ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

10/09/12 秀山祭(4)夜の部「俊寛」吉右衛門×仁左衛門の見事な幕切れ

2010-10-10 14:59:35 | 観劇

夜の部の吉右衛門主役の演目は「俊寛」。2007年1月の歌舞伎座の公演を観ている。今年の2月には歌舞伎座さよなら公演で勘三郎の俊寛も観ている。
今回は初代吉右衛門の型の特徴がわかった。
【平家女護島 俊寛】作:近松門左衛門
今回の配役は以下の通り。
俊寛僧都=吉右衛門 丹左衛門尉基康=仁左衛門
瀬尾太郎兼康=段四郎 平判官康頼=歌昇
丹波少将成経=染五郎 海女千鳥=福助
             
鬼界が島の流人3人が吉右衛門・歌昇・染五郎と揃ってバランスがよい。成経からみて康頼を兄、俊寛を父として力を頼みたいという言葉に無理がない。染五郎の成経が美しい若者ぶりで流刑の島で若い海女と恋に落ちるという可愛さに俊寛が感じ入るのは、自らの若い頃の思い出が胸をよぎるからだろうとイメージ。
それなのに祝言の祝いの舞の所作に足元がふらつき、恥じて笑い出し、笑っているうちに哀しくなって泣き笑いに転じてしまうのは、流刑暮らしで身体も弱りきるような境遇に陥っている惨めさもあるが、若さを失ってしまったという哀しみの気持ちも入り混じった複雑なものだったのではないかと、いろいろと思いを馳せられて胸が詰まる。

その祝いの最中に近づいてくる大きな船を見つけ、赦免船ではないかと期待は高まる。
段四郎の瀬尾は情け容赦も全くない憎々しさ。目をかけた清盛を裏切った俊寛だけがされないという上意を伝え、俊寛を地獄に突き落とす。吉右衛門が大きな身体を折り曲げて嘆き悲しむのを、むしろ楽しんで見ているようだ。まさに鬼のような使者。
いったん地獄に落ちた俊寛を救う仏のような使者が丹左衛門であり、高音域の声を使って仁左衛門が登場。俊寛だけ別格にして苦しめたあとに小松内府重盛卿による恩赦措置を伝えるのだが、重盛も情け深いだけではなく二度と平家を裏切らせないという知略の人としても描かれていることにあらためて思いを馳せる。
千鳥の同道の扱いをめぐって瀬尾が連れていかないとした措置に、丹左衛門が情けのある対応をという意見をするところも、段四郎と仁左衛門とのやりとりも間合いよく実にいい芝居。

千鳥が同道できないなら成経は残るといい、それなら流人3人とも残るとスクラムを組んで頑張るが、瀬尾は家来に無理やり流人だけを船に追い込ませる。その中で瀬尾は俊寛の妻の東屋が清盛に従わず、命を受けて自分が斬ったと俊寛に追い打ちをかける。
千鳥のクドキとなるが、今回の福助は残念な出来。自然の中で育った素朴な若い海女という雰囲気を出そうと気負っている感じで過剰。もっと淡々としている方がいいと思う。この間、幸四郎の俊寛と組んでいる芝雀の千鳥だったらどうだったろうか。

俊寛は東屋がいない京に戻っても甲斐がないと千鳥を替りに乗船させようとするが、瀬尾ともみあいになり、瀬尾の刀を抜いて斬りつける。止めは刺すなと制する丹左衛門に新たに罪を得て流罪になるためと言い張って止めを刺す。妻の敵を討ち、若い恋人たちを救うために身を捨てるという義を通す俊寛の気持ちを受け止める丹左衛門。というように、吉右衛門と仁左衛門の役者が揃って男と男のドラマが大きく立ち上がる感じがする。
この島を離れるのは死ぬ時と「俊寛が乗るは弘誓の船」と言い放つ。皆を船に乗せて出船を見送る時もその雄々しい振る舞うのが実に見栄えのする大柄な吉右衛門。船に乗った一行の中で最後に仁左衛門が身体を開いて右足に重心をかけて吉右衛門に扇をひらいて気迫いっぱいの思い入れを見せる。それを受けた吉右衛門が船に呼びかける「未来で~」(再会しようという意味)の気迫がぶつかった見事さ!!

舞台にとも綱だけが残って足をとられて転び、手にとったその綱が離れていったところから、一転、俊寛の雄々しさが急速に萎えていく。「思い切っても」「凡夫新」の心情の変化が大きい。
「おーい」「おーい」の呼びかけもやがて声が出なくなり、岩場に登って船の姿を追う時には元の足腰のふらつきの上に魂が抜けてしまったような脱力ぶり。蔓草にすがってようやく登り、松の枝にしがみつき、身を伸ばし、魂だけが赦免船を追っていくような呆然自失の態。枝も折れて倒れこみ、身を起こしても視線は船を追う。立派な男らしさから我を忘れるような孤独感に満たされた幕切れ。梅之助や勘三郎の俊寛の笑みの浮かぶ静かな幕切れと明らかに違う吉右衛門の俊寛だった。

終演後、売店に小学館DVD BOOK『初代・二代目中村吉右衛門の芸播磨屋物語』があった。見本に目を通せるようになっていたので、早速「俊寛」のページをチェック。やはり、最後に「呆然自失」の態を見せるのが初代からの型というような説明があった。きちんと秀山祭で初代の芸を継承した上での二代目吉右衛門の俊寛を見せてくれていたのだ。さらに仁左衛門の丹左衛門との共演で実に見応えのある舞台をを堪能。大満足だった。

秀山祭(1)全体概観と舞踊の感想
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