J・G・バラード、『楽園への疾走』

 すっかり大好きになったバラード、読むのは3冊目。
 『楽園への疾走』、J・G・バラードを読みました。


 怖い怖い。この、破滅へ向かう狂気の野蛮な美しさと言ったら!(アホウドリを救え!って…)。  
 いきなり冒頭から、ゴムボートの舳先に立ってメガホン片手にがなりたてるドクター・バーバラの目の前は、誰もいない環礁。がむしゃら過ぎて滑稽ですらある、彼女の一人相撲なのかと思いきや…。   

 イギリス人女医の孤独なキャンペーンから始まった環境保護活動は、フランスの核実験場であるサン・エスプリ島で毒殺されているアホウドリを救うためのものだった。そして、その活動を一人で始めた、なりふりかまわずみすぼらしい中年女性ドクター・バーバラの不思議な魅力にひき込まれ、そのままずるずると同行するようになるのが、16歳のニールである。ドクター・バーバラが素早く獲得したハワイ人の弟子キモとの3人によって進められた活動は、狙い澄ましたかのような一撃が強力なプロパガンダとなり、一躍彼女はエコロジー運動のヒロインとなるのであった、が。
 だらしがなくてエキセントリック、でも聴衆の感情を操ることに長けている。そんなドクター・バーバラの人格の不安定さと、分かりにくさ。アホウドリへの執着の、どことなく奇妙な胡散臭さ。狙いは別のところにあるようにしか思えないのに、なかなか見えてこない彼女の、真の動機とはいったい…? 

 舞台がいよいよサン・エスプリ島に移ると、彼らは少しずつ人数を増やしながら共同生活を送る。物語は、表向きは穏やかさをつくろってゆるゆると展開していくけれど、ドクター・バーバラの集団リーダーとしての決断に感じるちょっとした不可解さとか、彼女が本当に望んでいることが誰にも掴めないことへの苛立ちが、じわりじわりと水面下からストーリーを曳いているような感じだった。意図されたものの最終的な形は用心深く秘され、そこへ向う歩みはあくまでも緩い。その緩さこそが、怖ろしい周到さでもあるのだが。 

 そして少年ニール。素っ気ないドクター・バーバラを心から慕う彼は、自分だけが色んなことに気付いていながら、あえてドクター・バーバラの行動や選択を全て肯って受け入れてしまう。彼女が何をしても彼女なりの理由を、それがたとえ狂った論理であろうと、進んで受け入れ理解しようとしてしまう。まるで無意識のうちに、己を破滅へと向かわせていくみたいに。そんな彼の心理が何よりも怖くていじらしい。 

 ぼんやりとした不安と猜疑を覚えながら読み進んでいくうちに、いつの間にかアホウドリの楽園は、狂気と暴力の島へと変貌を遂げている。そうしてとうとう明らかになる、ドクター・バーバラが目指した理想郷の姿が…!
 終盤に突きつけられる凄惨な美に、身の毛がよだつ。

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元町の「ノルブリンカ」にて、おいしかったゾウ♪ その3

3月29日、日曜日。晴れ。 
 今日は薄めのトレンチ風コート。毎日コートに悩む。 
 あ、なんか食べ歩き日記ばかりが続く…。最近本の感想を書くのが億劫と言うか、感想の記事は時間がかかるから、ついつい次の本へと行ってしまうのだなー。   

 今朝の私はちょいとだーさんに苦情モードだったけれど、本人が何かを察して先にしゅんとしていたので、結局笑ってしまった。お酒を呑んで壊れたりするのは、私も人のことばかり言えないのじゃが、お互いにどうかと思うよね…。ううむ。
 まあ気を取り直して、今日も楽しく出かける…。 
 今日のお昼ご飯は、辛くて美味しいベトナム&タイ料理♪
 ←これは、“特に大辛”。
 記事にするのは3度目だが、実際にやってくるのは4度目のお店、元町の「ノルブリンカ」。今日の元町は人通りも多く、春らしく華やいでたよん。

 早めの時間に着いたので、いつもの窓際のテーブル席をすすめていただきさっそくビールをお願いする。だーさんは赤ワイン。
 ビアバーバーバー(333)は、ベトナムの呑みやすいビール。
 こちらは店内の席数も少なく、ご夫婦でタイ料理とベトナム料理を担当し合って(奥さんがベトナム料理、らしい)いるので、注文してから出来あがるまではかなり時間がかかる。だから、3組目からのお客さんは断られる場合もあるようで、それを知っている私たちは早めに出かけたのであった。

 だーさんが、すぐにいただけるお酒のおつまみを一品。“牛すじの煮込みベトナム風”です。
 「えっ、牛すじ?」と思ったが、これが美味。案外さっぱり。

 やっぱり外せない“ゴイ・クォン/海老とゆで豚の生春巻”は、手づかみでパクつく。
 大好き…。ピーナッツの効いた付けだれが、これまた旨いのだなっ。

 さらにさらに、私が選んだ“バインセオ/野菜で包んで食べるクレープ風”。野菜が摂れる一品。
 バインセオって、ベトナム風のお好み焼きとして紹介されていることが多いかな? でも、お好み焼きみたいに粉を沢山使っているわけではないので、クレープの方が近いと思う。これをざくざく切り分けて、レタスや青紫蘇でくるっと巻いていただく。 

 さて、他にお客さんもいらっしゃったし、そろそろご飯ものを頼みますか。
 待つゾウ、待つゾウ…。この象の置物、実はボトルらしい…。 

 だーさんのお気に入り、“カオパット/ピリッと辛い焼き飯(鶏or豚or海老)”。今日は豚を選んだので、“カオパット・ムー”。
 むふー、美味しい。だーさんが一押しなのも無理はない。

 私が頼んだのは壁の貼り紙メニューから、“海老と野菜のすっぱ辛いスープかけごはん”。タイ料理で、“特に大辛”と書かれていた。 
 私: 「カレーに似てるんですか?」 ご主人: 「いや、カレーとは全然違う辛さです。かなり辛いので…」 私: 「あ、辛いの好きなのでそれをお願いします」

 うふふ、野菜もたっぷりでスープもサラサラで、これは結構ヘルシーかも? だーさんは、代謝もアップしていたみたい。ほんと、かなり辛かったよ。
 青梗菜に大根、白菜、竹の子、にんじん…。辛くてもカレーでもないし、酸っぱくてもトム・ヤム・クンでもない…。兎に角、辛くて美味しかったー♪ ご馳走さまでした。
 賑々しい中華街を歩き抜けて、ジュンク堂に寄ったりパンを買ったりしてから帰路についた。次のお休みは犬山祭だー。早いなぁ。

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信州味噌の味噌らーめん、「竹家ラーメン」

3月28日、土曜日。晴れ後曇り。 
 寒のもどり。まだまだ仕舞えない冬のコート。  

 ついこないだ木蓮に見惚れていたのに、もう桜…。 
 咲き初めの桜の佇まいを見ると、後戻り出来ない…という気持ちになる。その潔く咲き急ぐ姿には、私だけ置いてけぼりをくらっているみたいな、心細さも覚える。もっと落ち着いて、ゆっくり咲けばいいのに。 
 桜の開花だけじゃなく、毎年「ああ、いよよ春だなー」と思うことの一つは、だーさんが参加する地元のお祭り。4月に入ったらすぐなので、すでに当日の手土産は決まっているし、だーさんは準備を始めている。そしてそれを見ている私は、心がざわざわする。春であるー。 

 さて今日は、以前にも行ったことのある神戸の「竹家ラーメン」でお昼ご飯。こちらは、“ラーメン”という呼称を初めて使った「竹家食堂」の末裔とされている老舗である。今日は3度目だった。
 着いたのは12時を少し過ぎたころ。幸い空席がまだあって、端っこのカウンター席にすぐに座れた。前回もその前も“味噌ラーメン”を頂いたので、今日こそは“醤油ラーメン”にしようか…と直前まで迷ったものの、結局今日も“味噌ラーメン”にしてしまった。だーさんは、“醤油ラーメン”。

 こちらが、“醤油ラーメン”。
 だーさん、多くは語らなかったが、やっぱり味噌の方が美味しいそう…。

 はい、その“味噌ラーメン”。信州味噌の優しい香りが、ふんわり。舌が焼けるくらいに熱々なのも、嬉しい。
 相変わらず美味しいスープが、ほのかにスパイーシーなの。 
 駄菓子菓子、いつも麺がゆるゆるなので“硬め”をお願いしたのに、本当にこれで“硬め”?と確認したくなるくらい麺がゆるゆるだった。うううむ、残念…。 

 この後いつもとは違うスーパーに買い出しに行き、二人してあれこれ物色。由布院の創作菓子“ぷりんどら(プリン?が挟まれたどら焼き)”とか、熊本産の“献上豆腐”とか、ちょいと珍しいものをぽいぽいカゴに入れてしまう…。「献上豆腐」は、塩で食べるんだって。


 ところで、木曜日はまたまた梅田でだーさんと呑み。記事に出すのは3度目だけれど、実はもう数え切れないくらいお邪魔しているお気に入りの居酒屋「かわさき」にて。
 いつも混み合っているので、私一人で先に店内。思いの外だーさんの仕事が長引いたので、小一時間くらいビールとポテトサラダを一人でちびちびいただきつつ、本を読みながら待っていた。

 だーさん到着後は、私の大好きな“ホタルイカ酢味噌”とか。
 これもまた、春であるー。

 鶏の天ぷら。
 

 途中から熱燗。お互いに別々のタイミングでお猪口を選んだのに、二人とも“忍”の字。よりによって“忍”でお揃いとは、地味…。
 にんにん。

 横光の短篇の影響で鶏の肝が食べたい気分だったが、結局いつもの“地鶏焼き”と、“せせり焼き”。


 “こだわりの玉子焼き”で〆。
 この玉子焼き、すっかり定番。美味しかったなぁ…。
 ご馳走さまでした♪

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蕎麦日和に♪ 「そば切り 凡愚」

3月21日、土曜日。晴れ。
 いよよ春!な陽気。これはもう、大っぴらに浮かれましょうぞ…などと、不埒に思い決めていたわけでは決してありませぬが。

 …そろそろ夕方という頃合いに、二人して危なっかしくふらーりふらりと帰ってきた。そうして自宅にたどり着いたらば、遅ればせながらやっと購入したユニコーンを聴きながら(あ、我が家は未だにCDです)、タガが外れたように部屋で踊っていた。と言っても、二人ともじたばた揺れていた程度。ふっ。

 そんな今日のお昼ご飯は、大阪は大正区にてお蕎麦をいただいてきた♪ 
 ←こりは“太切そば”。

 大正駅に着いてから歩くこと20分、やってきたのは「そば切り 凡愚」というお店。とても有名らしい。
 鮮やかにターコイズブルーの山椒魚が、入口に構えていた。

 混んでいるかと思いきや、そんなこともなく、ストーブ近くのテーブルをすすめていただけた。ビールは置いてないから、さっそくにお蕎麦を頼む。壁のお品書きにお目当てのものがなかったので、小声でお店の方に「手挽きがあると聞いてきたのですが…」と訊ねると、「あ、ありますよー」とのこと。数量限定なので、よかったー。

 店内には、かなりこだわっていらっしゃる様子。味のある器が並べられた棚とか、もっとよく見たいな。でもちょっと遠い…。むしろ私たちの座った場所からは、綺麗に黄水仙が活けられた待ち合い席の方がよく見えた。椅子やら本棚やら、素敵だったことよ。内装にこだわったお店って、げんなり疲れてくることがあるけれど、こちらのお店は少しとぼけた感じもあって、落ち着けた。 
 卓上には、5種類ほどの塩。えっと、イタリアの塩とか…。
 ほっこりと蕎麦茶をいただきながら、まったりお蕎麦を待つ。だーさんは、日本酒があることに気が付いてそちらをお願いすることに。

 まずはだーさんが頼んだ、“太切そば”の2つ盛りが運ばれてきた。この太さ、わかるかしら。
 だーさんのお見当ては、この極太なお蕎麦。いささか食べ難そうだったけれどね。 
 少しもらってみると、かなり弾力があって面白い食感でだった。子供の頃に好きだった、買ってきたばかりの切り餅みたい。

 私が頼んだ“手挽き蕎麦”の1つ盛り。ここに“太切そば”を紛れこませてみれば…。
 おお。紛れこめない…。
 こちらの“手挽き蕎麦”、表面のざらっとした舌触りと言い、しっかりしたこしと言い、流石の美味しさ。手挽きって、石臼で挽く時の摩擦熱がないことと粒子が不揃いなことが、香り良く美味しくなる理由なのだそう。シンプルに塩でいただくのも、私は好き。 

 そして蕎麦湯。今日はビールを呑んでいないので、蕎麦湯がお腹に入りやすかった。
 とろとろー♪で温まり、満足。ご馳走さまでした。

 こちらのお店、店員さんの感じも雰囲気も良かったのだが、お尻に根の生えたお客さんが多いのにちょっとびっくり。蕎麦やさんなのにねぇ…。

 再び外に出ると、ますます気温が上がってぽかぽか…てか、上着があっては暑いくらい。戻りは駅をかえて、木津川駅まで歩く。初めて利用した南海汐見橋線、30分に一本というマニアックな駅だった。
 で、この後難波へ移動したものの散々歩いただけで、さらに梅田へ移動。ミュンヘンにて休憩。ひふー。
 ここでやっとビール。

 お蕎麦だけでは物足りなかったということで…、桜鯛の昆布〆とアボカド。
 アボカドは大好きなのに、すっごく久し振り。アボカド、やっぱり美味しいのう。

 えー、和風パスタ(←メニュー名を覚える気なし)。  これは、だーさん。 
 他、串豚カツなどもいただきつつ、白ワインのボトルを空けたよ…。 

 地下街の小さなお店で生チョコトリュフを買い(きゃあ、私としたことが)、さらにデパ地下で焼肉用のお肉を購入して、帰路に着く。という訳で、明日のお昼ご飯はおうちで焼肉。おうちで焼肉って、結婚してから初めてだわー。お店では出来ない、玉ねぎ盛りをしちゃおーっと。

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再読、『ユルスナールの靴』

 いったい、どこで見たのだったか…。 
 一つの眺めがまるで絵のようにくっきり脳裏に残されていて、その情景の前後についてはごっそり記憶が抜け落ちている…ということが、ままある。やっきになって思い出そうとすると、本当に自分が見たのかどうかの信憑性までもあやしくなる。実際、克明に想像したことに自身が執着し過ぎて、それがそのまま偽の記憶として頭の中の引き出しにしまわれてしまう…ということが、あるのだし。
 この本の最後の章の中に、一枚の写真についての描写がある。それは、“ごつごつした岩場にすわっていたおばあさん”(!)のユルスナールを写したものである。それで私、その写真を確かに見たことがあると思うのだけれど、だったら一体いつ何処で目にしたのだろう…。まったくわからない。

 このタイミングしかない、という感じで再読。 
 『ユルスナールの靴』、須賀敦子を読みました。
 

 ユルスナールを読んだばかりなので、ずしずしと心に響く箇所が散りばめたように其処此処にあり、嬉しく読んだ。初読のときは、特にユルスナールについて詳しく触れているような文章よりかは、ユルスナールに出会い惹かれていった須賀さんご自身の気持ちを綴った文章の方に、どうしても心が向かいがちだった。それも無理はないと思うが(迷ってばかりだった若き頃を振り返っている章など、切なくて好きだった)。 

 ところが今回は、須賀さんの筆を通して描かれていくユルスナールの姿に、どんどん心が向かっていく。“ヨーロッパ文化の粋であるような彼女の思考回路”を称える一方で、やはり相当にエキセントリックであり、時にはいばりんぼさんだったかもしれない…(いや、“いばりんぼ”という言葉は使っていないけれど)ということをうかがわせるエピソードもところどころに差し挟まれ、読んでいてとても楽しい。そしてもちろん、ユルスナールの作品のことが出てくる箇所は、大変興味深く読めた。再読なのに全然響き方が違って、とても新鮮な気持ちだった。 
 
 そう、それで。
 『黒の過程』にふれながら、“彼女(ユルスナール)も、《牢獄》をぼんやりと照らしていた光を信じていた”と書かれているのを読んで、はっと胸を衝かれた。ユルスナールへの深い共感が、とても素敵だった。

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マルグリット・ユルスナール、『黒の過程』

 『ハドリアヌス帝の回想』が素晴らしかったのと、“孤高の錬金術師”という響きに大いに心惹かれたことから手に取った。そしてまたしても、圧倒された。
 ユルスナールへの憧憬の念がふつふつと湧き起こる。より完璧なものに近づけるため、自作に手を加え続けたという話にも頷かされる。高みを目指す妥協性のなさと、己に向けた厳しさ。想像するだけで胸が痛い。

 『黒の課程』、マルグリット・ユルスナールを読みました。


 素晴らしい読み応えだった。物語の抱きかかえているものが、あまりにも大きい。
 舞台となるのは、16世紀のフランドル。従兄弟同士である二人の若者が、フランスへと向かう街道で、偶然出会う場面から物語は始まる。二人の若者とは、“権力を求める冒険者と知識を求める冒険者”…すなわち、16歳のアンリ=マクシミリアンと20歳のゼノンである。意気揚々と世俗的な夢を語るアンリ=マクシミリアンとは対照的に、巡礼姿のゼノンには、目の前の事物よりも高次なことにばかり心が向かいがちな傾向が既に見られる。そして四辻にあたると、前者は大街道を選び、後者は細い道をとる。

 主人公ゼノンの軌跡を辿るのみでなく、そのゼノンを遠く近く取り巻く人々の人生をも描き込んでいくことで、物語は厚みを増し重層的になっていく。冒頭にあらわれるアンリ=マクシミリアンの他に、ゼノンの母親イルゾンドや、イルゾルドの結婚相手となる富裕な商人のシモン・アドリアンセン、ゼノンの異父妹マルタ…と、多彩であり、それぞれの造形も興味深い。また、旅の果てに居つくことになる町で、ゼノンとコルドリエ会修道院長が心を通わせていくところなど、私はとても好きだった。

 読み進めていくうちにわかってくるのは、主人公ゼノンが、時代の過渡期における狭間のような場所で、どうにも身動きが取れなくなっていく…ということ。ゼノン自身の迷いもあるけれど、当時の民衆のどうにもならない蒙昧さが、さらに、ゼノンの才能が希求する先を阻む。真実を求め、知の高みを求める者の、駆けあがろうとする足を掴んで引きずり下ろすのは、信じたいことだけを信じ続けようとする、凡庸な人々の愚かさだ。 
 ゼノンを欺く者の手によるデッサンが、同じフランドルの画家ボスの世界を思わせる。そしてその暗いイメージが、“ルネサンス時代の裏面”と結びついた。ゼノンが生きなければならなかった場所に、明るい地中海の光が届くべくもない…(だからこそ、《牢獄》を照らす一筋の光を信じる)。

 ゼノンは架空の人物だが、錬金術師が異端思想の持ち主として宗教裁判にかけられることは実際にあり、また、ゼノンの思想面や科学的探究などは、実在した哲学者や科学者のそれに基づいているそうだ。
 どんな風にゼノンが人生の終焉を迎えることになるのか、はらはらしつつも概ね予想はつきながら読んでいた。が、その描き方には圧倒されたとしか言いようがない。 

 ユルスナールが20歳のころに着想を得たこの物語は、“作者がその生涯をともに生きた作品のひとつ”でもある。その意味の持つ重みを思うと、そんな凄い作品を読めたことが嬉しい。つまるところゼノンとは、ユルスナールのことでもあるのだろう…。

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ぷりぷり潮らあめんの店♪ 「麺道 しゅはり」 その2

3月14日、土曜日。雨のち曇り。 
 昨日からずどーんと頭が重たい。私のは筋緊張性頭痛なので、お天気が悪いとてきめんだ。
 話は変わるけれど、今日はだーさんからチョコレートをもらった。小さめのBOXに、生チョコトリュフが詰められている。さっきさっそく一粒いただいたら、とろりと蕩けて美味であったことよ。

 さて。
 先日、だーさんと梅田駅周辺で呑んだ。そのときのお店がすっごく良かった。何年か前にだーさんが、勤め先の方に連れて行ってもらったという居酒屋。梅田駅からは結構歩くので、もしかしたら知る人ぞ知る居酒屋かも? 
 お店の外観は、煉瓦造りでレトロ。お店の中にも昭和なタイル使いが見られ、お洒落過ぎなくてほど良く懐かしい雰囲気が素敵だった。

 まあ、私たちが気に入る居酒屋に共通して必要なのは、親父的嗜好の酒呑みの胃袋をがつんとつかむお料理が揃っていることさね(あ、あと気持のよいサービス)。


 こうして画像を並べてみると、見事に茶色ばっかりであるな…。
 まずは、豚キムチなど。


 揚げシュウマイも。
 こういう何でもないものが、やけに美味しい。 

 さらに出し巻きや、“青森産活やりいか造り”、“ちゃんぷるー”をいただいてから、私が気になっていた“名代かきどて”を。
 こ、これが…! めっちゃ旨かったー。ぷりぷりと大ぶりな牡蠣はとても食べ応えがあるし、そこに絡んでくる味噌の風味が絶品よ。ちょっと、朴葉味噌っぽかった。この味噌がこんがり焦げると、日本酒にあう(だーさん絶賛)。

 そしてそして、二人の間で「これは絶対にいただきます!」と最初から決まっていたのが、この“揚げ出し納豆”。
 むふふふ、逸品。これはもう、実際に食べてみないとわからないと思う。始め、かりっとしていて、だんだんふわふわになる衣に包まれた納豆の揚げ出し。そもそもだーさんがこちらの居酒屋を印象深く覚えていたのも、話を聞いた私が「行ってみたいなぁ…」と思っていたのも、この“揚げ出し納豆”ゆえと言っても過言ではない。美味しかったー。

 〆に“鯛あらだき”を頼んで二人でつついていたら、粕汁のサービスが…! きゃあ、素晴らしい。
 私たちの〆のタイミングが、どうしてお店の方に分かったのかは謎である。大好きなシャケが沈んでいたので、ありがたく頂いた。
 ふふふ、本当に良いお店を知った。ほくほく。さり気なく、店名は伏せておこ…。

 そして今日のお昼ご飯。とても久しぶりに(一年ぶりか)、六甲道の「麺道 しゅはり」へ。
 以前お昼時にお店の前を通ったら、しっかり列が出来ていてびっくりしたので早めに家を出た。そしたらば、開店時間前についてしまった。雨があがったのはいいのだけれど風が強くてとても冷たいので、「よしっ、今日は大人の灘潮らあめんで温まるぞ!」と、自分に言い聞かせながら待つ待つ…。

 やっと開店時間になり、温かな店内で人心地。さくさくとオーダーを済ませて、厨房の中をぼんやり見ながら待つ待つ…。以前も書いたけれど、こちらのお店の厨房はカウンター席から丸見え(床が低くなっているから)だから、丁寧なお仕事ぶりをつぶさに見せていただけるのである。

 はいっ、こちら、だーさんが頼んだ“潮らあめん”。チャーシュー3枚の玉子トッピング。
 やっぱりこっちも美味しそう…。しかし、チャーシュー3枚はなかなかのヴォリューム。

 はい、私は“大人の灘潮らあめん”。期間限定の、酒粕を使った一杯。
 ああ…美味し。酒粕と言っても、かなりこだわって良質な酒粕を使っているので(灘の酒蔵から分けてもらっているそうな)、風味が本当に濃厚なのだ。そしてスープを吸ったお揚げも鰤も、粕汁風なスープにはぴったりよ。

 平打ちの麺も相変わらずぷりぷりなのだが、いつの間にか変わっていた。全粒粉?みたいなつぶつぶ。
 このお店にお邪魔したのは今日で4度目。そしてそのうちの2回が、この“大人の灘潮らあめん”だったりして。ふふ。
 しっかり温まって、大満足であった。

 今日はこの後JR芦屋駅に用事があり、駅前のラポルテをうろうろ。するとだーさんがその場の思いつきで、「あそこのコロッケはどう?」とのたまうので、竹園ホテルの精肉店「本竹園」にて、有名なコロッケを初めて買った。本当は揚げたてのほやほやを、お店の前で頬張りたかったけれどね。それにしても、本当に飛ぶように売れていた。但馬牛のコロッケ。

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多和田葉子さん、『ボルドーの義兄』

 毎日のように歩く道、白木蓮の蕾がほころんできた。すぐにほぐれて散ってしまう花だから、じいっとみる。足をとめさせる白さ。とどめておけない白さ。

 そろそろ多和田作品を読みたい…と思っていたタイミングで、うきうきと手に取った。思いがけない装丁に意表を衝かれ、にやり。こちらの白さは、深い企みを隠した白だった。

 『ボルドーの義兄』、多和田葉子を読みました。

〔 「あなたは自分のアイデアの泉に恋しているだけで、他の人間は必要ない。文字通りナルチス、ただし木霊は聞こえてこない。」 優奈は、勝ち誇ったように叫んだ。「そう、泉に恋したい。本当に泉に恋してしまった女の話をこの間、読んだの。」 〕 46頁

 短く刻まれた章立ての一つ一つに、漢字一文字があてられている。それがことごとく鏡文字になっているので、いきおいまじまじと見つめさせられる。その字面によっては、反転させられただけでかなり奇妙な記号に変容してしまう漢字もあり、長年使い慣れたはずの漢字の“はね”や“はらい”が、見慣れぬ異質な形となって目に飛び込んでくる。
 そしてまた、ぷつりぷつりと途切れるエピソードとエピソードを繋ぐ箇所で、そんな風に“一つの漢字をトキホグス”ことに意識を集中させられるので、短い作品なのにつっかえつっかえ読んでいるような気分になる。気まぐれに繋がれたようで実はそうでもない、言葉たちの奔放なイメージから与えられる浮遊感を楽しんでいると、すぐにまた反転した漢字があらわれる。その企みめいた揺さぶりに、軽く酔わされた具合になった。

 エピソードがかなり多く、しかもそれらが巧妙に錯綜しているので、そちらに気を取られていると主筋の方を忘れそうになる。…と言っても、そもそもそんなに大きな動きのある話ではない。
 物語は、主人公の優奈がボルドーのプラットフォームに降り立つ場面から始まる。が、そこからすぐさま話はぐんぐんと時間を遡り、過去のエピソードたちが回想の中から数多に溢れだす。 

 優奈がボルドーへとやってきたのは、「フランス語が習いたい」という彼女に、それまで一緒に暮らしていたレネが、二ヶ月間空家になる義兄の家を借りることを、勧めたのがきっかけだった。優奈本人がどれだけその話に乗り気になったかは、かなり疑わしい。或いはレネとの行き詰った関係から逃げ出すようにして、旅立ったのかも知れない。少なくとも、フランス語を習う地がボルドーであることに何ら必然性を感じていないにも関わらず、ただ受け身な立場で流されてきている印象を受ける。それまでもフランス語を習おうとしながら、縁がなく叶わなかったという話もあり、何と言うか、「この人は本当にフランス語が習いたいのかしら?」と思わせられるのだ。言葉、言語への執拗な拘りと、フランス語への執着の希薄さが妙にアンバランスで、それが面白かった。
 それまでたゆたうようだった物語が、終盤になって俄かに、目まぐるしく入れ替わるイメージの渦巻きに煽られ、ぐらぐらと揺れ始める。吃驚リして、息を呑んだ。 

 ページを繰るごとに目の前をよぎる、細くて真っ直ぐなマゼンタの線。閉じた状態じゃなくて読んでいるときの、親指で押さえられて斜めになった小口が綺麗だった。

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大衆中華の老舗♪ 「焼賣太楼」 その2

3月8日、日曜日。曇り。 
 昨日読了出来なかった小説のラストを、湯舟に浸かりながらとうとう読み終えた朝。しびれてしまった。そのまま沈みそうだった……ぶくぶくぶく…(『百年の孤独』)。
 それはさておき。

 今日は梅田まで繰り出して、「焼賣太楼」でお昼ご飯。「焼賣太楼」は4度目。ホワイティ梅田の店舗にお邪魔するのは3度目だった。

 昨夜は湯豆腐(今頃…)にしたけれど、水菜を中心につまんでいたので朝になったらお腹が空いていて、お昼ご飯が待ち遠しいったら…。梅田駅に着いたらば、だーさんの腕に腕を絡ませて(無理やり)、お店を目指してすたたたたっ♪
 
 …と言いつつ、お店に着いたらまずはやっぱりビール。こちらのお店、風の吹き抜ける地下街にあるのに入口が開けっぱなしなので、相当寒くて、正直ちょっといらっとしたけれど…(寒がりな人にはわかってもらえると思うの…)。とりあえずビール、頼んでしまった。

 コートを肩にかけたまま、ビールを呑む私って…。 
 でもまあ、いろいろと食べているうちにはちゃんと温まるでしょう。 

 今日の焼賣は6個で頼んだので、ちょっと小振り(食べやすかった)。相変わらず美味しいのーう。 
 あっと言う間に空っぽになる。

 焼き餃子も、あっつあつで凄く美味しい。
 と言っても、普通の餃子だけれど。

 さらに、八宝菜。
 これも普通に美味しかった。今にもお皿からこぼれそうで吃驚した。こういうところがいかにも、大衆中華っぽい。 

 ビール一杯を乾してから、どうにも寒いのでだーさんが呑んでいた紹興酒を私もちびちび。
 これでやっと、ほんのり温まった。 

 …が、最後に頼んだ一品で、本当にぽっかぽかになることに…!
 だーさんから「後は何を頼みますか?」と訊かれ、シェアするつもりで「胡麻そば」と答えたら、「じゃあ、胡麻そば二つ!」という答えが返ってきた。え、ふ、二つ? まあ、いっか…。

 じゃじゃーん。はいっ、これが人気メニューの“胡麻そば」”。
 な、なんか、一応一人分なのに多めに見えちゃう。しかもこの胡麻の量、そしてあんかけ…。カ、カロリー計算なんて、絶対にしたくない一杯であるよ。

 でも、肝心なお味の方は美味しい~♪ので、箸はどんどんすすんだ。惜し気もなく振りかけられた胡麻に、もやしと豚肉…という、シンプルな組み合わせ。胡麻パワーは、侮れませんな(そのカロリーもね…)。
 熱々なあんかけ。

 
 お店をあとにしてからは、ちょっと寄りたい雑貨屋さんがあったのでだーさんに付き合ってもらって、それからは別行動。昨日三宮の方で立ち寄ったばかりなのに、堂島のジュンク堂にも足を向けてしまった。 
 
 あ、そう言えば、早川文庫の棚の前で、「おおお、このことか…!」と腰を抜かしそうになったのが、「アンドロイド~」と「高い城の男」の黒い二冊だったわ。「アンドロイド~」は手元にあるけれど、「高い城の男」は実家にあるのかどうかも心許ないので、ちょっぴり複雑な気分。うーん。

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美味しいパスタ♪ 「とまと座」 その4

3月7日、土曜日。晴れのち曇り。 
 ぐんと春めいた陽気を感じたのでマフラーを外して出直したら、久し振りに剥きだしにされた首が、やっぱりすかーっと寒い。今日の毛づくろいの仕上げは、ターコイズの小花ピアスと地球儀型のネックレス。

 あ、さて。
 今日のお昼ご飯は、阪神電車で元町へ。前回お邪魔したのが去年の五月なので久方ぶりとなる、パスタの美味しい「とまと座」に、るるるん♪と足を運んでみた。
 色んなお店が軒を連ねる鯉川筋を少しばかり北上して、ふっと道をそれたところにある。最近ますます人気のお店になってきたようなで、席が空いているかが心配だったけれど…。絶妙なタイミングでテーブル席にありつけたよ。

 テーブルの上には、お馴染みのお品書き。手書きの字に味がある。しかも説明的で長いメニュー名になっているから、そそられることと言ったらもう。むふー。


 だーさんが「今日はワイン」と決めていたので、私も白のグラスワインで合わせてみる。だーさんは赤のデキャンタ。


 セットにすると、こだわりのミルクジャムが添えられた白パンとサラダがつく。私は今日は単品なので、これはだーさんの分。
 ふわんとした甘味のあるパン。 

 時間は午後1時を少し回ったくらいで、実はすっごくお腹が空いていた。何食わぬ顔でのんびり待っているみたいに見せて、本当は全身全霊でパスタが待ち遠しいこのひととき…。 

 はいっ、こちらはだーさんが頼んだパスタ、“ぷりぷり海老とスクランブルエッグと青じその明太子パスタ バター醤油風味”。ぷりぷり海老とスクランブルエッグの組み合わせ、それだけですごく美味しそう…。
 てか、一口味見をもらったら、本当に美味しかった…! こっくりとマイルドなお味に、青じその香りがかなり効いている。やられたーって感じよ。

 そしてこちらは、私が頼んだ“からすみといろんな海の幸(エビ、ヤリイカ、ホタテ、イクラ)の和ーリオオーリオ”。
 ううう、うまし…。“和風オリーブオイルソース”ということだけれど、そのソースに素材の旨味が凝縮されてるのよー。えーん、美味しいよう。

 ひとしきり褒め合った後は、寡黙になってひたすら堪能する二人である…。
 毎回違う種類のパスタをいただいているが、どれを選んでもちゃんと大満足なのだなー。ううむ、嬉しい。 

 これからだんだん、春らしいメニュー内容になるんだろうな…。また行きたいなぁ。


 食後はいつものように、ジュンク堂に寄る。だーさんには先に帰ってもらって、たっぷり時間をかけて二冊購入した。文庫と単行本を一冊ずつで、文庫本の方は以前図書館で借りて読んだ作品。森見さんの新刊が可愛くて思わず「きゃっ♡」…となったけれど、買わなかった。 
 相変わらず読みたい本がたくさんあったので、「いつか読むね…」と背表紙をなぜた。ちょうど今、かつてそんな風にしていた本のうちの一冊を、もうすぐ読み終えてしまうところだ。

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