ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/09/12 秀山祭(3)昼の部「荒川の佐吉」仁左衛門×千之助で泣かされる(T-T)

2010-10-07 23:59:29 | 観劇

昼の部の仁左衛門主役の演目は「荒川の佐吉」。2006年6月の歌舞伎座の公演を観ているが、今回は冒頭の写真(今公演の特別ポスターを携帯で撮影したもの)に写っているように、仁左衛門が孫の千之助と共演するのも楽しみだ。
【江戸絵両国八景 荒川の佐吉】作:真山青果
今回の配役は以下の通り。
荒川の佐吉=仁左衛門 相模屋政五郎=吉右衛門
卯之吉=千之助 大工辰五郎=染五郎
鍾馗の仁兵衛=段四郎 仁兵衛娘お八重=孝太郎
丸総女房お新=福助 隅田の清五郎=錦之助    
成川郷右衛門=歌六 極楽徳兵衛=高麗蔵         
白熊の忠助=錦吾 あごの権六=由次郎
             
昼の部観劇の際、筋書き売り場で「○○さんが休演で・・・・」という話が聞こえてきたが聞き取れず、売り場のスタッフさんにお聞きしたら左團次休演で歌六が代役と教えてくれた。今年の猛暑で体調を崩されたのかなぁと心配になり、早く元気な姿を舞台で見せていただきたいと思った。そういえば、2006年の鍾馗の仁兵衛は芦燕(十二代目片岡仁左衛門の三男)だったなぁと思い出した。そういえば出演がこの数年間ない。こうしてどんどん役者の世代交代もすすんでいくのだろうと思ったりする。

今回の鍾馗の仁兵衛は段四郎で、佐吉が親分として仰ぐ侠客という感じがした。しかしながら、今回は立派な大工だった佐吉がどうして侠客になりたいのか、そのあたりが腑に落ちない感じがして気になった。仁左衛門という役者が立派すぎて三下奴の感じがどうもぴったりしないせいだろうか。その親分が仁兵衛といういばってばかりで人間の器が小さい男という違和感を持ってしまった。佐吉が「強いものが勝ち、弱いものは負けるこの世界が好きなんだ」という台詞で、今回の私は納得できないのだ。

その言葉を聞いていた成川郷右衛門が妙に納得し、侍の身分を捨てて仁兵衛を斬ってヤクザに転身するというのも皮肉が効いている。代役の歌六の陰のある黒の着流し姿に存在感がある。仁兵衛の敵討ちをしようとして斬られる清五郎の錦之助もカッコよくて、お八重が思いきれないのも無理がない気がした。
仁兵衛親分の上の娘が産んだ卯之吉が盲だったため、里に引き取らされてきて、それを男手で育てるハメになった佐吉。もともと子ども好きで見捨てられなかったのだが、友達の大工辰五郎の助けも借りながら立派に育てて7年が過ぎる。千之助が目の見えない卯之吉をまっすぐに演じていて可愛い。染五郎の辰五郎も仁左衛門の佐吉もこの子が可愛くて仕方がないという気持ちがストレートに観ている方に届くので、話の設定に無理を感じたところも全てすっ飛んでしまう。染五郎の辰五郎も実にいい。

その間に実母のお新は正妻に直り、嫡子に恵まれない丸総が卯之吉を引き取りたいと言ってくる。大親分の相模屋政五郎(吉右衛門)を間に立てて申し入れてきたり、腕の立つ男たちで力づくで取り返そうとしたりする中で、佐吉は必死になれば力が出ることに気が付く。その勢いと政五郎の立会いで一騎打ちができたため、仁兵衛の敵討ちを果たすことができた。

仁兵衛の縄張りを受け継いでから1年。佐吉が親分として立派になったところに、政五郎がお新をともなってやってきて、再び卯之吉を実の親たちのもとへ返せと説得にくる。吉右衛門の政五郎が大親分の風格で、仁左衛門とのやりとりにぐっと引き付けられる。
勝手な親だとなじられて恥じ入って泣き、寝込んだ夫のためにも卯之吉を連れて帰りたい、それができなければ死も辞さずというお新の福助の泣きの芝居。この女は最初は妾として主人に子どもを捨てさせられ、今度は取り返してこないと立場もなくなるという状況なのだということが思い知らされた。

さらに卯之吉のために、金のある丸総であれば「検校」という盲人が楽に暮らせる位を1000両も積んで手に入れることができるのだから、そういう将来を考えて身を引いてやれと政五郎は説得する。子どものためにどちらがいいのかというのは、このくらいの年の子どもであれば自分で選択させるということにはならない。愛する者の将来を思っての苦渋の決断が泣かせる。

かくして佐吉は自分が身を引き、さらに卯之吉が世に出る妨げにのためにヤクザな自分が近くにいないということを選択する。
桜の中を旅立つ佐吉の仁左衛門を花道で、舞台中央で政五郎の吉右衛門が見送るという実にカッコいい幕切れを迎える。桜は潔く散る。その満開の中で潔く別れを選んだ男の旅立ちは飾られるのだ。やっぱり観劇後は満足させられてしまった。
役者によっていい芝居になるかどうかが決まる作品なのかもしれない。

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2 コメント

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ベストキャスト (スキップ)
2010-10-13 00:23:33
ぴかちゅうさま
>役者によっていい芝居になるかどうかが決まる作品
その通りですね。
私は今回初見でしたので他と比べようがないのですが、ベストキャストだと思いました。特に佐吉は、今のとKろ仁左衛門さん以外に考えられないかしら。
吉右衛門さんの政五郎は、秀山祭に仁左衛門さんが出演してくれたお礼につきあう、といった趣の配役でしたが、さすがに格も大きさも見せてくれましたね。
子役で泣かせるのは「違反やん」といつも思うのですが、わかっていてもやっぱり泣かされますよね~。
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★「地獄ごくらくdiary」のスキップさま (ぴかちゅう)
2010-10-14 01:13:44
URLからスキップさんの記事に飛んで拝読させていただきましたm(_ _)m
>任侠の世界を描くというより、佐吉という男の成長物語......その佐吉役者の良しあしで全てが決まる作品だと今回つくづく思いました。
>最初の三下奴の頃は、いささか貫禄ありすぎの観がなきにしもあらず......同感です(笑)しかし子煩悩ぶりの可愛さでは右に出るものがいないような気がします。目尻が下がってデレデレの雰囲気は孫の千之助相手だと観ている方も勝手にそうだろうそうだろうという気になってしまいますね。
吉右衛門さんの政五郎は「つきあい」で出ているだけで気が入っていないというご意見もあると聞いていますが、あれだけの貫目を見せて対峙してくれればもう十分だと私などは思っています。いくら佐吉が立派になってもその上をいく大親分の政五郎という役柄で後半の芝居を締めて、佐吉が納得させられるというドラマの展開に説得力が増していました。
10月の「加賀鳶」の仁左衛門の松蔵が実によくて、初めて「加賀鳶」が面白いと思えました。仁左衛門と吉右衛門の円熟期のいまを観ておかないといけないと決意を固めています。
東京では真山青果作品の上演が続きます。どうしようかと思っていた国立劇場の「将軍江戸を去る」「天保遊俠録」の二本立ても急遽観ることにしてしまいました(^^ゞ
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