ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

07/06/28 「国盗人」夜の部ポストトーク付き!

2007-07-15 23:59:25 | 観劇

野村萬斎は声と台詞回しが好み。大河ドラマ「花の乱」の細川勝元役で贔屓になった。蜷川幸雄演出の「オイディプス王」は初演・再演とも観ている。シェイクスピア作品ということでは、オールメールキャストで話題になった2003年のジョナサン・ケント演出「ハムレット」を世田谷パブリックシアターで観た。
シェイクスピア作品を狂言の手法で描いた「法螺侍」「まちがいの狂言」は未見。その第3弾が今回の「国盗人-リチャード三世-より」でいよいよ狂言師っぽいところを初めて観ることになる。玲小姐さんとご一緒してポストトーク付きの夜の部を観劇。白石加代子が主要な女性4役をつとめるのも楽しみだった。

配役は以下の通り< >内はシェイクスピアの「リチャード三世」での役名。
白薔薇家<ヨーク家>
一郎=山野史人<エドワード四世:ヨーク家の王>
善二郎=今井朋彦<ジョージ(クラレンス公):王の弟>
悪三郎=野村萬斎<リチャード(グロスター公):王の弟>
王妃=白石加代子<エリザベス:エドワード四世王妃>
王妃の弟=盛隆二  王子(一郎の息子)=荻原もみぢ
王妃の連れ子:福留律子
皇太后(3兄弟の母)=白石加代子<ヨーク公爵夫人>
久秀(悪三郎の腹心)=石田幸雄<バッキンガム公>
右大臣(一郎の忠臣)=大森博史
左大臣(白薔薇の家臣、理智門の義理の父)=今井朋彦
太郎冠者(悪三郎の従者)=月崎晴夫  祐筆=小美濃利明
赤薔薇家<ランカスター家>
政子=白石加代子<マーガレット:先王ヘンリー六世の未亡人>
杏=白石加代子<アン:先王の王子エドワードの未亡人、のちにリチャードの妻>
理智門=今井朋彦<ヘンリー(リッチモンド伯)、のちにヘンリー七世>
他、市長=山野史人、影法師=じゅんじゅん、
すがぽん、坂根泰士、土山紘史、時田光洋、平原テツ、大竹えり、大城ケイ、黒川深雪

「リチャード三世」は蜷川幸雄演出・市村正親主演の初演と再演を観て、松岡和子訳の文庫本も読んでいるので、どうしてもその記憶と重ねながら観てしまう。狂言っぽい演出がけっこうあって設定もずいぶんと翻案されているのにしっかりとシェイクスピアの原作を踏まえているのに嬉しがりながら観ていった。
世田谷パブリックシアター名物の5方向に橋掛かりがある能舞台。そこが木の朽ち落ちて残る大きな柱だけの廃墟のようになっている。蝉しぐれの中に現代の白い洋装の女がひとり白い日傘をさして登場。地面に落ちている狂言面を拾って「夏草や兵どもが夢の跡」とつぶやくと物語の世界に入っていく。続く悪三郎の独白もリチャードの「今や、我らが不満の冬も終わった」ではなく、「今や、我らが不満の夏も終わった」となっている(ここ、ポストトークでもふれられていた)。
コシノジュンコの衣裳はけっこうデザインが面白い。さらに悪三郎はびっこで片方の肩にこぶのある奇形の生まれつきという姿を肩のところに狂言面(冒頭で地面にあった物)をつけている。顔のメイクは目に黒い縁取りを入れた、今の大河ドラマの内野聖陽の山本勘助に似ていると思った。
客席に向かって悪人として生きていく決意を独白した後に、杏が悪三郎に殺された亡夫の亡骸を掲げた従者の行列とともにさしかかる。悪三郎に話しかけられて白石加代子の一役目の杏がしゃべりだして驚く。しぐさももちろんだが、可愛い、ホントに可愛いお声を出されたのだ。一番ご本人のイメージからかけ離れているであろう杏。ここですでに白石マジックの虜となる。その可愛く愚かな杏は、悪三郎の舌先三寸にまるめこまれて、亡夫の敵の妻となることにしてしまう。

萬斎悪三郎は次々と奸計にかけ、兄二人を死に追いやる。兄嫁である王妃(白石の二役目)の一族と兄王の昔からの忠臣の左大臣の確執も利用し、王妃一族も次々と処刑。その支えが腹心の久秀。同じ狂言師の石田幸雄と萬斎のやりとりも息があっていて小気味がいい。
大森博史の右大臣がかなりエキセントリックでいい。幕を使った電車ごっこのような行列の真ん中にいる存在感がすごかった。このノウテンキぶりから処刑される時の絶望感への落差が哀れを誘う。
今井朋彦が開幕早々暗殺される善二郎、慎重な左大臣、後に王となる理智門の3役をこなしているのがいい。淡々とそれぞれの役をやっているが、過不足なしの好演で全体の大きな支えとなっている。

白石の三役目の政子はさすがにハマリ役。呪いの言葉がすごい。蜷川「リチャード三世」の時にこの役が物足りなくてとっても不満に思った時と雲泥の差があった。四役目の皇太后も恐ろしい息子を生んでしまった母親の不幸をにじませていた。しかしこの皇太后からも愛されなかったというコンプレックスが悪三郎にはあるのだ。いつの世も親子という関係は難しくもなる。

政敵の粛清を終え、久秀と謀って、王子が王の種でないというデマを流し、市民たちをも丸め込んで、王位に着いてくれと願わせてしぶしぶと王になることを受諾する。ここで客席を市民に見立てて拍手を促したりして巻き込んでしまう作劇の妙にシェイクスピアの天才をいつも感じてしまう。

王になっての祝宴の一騒ぎぶりにはあっけにとられた。衣裳も派手目のものに着替えて登場、マイクに金色のリボンをビラビラつけてミラーボールが回って、オールキャストで舞台いっぱいに歌って踊る~!!基本のBGMは囃子で作調も田中傳左衛門だったが、この場面はぶっとんでいた。見ているうちに、「あっぱれ萬斎、ここまでやってくれるか」という感じになった。しかしなんと形容すべきか悩んでいたら、玲小姐さんのメーノレで「初めてマツケンサンバを観た時みたい!」というご指摘。ピンポン!!私はTVでしか見ていないが、その通りだ。

ここまでは大悪党ぶりもけっこう愉快だったりするが、二幕に入ると悪三郎が豹変する。王座を手に入れても安心できずに幽閉した王子の暗殺を久秀に匂わせる。あまりのことに久秀が躊躇すると久秀を見限る。自ら王子を殺しにいくところが「リチャード三世」と大きく異なるはずだが、悪三郎の豹変を強調していていいと思った。それを知った久秀も悪三郎を恐れて逃げ出し、大きな力を持った諸侯の支えをなくしてしまう。久秀も捕らえて処刑。孤立した王になっているのというのに、連戦連勝の自信からか自分の軍に兵士が大勢いれば大丈夫とたかをくくっている。

慎重な左大臣は赤薔薇家の血を引く継子のを理智門をいち早く逃がしていた。その理智門が挙兵して迫ってきた。その2つの陣営を舞台の手前に悪三郎、奥に理智門を廃してそれぞれの悪夢と良い夢を描いて見せたのが効果的。
そして白石加代子の4役を続けざまに見せた場面がすごかった。4役はそれぞれに誇張された髪型をしている。その場面で白石本人はひっつめのシンプルな髪型に黒い服装。そこにそれぞれの髪を頭上に載せた黒衣が白石の影となってぴたっとくっつき、それぞれに特徴のある色とりどりの衣裳を着せ掛ける。それでその役になった白石がそれぞれの声色で4人の女になるのだ。これはもう秀逸な見せ場となった。これができるのは今、彼女だけだろう。
せっかく手に入れた王国を「馬をくれればくれてやる」という絶望の台詞の後で、悪三郎は殺される。暗転の後にその面を冒頭の女が置いて去っていっての幕切れ。

今回の演出で印象的なこともちゃんと書いておこう。登場人物が死ぬと、黒衣が狂言面をかぶせるのだ。それが命がなくなったことを象徴的に表していてすごく面白く思えた。文楽の人形が死ぬと本当に魂が抜けたように感じるがそれに近いものがあった。
今回は狂言の衣裳でのシェイクスピアでなく、また新劇人やマイムをやっている人などいろいろな分野の出演者が揃っていたのが魅力的だった。こういうシリーズをぜひこれからも続けていって欲しいと思った。

終演後しばらくの休憩の後で始まったポストトーク。せたがや文化財団の女性職員の方が司会で、脚本を書いた河合祥一郎と主演・演出の野村萬斎によるトークタイム。
「皆さんは今日、夢幻能を観たんですよ」とひとこと。冒頭に夢物語の世界に入り、夢から醒めて終るというのが「夢幻能」の形式なのだそうだ。そして「夏草や~」の台詞を生かすために冬から夏に変更し、蝉の声も響かせたという。なぁるほど。
とにかく今回の現場はいろいろな分野から集まった人でいろいろとアイデアを出し合ってつくりあげてきたのだという。
たとえば黒衣姿のじゅんじゅんの悪三郎の影法師がすごかった。萬斎の一挙手一投足に床に横になって張り付き、影の動きを身体でつけてみせたのだ。これもそういう中から生まれたアイデアだったのだという。
当初の舞台はもっと綺麗だったのに、戦場跡の雰囲気を出すために大道具さんに注文したら、焼け落ちた感じとか弾丸のあととかいろいろ手を加えてくれたのだそうだ。舞台装置の柱も途中で動かして十字架が地面につきささった形に変わっていて、それもそういう中で変えたという。これは本当にすごいと思って見ていたし、横木をはずした「てこ」のアイデアも本当に見事だった。
やはりワークショップ的なことをしながら稽古場で作り上げられていったんだなぁと感慨深かった。
コシノジュンコデザインの白い猪の意匠が入ったてぬぐいで汗をふきながら宣伝も入り、初日に合わせて出版したという河合祥一郎の新訳「リチャード三世」(角川文庫)の宣伝もあった。20分くらいだったと思うが、なかなか充実した話をきけたポストトークであった。そのてぬぐいを客席に投げなかったのは歌舞伎と違う?!(笑)
写真は世田谷パブリックシアターの公式サイトより今公演のチラシ画像。
世田谷パブリックシアターの公演情報
白い猪がリチャードのマークなのだが、関連して見つけた参考になるサイトをご紹介しておきたい。
「白猪亭 真実のリチャードを探して」のシェイクスピアの「リチャード三世」の項