笙野頼子さん、『幽界森娘異聞』 再読

 文庫化につられての再読です。大好きな佐藤亜紀さんの解説なので。
 『幽界森娘異聞』、笙野頼子を読みました。

 “「お茉莉は上等」だから愛されました。もし下等になったら、それでも森父は愛してくれたでしょうか。泥棒もお茉莉は上等ってそう言う森親父は、「泥棒は悪い、だからお前も悪い、でもお前は私の娘だからたとえ悪くっても」とは言わなかった。上等でなければ娘ではなかった。森娘を上等に保つために、父は娘のしっかり持つべき現実に位置を替えねじ曲げ、目隠しを付けた” 281頁

 幾冊かの森茉莉作品を愛読していたから、かつてこの作品のことを知った時には居ても立ってもいられなくなりました。笙野さんが描くところの森茉莉ですと、読みたい読みたいそりゃ読みたい…なんて。
 でも、森娘=森茉莉ではありませんでした。あくまでも、森茉莉はモデルです。ここにおける森娘の正体は、笙野さんの妄想から生み出されてきた、少々ヘンテコな“おさない”老婦人です。 

 作中、森茉莉作品の引用が随所に散りばめられているのですが、それらを読み進んでいくと、笙野さんと森茉莉とは何と異質な組み合わせだろうか…とその対の妙に打たれます。不協和音は聴こえてこない。ただ、互いが際立たせ合うとでも言いましょうか。笙野さんの筆によって森娘はますます奇妙に魅力的になっていくし、笙野さんの森茉莉への思いもちゃんと伝わってくる作品なのです。

 途中、たとえば栗本薫の『真夜中の天使』にまで話が及ぶ箇所などもあり、ついついにやにや。
 そして佐藤亜紀さんの解説が、読み応え満点でした。この作品への理解を深めてくれて、笙野作品を読むときの指南にもなるような解説でした。
 (2006.12.31)

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