酒見賢一さん、『後宮小説』 再読

 昔の本をじっくり寝かせ、あらためて丹念に読んでみるのはやっぱりいい…。
 ちなみに私が所持しているのは、1990年6月の19刷となっています。1889年12月が発行ですから、ちょっと吃驚。
 『後宮小説』、酒見賢一を読みました。

 私も最初はまんまと騙された口だった。如何にももっともらしく鹿爪らしく、この小説を書くにおいて参考にした歴史書はこれこれ…なんて話も、先ずは真に受けた。首を傾げつつ読み進み、途中で流石に気付いてこの法螺話の周到さに呆れたものよ…。
 そも舞台となる素乾国、この“素”と“乾”の本来の字義を考えれば即、架空の国に過ぎないことがわかる仕組みだが、普通そこまで気を回さない。本当に人を喰った小説だけれど、爽快な読み応えとあえて騙されてみる快感がとことん味わえる。

 ヒロインの銀河は13歳。新しい皇帝の宮女になるべく後宮へとやってくるが、そこで待っていたのは、宮女候補としての教育を女大学で受けることであった。いったい何を学ぶのか? そりゃあ後宮に入るための学問だから、房中術とか房事における哲学とか…(くらくら)。何しろ、“性のためという特殊な目的ながら、これ程高度なシステムを持った教育機関は史上に類がない(98頁)”のである(何をしれっと)。
 でもこの女大学の件はとても楽しい。真面目くさってしゃっちょこばって、いったい何を教えているのやら…と笑えてしまう。でも確かに大事なことではある。  

 銀河をはじめとし、キャラクターたちの魅力も素晴らしい。銀河と皇帝双槐樹(コリューン)の距離が少しずつ近付いていく過程の、初々しさがまたいい。 
 物語の冒頭近くで明らかにされているように、コリューンは素乾国最後の皇帝になってしまう。そこのところはとても切ないけれど、胸の内が温かくなるラストだった。(あえて言えば、エピローグが少々冗長か。)
 (2006.9.13)

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