2/11の午後、NHKEテレでの「市川團十郎さんをしのんで」を見た。ゲストの菊五郎さんが映像を見たり、桜井洋子アナや山川静夫さんの話を聞いたりしている時は涙をこらえるような終始つらそうな表情だった。話を向けると飄々とした話しぶりになるのはいかにも菊五郎さんだったのだが・・・・・・。
私も皆さんのお話を聞き、代表的な役々の映像を観ていたら喪失感で泣けてきた。
菊五郎さんが最後の方で「海老蔵くんもしっかりしてきましたし、成田屋の芸を継承していってほしい」というようなことを言っておられ、前半におおっと、と反応してしまった。
1/27にふぶきさんに譲っていただいて観た新春浅草歌舞伎千穐楽第1部で海老蔵が予想外のよい出来だったので感心し、父の病気ということもあり神妙につとめているなぁと思っていたら2/3の父團十郎の訃報。父の病状がかなり悪かったことで相当の覚悟で気を入れていたということが背景にあったのかと思い当たっていたので、訃報以来それも悲しかった。
せっかくなので、その舞台の感想をふりかえって書いておくことにする。
【新春浅草歌舞伎第1部:「お年玉<年始ご挨拶>」】
千穐楽は孝太郎の当番だった。浅草公会堂へは16年ぶりの出演ということで、若手に混じって頑張ると丈のブログの初日の記事にもあった。
「父は有名な人ですが、5歳で私が初舞台となった時に孝太郎と書いてタカタロウとコウタロウのどっちの読みにしたいと聞いたんです。当時、走れコータローが流行っていたのでコウタロウと答えると、孝夫の息子なんだからタカタロウだろうって言うんです。だったら聞かなきゃいいんじゃないかと思うんですが・・・。俵孝太郎、小泉孝太郎という人もいてコウタロウって読まれることも多いのですが、私はタカタロウですので、よろしくお願いします」ということも言っていた。ご本人は緊張してのご挨拶ということだが、なかなかどうして好感度アップのトークだった。
【寿曽我対面】
以下、みどころと配役は「歌舞伎美人」の公演情報より
「江戸歌舞伎では初春に上演することが吉例となっていた曽我兄弟の仇討物語の人気の場面です。様々な役柄が勢揃いする豪華な'歌舞伎絵巻'をご堪能ください。」
工藤祐経=海老蔵 鬼王新左衛門=亀鶴
曽我五郎=松也 曽我十郎=壱太郎
近江小藤太=種之助 八幡三郎=隼人
化粧坂少将=梅丸 大磯の虎=米吉
小林妹舞鶴=新悟
海老蔵の初工藤がとにかく立派でよくて驚いた。猿之助襲名披露公演の「将軍江戸を去る」の高橋伊勢守も抑えめに神妙でよかったっけと思い出す(團十郎の徳川慶喜の存在感の大きさを思い出すとまた涙・・・)。
それとこの立派な五郎は誰だっけとよく見ると松也だった(とにかくアタフタと観にきたのがバレバレだが(^^ゞ)!!壱太郎の十郎も上品で祖父の藤十郎のやわらかみを継承してくれている。大磯の虎の米吉もふんわりした女方ぶりがよい。
こんなに若手が揃ってこの舞台を楽しめるとは思ってもみない嬉しい驚きだった。
松也の五郎の舞台写真が何枚も売り切れになっていて、十郎とのツーショットをしっかりGET。
【極付幡随長兵衛 「公平法問諍」】
「河竹黙阿弥作の『極付幡随長兵衛』は、俠客の元祖といわれる長兵衛のダンディズムが心揺さぶる名作です。敵する水野との息詰まる応酬、妻子を思う切なさ、湯殿での立廻りなど見どころもたっぷりに、町奴と旗本奴の争いをいきいきと舞台に写します。」
幡随院長兵衛=海老蔵 水野十郎左衛門=愛之助
女房お時=孝太郎 唐犬権兵衛=亀鶴
出尻清兵衛=松也 極楽十三=壱太郎
雷重五郎=種之助 神田弥吉=米吉
小仏小平=隼人 坂田公平=市蔵
御台柏の前=新悟 伊予守頼義=吉弥
近藤登之助=右之助
冒頭の劇中劇の「公平法問諍」、市蔵、吉弥の芝居がいいので見応えがあったのが嬉しい。白柄組の乱入に舞台の上があわてふためくのを見るのも楽しい。
海老蔵の幡随院長兵衛も若手の子分を兄貴分として束ねる若々しい侠客としてカッコよかった。孝太郎の女房お時も肝がすわっている侠客の妻らしい。
前の演目で曽我五郎をやっていた松也が三枚目の出尻清兵衛で場を和ませていい出来。大磯の虎だった米吉が子分の神田弥吉。大勢の若手に見せ場がある演目ということで「幡随長兵衛」はいい選択だとつくづく思った。
冒頭に書いた團十郎追悼番組でも「幡随長兵衛」の映像があったが、敵役の水野で組んだ菊五郎が「本当は殺したくないなぁ」と思えるような團十郎の長兵衛だったと言っていた。
愛之助の水野も長兵衛に一目置きながら、意地ずくで殺さざるをえないという芝居になっていたと思う。
團十郎逝去の直後、海老蔵は自分をやんちゃで我が儘でわんぱくなところがあると言い、それを父が太陽のように大きく包み込んでくれていたと話していた。同じような性格になってくれるということはないだろうが、それでももう少し大きな人間になって、荒事を見てああ楽しかったと思えるような役者になってほしい。
平成中村座での「暫」でガッカリさせられたのだが、劇場中に響くような声はよいが台詞に聞こえないとか、変な節回しになるとかを克服すべく、義太夫の稽古をしっかりする努力もしてほしい。追悼番組で住大夫(当時は文字久大夫)に稽古をつけてもらう團十郎の映像を見て、その思いを強くした。
頑張れ、海老蔵!生まれてくるという男の子に恥ずかしくない成田屋になれ!!