ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

08/09/20 新秋九月大歌舞伎昼の部②「源平布引滝」三幕

2008-10-02 23:40:49 | 観劇

「源平布引滝」は「実盛物語」だけ観ている。
昨年4月に仁左衛門の実盛と実の孫の千之助の太郎吉で観た時の感想はこちら
それ以外は今回が初めてで、こういう通し上演は嬉しい企画だ。特に今回、海老蔵は仁左衛門の指導を受けて木曽義賢と斎藤実盛の二役を演じるということで期待しての観劇。
【源平布引滝(げんぺいぬのびきのたき)】並木千柳・三好松洛の合作
以下、あらすじを公式サイトからほぼ引用して作成。
<義賢最期>
源氏再興を目指す武将木曽義賢(木曽義仲の父)のもとに、百姓九郎助が娘の小万と孫の太郎吉を連れて訪れる。しかし義賢の志は平家方に露見し軍勢が館を取り囲む。義賢は、身重の妻葵御前と源氏の白旗を九郎助たちに託し、壮絶な最期を遂げる。
<竹生島遊覧>
我が身にしっかりと義賢から預かった白旗をつけた小万は道中、九郎助たちとはぐれる。追手を振り切り白旗と共に琵琶湖に飛び込む小万。折から竹生島詣での平家の御座船に乗っていた斎藤実盛が小万を見つけて助け上げる。しかし白旗から源氏方であることが露見。実盛は逃げる小万の腕を白旗ごと切り落とす。
<実盛物語>(昨年の記事に詳しいので省略)
今回の主な配役は以下の通り。
木曽義賢/斎藤実盛=海老蔵
下部折平実は多田蔵人=権十郎
葵御前=松也 待宵姫=梅枝
小万=門之助 九郎助=新蔵
小よし=右之助 太郎吉=(この日は)秋山悠介
平宗盛=友右衛門 瀬尾十郎=市蔵 
進野次郎=男女蔵 塩見忠太=猿弥    

「実盛物語」だけ見ると白旗を握り締めた小万の腕を身体につけると生き返り、渡すべき相手の葵御前に届いたとしるや絶命するというエピソードがとってつけたようだった。今回「義賢最期」から通して見ると、白旗を預けられた経過もよくわかって実にすっきり。
3幕を通して出ているのは後白河院から賜った源氏の白旗とその運び手の小万。小万は実は瀬尾の娘だし多田蔵人の寵を得た女であり、その気丈さが白旗の運び手にふさわしい。通しで見ると小万は実に大きな役で門之助はハマり役だった。

九郎助役が当初予定されていたベテランから新蔵に変わったということを何かで読んだが、立ち回りの場面を見て納得した。太郎吉を後ろにしょったまま、押し寄せる平家方の捕方と実に長い時間の立ち回りをするのだ。その太郎吉もただおぶっているだけでなく背中合わせにしょって太郎吉も捕方をポカポカやるというとても大変な立ち回りを九郎助役はしなくてはならない。それを動ける役者ということで新蔵が抜擢されたのではないかと推測した。
その小万の養父と息子も大活躍なのだ。その息子の太郎吉は義賢と葵御前の間に産まれる駒若丸(後の義仲)の家来となるにふさわしいとなるわけで、この面白さが縦に通って物語を支えている。

葵御前の松也は夫を先立たせながらも木曽源氏の跡継ぎ駒若丸の生母となる毅然とした女を好演。先妻の娘・待宵姫の梅枝は可憐。その待宵姫と恋仲になっているのが権十郎の多田蔵人。この二枚目姿にはちょっと苦笑(^^ゞ

そしてこうした通し上演では、座頭役者がそれぞれの幕の主役の木曽義賢と斎藤実盛の二役をつとめることになるわけだ。海老蔵が通しでの上演にこだわり「竹生島遊覧」などは77年ぶりの上演だという。20分足らずのこの幕を前後に休憩をとってまで入れるということに座頭役者の思い入れの強さを感じる。確かにここをきちんと見せることでこの物語をきちんと把握して深く味わうことができる。たまにはこういう上演もあってこそ、見取りで「義賢最期」だけ「実盛物語」だけという企画の際も全体像の下支えを持って観ることができるというものだ。この演舞場で1月に「鳴神不動北山櫻」を通し狂言として上演した時も然り。海老蔵はこういうこだわりでの企画を続けてくれることだろうと思う。大歓迎である。

さて、源義朝の弟・義賢は平家に従っているふりをして館に引き籠もり、病いということで五十日鬘に病鉢巻という拵えでの登場。ずっと抑えた演技をしているが、謀反の疑いを詮議にきた上司が義朝のしゃれこうべを踏めと挑発して爆発するというメリハリが見せ場。初役ということだが、碇知盛でも試され済みの非業の武将の劇的な最後を見せる役はハマリ役になっていくだろう。
身体能力の高さで立ち回りも戸板倒しも最後の段から仏倒れの幕切れまでしっかりと楽しませてもらった。

海老蔵の「実盛物語」はいいという評判だったが、実によかった。生締姿がよく似合うし、太郎吉への情愛があふれるところもいい。
市蔵の瀬尾十郎は前半の憎憎しい感じが実盛との対照を聞かせていて実にいい。また後半のモドリで小万の母親との不義を語るところでもそういう色模様もあったことに無理がないと思わせ、その上で孫に手柄をたてさせようという情愛が切なくてよかった。市蔵の贔屓度がさらにアップ。
9月の歌舞伎座は御曹司の子役が揃ったが、演舞場は梨園の子役ではない。しかし太郎吉の秋山悠介くんが実に達者で芝居が盛り上がる。実盛がほだされて敵として将来討たれる約束をするのも無理がないと思わせる。実盛が太郎吉と一緒に馬に乗ったところで顔を見合わせるまではしないが、仁左衛門と千之助だからいいのであって海老蔵ではそこまでしないのが順当だろう。

昼の部の「源平布引滝」の三幕上演企画はまずまず楽しめて、夜の部への期待が高まった。そちらもボチボチ書く予定。
9/20昼の部①「枕獅子」