倉橋由美子さん、『夢の浮橋』

 とうとうこの作品を読んでしまった。おお。
 『夢の浮橋』、倉橋由美子を読みました。

 “人間は生まれながらにしてさまざまなclassに属してゐるのに、この厳然たる等級の差には目をつぶって、萬人が同じclassに属するかのやうにいふ平等主義者を桂子はひどく嫌つてゐる。” 234頁

 「桂子さんシリーズ」の、第一作です。35歳の時の作品だそうですが、もう完成形に近い精緻な文体をつくり上げられていたことがわかります。桂子さんが大学を卒業するまでの一年間と、卒業後に山田氏と結婚するまでが描かれています。
 そして、『交歓』や『シュンポシオン』における、オリュンポスもかくやな美しい人々の饗宴がくり広げられる世界の、萌芽を孕んだ作品です。たとえば、桂子さんの両親と、桂子さんの元恋人宮澤耕一の両親という二組の夫婦…。彼ら4人の優雅な戯れに、桂子さんを始めとする登場人物たちが、知ってか知らずか巻き込まれていくこととなります。

 後々のシリーズでは堂々たる女神然として君臨する桂子さんですが、この作品の中では流石にまだ、時には可憐にも儚げにも見えるうら若き乙女です(またその風情が堪らなくよいです…)。けれども熾烈で厳しいところは、やはり桂子さんです。
 ここではその時代の全共闘が取り上げられています。渦中の群衆へ向ける冷ややかな視線の中に、桂子さんの、しいては倉橋さんの、刃のような美意識が感じられるのでした。

 快楽の隣に死あり…。麗しい戯れの舞台裏では、登場人物中の誰かが順番に抜け落ちていく。結婚の準備をしている桂子さんと、自分の死期を迎える準備をしている人物とが向かい合う場面に凄味がありました。
 快楽はいつも死と隣り合わせ、当たり前のように容赦なく。
 (2007.2.27)

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