにドン・キホーテ味が溢れていて、ヴィトーリンまだ若いのに…などと思った。そんな皮肉がレオ・ペルッツらしくて好きだ。
読了日:10月06日 著者:レオ ペルッツ
シンデレラはどこへ行ったのか 少女小説と『ジェイン・エア』 (岩波新書 新赤版 1989)シンデレラはどこへ行ったのか 少女小説と『ジェイン・エア』 (岩波新書 新赤版 1989)の感想
「ジェイン・エア・シンドローム」。脱シンデレラ物語としての『ジェイン・エア』──ヒロインは学力を磨き自立し、父権社会における女性の生き方を脱却しようとする──にある精神が、如何にしてその〈娘〉たちへと受け継がれていったか。孤児という立場、容貌のコンプレックス、激しい気性、言葉の力…という共通点で、ジョー・マーチやジュディ・アボット、アン・シャーリーといった懐かしい旧友たちが取り上げられている。『ジェイン・エア』に出会ったのは未だ少女の頃、読み返すたびに自分の中で受け止め方が変化していったことを思い出した。
読了日:10月04日 著者:廣野 由美子
読書礼讃読書礼讃の感想
タイトルから想像した以上にテーマは多岐にわたり(ボルヘスとの交流とその作品について、ジェンダー、人種問題…)、頗る読み応えがあった。“読者を魅了するすべての本は倫理的な問題をつきつける。こういってもいい。本のページの表面をなぞるだけでなく、深いところまで掘り下げることができた読者は、その深みから倫理的な問いかけを持って帰ってくる。” “すべての読者が知っているとおり、本を読むという行為の要点、すなわちその本質はいまも、そしていつまでも、予測可能な結末がないこと、結論がないということだ。読書のたびに、
読了日:10月03日 著者:アルベルト マングェル

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

9月に読んだ本

9月の読書メーター
読んだ本の数:15
読んだページ数:3734

天幕のジャードゥーガル 3 (3) (ボニータ・コミックス)天幕のジャードゥーガル 3 (3) (ボニータ・コミックス)
読了日:09月29日 著者:トマトスープ
はじめての土偶はじめての土偶の感想
1冊みーーーっちり土偶尽くしで、大変満足。こんなに種類があるのかとあらためて知り(当たり前だけど、遮光器土偶だけじゃない!)、様々な土偶がそれぞれの魅力とともに紹介されているのを堪能した。「縄文のビーナス」や「縄文の女神」のフォルムの美しさ、合掌土偶や蹲踞土偶のどこか愛おしい佇まい…などなど。文章から土偶愛が滲み出ているのもよかった。
読了日:09月28日 著者:
ボリバル侯爵ボリバル侯爵の感想
再読。流石のレオ・ペルッツ、面白かった。ナポレオンのスペイン遠征、劣勢へ傾き始めたフランス軍の2つの連隊が壊滅するに至った経緯を、元ドイツ将校が綴った回想録。その内容は、後世の人々には信じがたいものだった。何となればそこには、ある言葉の呪縛に囚われた数人の将校たちが、避けるべきことにむしろ引き寄せられ、その為に彼らの軍を自滅へと突き進ませることになった顛末が描かれており…。情報の優位を全く活かせない将校たちのぐだぐだな迷妄っぷり(そこが読ませるんだけど)と、さまよえるユダヤ人の存在が落とす昏い影の比よ。
読了日:09月27日 著者:レオ・ペルッツ
きのう何食べた?(21) (モーニング KC)きのう何食べた?(21) (モーニング KC)
読了日:09月27日 著者:よしなが ふみ
中世ヨーロッパの色彩世界 (講談社学術文庫)中世ヨーロッパの色彩世界 (講談社学術文庫)の感想
12世紀以降の中世ヨーロッパにおいて、人々は独特な色彩観念を持つようになり、やがてそれは執拗なまでに色に意味づけをする中世末期の色彩文化へと繋がる。水は「白い」という感覚。色に与えられた両義的な意味(緑は青春、歓喜、破壊、異教…)。子どもと道化と奉公人の服が、同じデザインになったのは何故か。悲しみが悪徳とされた時代には忌み嫌われた黒が、14世紀末頃からメランコリックな感情の価値が変化するのに伴って流行色になったこと、などなど。中世人の心性が、こんなにも硬く色と結び付いたものだったとは…と、とても面白かった
読了日:09月26日 著者:徳井 淑子
第三の魔弾 (白水Uブックス)第三の魔弾 (白水Uブックス)の感想
再読。流石のレオ・ペルッツ、面白かった! アステカ王国を征服しようとするスペイン軍に立ち向かったドイツ人、グルムバッハの数奇な悲運の物語。これが第一作ということでやや粗いかな…という印象はあるものの、物語を牽引するのが何しろ暴れ伯爵(猪突猛進タイプ)なので、ぐいぐい引き込まれてしまう。史実との絡ませ具合や皮肉な展開も堪らない。あと、今回はあらためてメンドーサ公のグロテスクな造形(美形で残忍)が、際立っているのに感心した。そして終曲にたどり着き、第三の魔弾に斃れたものについて思うと、嗚呼…(呪い怖すぎっ)
読了日:09月22日 著者:レオ・ペルッツ
鳥打ちも夜更けには鳥打ちも夜更けにはの感想
再読。「架空の港町」という呼び方が地名になった町で、観光の呼び物である希少種の蝶アレパティロオオアゲハを保護するため、海鳥を駆除する仕事が必要になった。それが鳥打ちである。採用された3人はそのまま鳥打ちと呼ばれ、10年間ただ鳥たちを殺し続けてきた…。不条理は個人をどこまでも蝕み得るし、逃走することでしか己を救えない人がいる。私には、慰撫のある物語だった。(そして、いぐあな老師のレシピが美味しそうです) “彼は木箱のなかを見つめる。自分のなすべきことが、生涯で初めて心の奥底から浮かび上がってきた。”
読了日:09月20日 著者:金子 薫
オデュッセイアの失われた書オデュッセイアの失われた書の感想
再読。大変好みな作品。『オデュッセイア』に基づく44通りの変奏で、叙事詩の世界に封じられたオデュッセウスやアキレウスたちが、幾つものバリエーションの中で思いもよらぬ姿を見せる。口承され、流動していく物語さながらだ。あきらめて再婚したペネロペイア、アキレウスのゴーレムを作った魔術師オデュッセウス、出奔するヘレネ、好敵手を求めて天国へ行くアキレウス。などなど。「サナトリウム」や「あるゲームの記録」には、こんな変奏もありなのかと吃驚した。そして死の影が濃くなり、オデュッセウスが衰えていく終盤の展開に感嘆した。
読了日:09月19日 著者:ザッカリー メイスン
レイトン・コートの謎 (創元推理文庫)レイトン・コートの謎 (創元推理文庫)の感想
久しぶしのアントニイ・バークリー。ちょっと期待値を上げすぎてた感はあるけれど、面白かった。第一作を読めて満足だ。
読了日:09月16日 著者:アントニイ・バークリー
まぼろしの枇杷の葉蔭で 祖母、葛原妙子の思い出まぼろしの枇杷の葉蔭で 祖母、葛原妙子の思い出の感想
記憶を手繰りよせ思い出を綴りつつ、祖母と祖母にまつわる事柄を、今いる場所から振り返り、あらためて眼差そうとしているのがよかった。「おばあちゃん」らしさのない祖母の、稀有な才能と強烈な個性。美しい歌を生み出すことと引き換えに、何かをあえて切り捨てていたような人柄のこと。追慕の情とともにある、ひやりとした感覚。祖母に名付けられたというエピソードと、その由来探しの章が好きだった(有名なレモンの歌の章も、室生犀星との交流の章も好き)。そして、あとがきにある「和解」という言葉が沁みる。
読了日:09月14日 著者:金子冬実
遠くの敵や硝子を (現代歌人シリーズ24)遠くの敵や硝子を (現代歌人シリーズ24)の感想
〈わたくしが復讐と呼ぶきらめきが通り雨くぐり抜けて翡翠(かわせみ)〉〈今宵あなたの夢を抜けだす羚羊(れいよう)の群れ その脚の美(は)しき偶数〉〈夜の雨 人の心を折るときは百合の花首ほど深く折る〉〈鳥葬を見るように見るあなたから声があふれて意味になるまで〉〈金雀枝のための鋏を待っている千年、それからのちの千年〉〈砂糖湿らせるのも雨の愛ゆうべの雨を聴きつつ眠る〉〈日ざかりを喝采のごと寄せてくるものを拒めり白百合抱いて〉〈神を信じずましてあなたを信じずにいくらでも雪を殺せる右手〉
読了日:09月13日 著者:服部 真里子
教養としての建築入門-見方、作り方、活かし方 (中公新書 2764)教養としての建築入門-見方、作り方、活かし方 (中公新書 2764)の感想
タイトルが何とも気恥ずかしいけれど、正にこういう入門書を読んでみたかった。分かりやすく簡潔に纏められている印象で、建築学について殆ど知らないような私でも面白く読めてよかった。日本と西洋の建築史、哲学や心理学からの視点、建築家が理念を紡ぐこと、建築と世相や政治経済との結び付きについて、などなど
読了日:09月12日 著者:坂牛 卓
アプロネニア・アウィティアの柘植(つげ)の板アプロネニア・アウィティアの柘植(つげ)の板の感想
再読。ローマ帝国終焉を前にした貴族たちの頽廃、処刑や略奪に絶えないその時流に対するアプロネニアの優雅な無関心に、なぜか惹かれてしまう。貴婦人の矜恃なのか、ただ疎ましさから目を背けていただけなのか。忍びよる死への不安を少しでも忘れている為に、日々の記録を事細かく残すことで防波堤のようにしていた…というキニャールの視点に、どきっとした。虚無に向かって踏みとどまろうとする、足場としての日記。“とても長いもののうちに幼年期を入れよう。/柘植の木立。/(略)/老い。/海亀。/死んだ人の死。/不眠。/烏。/
読了日:09月11日 著者:パスカル キニャール
最後の三角形: ジェフリー・フォード短篇傑作選 (海外文学セレクション)最後の三角形: ジェフリー・フォード短篇傑作選 (海外文学セレクション)の感想
なんて濃ゆい短篇集。やはりジェフリー・フォードよい…としみじみ、心ゆくまで堪能した。とりわけ好きな作品は、ラストに驚嘆した「アイスクリーム帝国」や「恐怖譚」(エミリー・ディキンスン!)、語り口が少し恍けた本棚をめぐる命がけの冒険「本棚遠征隊」、私の大好きなクレバーな老女もの(としても読める)の表題作。あと「ナイト・ウィスキー」「星椋鳥の群翔」と「イーリン=オク年代記」もよかった。“「私は誰でもない。あなたは?」彼はそう言うと、笑い出した。そして「私ですよ、ご存じでしょう?」とつけ加えた。”
読了日:09月08日 著者:ジェフリー・フォード
図書館 愛書家の楽園[新装版]図書館 愛書家の楽園[新装版]の感想
再読。タイトルには“図書館”とあるが、書庫や書斎をも含む本のための空間と書物をめぐる思惟が、有名無名な図書館の歴史も辿りながら自在に広がっていくのが楽しい。私がとりわけ驚いたのは、「心のあり方としての図書館」の章で触れられるヴァールブルクの図書館。分類のシステムを一切使わず、ただひとりヴァールブルクその人の着想のみで関連付けながら延々並べられていく膨大なコレクション(他人には意味がわからない)、そしてそれは常に流動性を保たなければならない…
読了日:09月05日 著者:アルベルト・マンゲル

コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )
« 前ページ