ぴか の観劇(芸術鑑賞)日記

宝塚から始まった観劇人生。ミュージカル、ストレートプレイ、歌舞伎、映画やTVドラマ等も書きます。

06/01/26 歌舞伎座藤十郎襲名公演夜の部③大収穫の「伽羅先代萩」

2006-01-31 20:55:30 | 観劇
歌舞伎座藤十郎襲名披露公演で最も期待していた演目がコレ。一昨年3月歌舞伎座で菊五郎丈が政岡を演じた時に一度観た。「花水橋」から「床下」まで三幕四場を通しての上演で御殿でのまま炊きは省略するバージョンだったのだが、有名な『先代萩』ってまあこんなもんかなあという感じで、正直あまり面白く感じなかった。
今回は「御殿」と「床下」だけだが、上方式の上演でまま炊きがあるというし、幸四郎と吉右衛門の競演ありということで楽しみにしていった。

大収穫!私は関西に8年間住んで水があった人間なので、藤十郎丈のコテコテの政岡がピタ~ッときた。孫の虎之助くんの千松も細面に大きなお目目で可愛いのなんの。その上に少し年上の鶴松くんの鶴千代との競争心が役の上からだけでなく大熱演合戦となっていて、これが噂の子役対決ねと感心してしまった!

まま炊きの場面で「空腹でもひもじくない」とふたりで頑張る姿に、政岡が早くご飯を食べさせようと気がせいて、お茶道具でもガイドブックにあったような茶筅も使わずに手で米を研ぐという芝居があっているように思う。藤十郎のまま炊きの動きは実にリズミカルで見ていて気持ちがよかった。

ご飯が炊ける間、空腹から気をそらせるために息子千松に若殿のお相手をさせる。子雀を入れた籠を軒下に置いて親雀を呼ぶということで生米を舞台に本当に撒くのにはちょっと驚いた。パラパラという音がするのも好ましい。雀の子の歌を歌わせたりするが中断してご飯を炊いている茶釜をふたりの子どもが交互にのぞきにきたりする姿も可愛らしい。

そして2回も千松に毒見をさせる場面が効いている。炊飯のため汲み水から柄杓に汲んだ水をまず1回、炊き上がってお皿に乗せた団子のようなおにぎりの段階でもう1回、息子に先に食べさせてじっと観察。安全を確かめた上で鶴千代に食べさせるのだ。栄御前が鶴千代の見舞いにとやってくるのを迎えなければならなくなると、政岡は息子に「母が常々言い置いたことを忘れまいぞ」と念を押す。
だからこそ若殿が手を出す前に千松が走り出てきて見舞いのお菓子を先にほおばり、膳をけとばして見得を切るところが見せ場になる。虎ちゃん、カッコイイゾ~。
悪の女コンビの栄御前の秀太郎と八汐の梅玉がまたいい。藤十郎のコテコテに対してこちらはサラッと悪い役を演じていて、バランスがまことにいい。千松を成敗する時も八汐がサラッとしかし手元は陰湿に喉をえぐるのでコワイ。そこで鶴千代を別室に隠し、政岡がひとりで千松の最後を見守る今回のやり方が緊迫感を高めるのによかった。沖の井の魁春、松島の扇雀もバランスがいい。藤十郎・扇雀・虎之助三代の共演もかなったわけだ。

栄御前が「取替え子」の噂を勝手に一人合点して悪人たちの連判状を政岡に預けて引っ込むというあたりはとてもご都合だなと笑えるが、まあいいだろう。政岡は周囲の部屋に誰もいないのを確認した上で千松の忠義の死を褒めて嘆く。藤十郎丈、実はその前からもう涙目になっていて目の周りの赤い色がにじんでいてオイオイちょっと早すぎるよという感じだったが、いよいよこの場ではボトボトと涙で衣装を濡らしながら糸にのって愁嘆する。頬も真っ赤になっちゃって...。でもこの濃厚さ、私は気に入った!

この愁嘆場から一挙に最後の八汐への敵討ちの場へも藤十郎丈はスピード感よくノリノリですすんで気持ちがよかった。そこで一匹の差し金についた鼠が登場、連判状をくわえて奪い去ってしまう。

御殿の舞台がせり上がってまさに「床下」になるというこれは素晴らしい場面転換術だと今回も感心する。そこに着ぐるみの鼠を足で踏みつけている荒獅子男之助登場。吉右衛門、初役だというが江戸荒事そのままのいでたちがなんと似合うことだろう。昨年の弁慶よりこっちの方が気に入ったくらいだ。しかしながら男之助、鼠から足をわざわざはずして大刀を抜いて斬りかかるという頓馬なことをするのが笑ってしまう。どうして踏みつけたままでグサっと成敗しないかなあっと今回もまた一人ツッコミを入れてしまう。ぐるぐる回ってから花道のスッポンに走りこむ鼠。
幸四郎の仁木弾正がせり上がってきて、小柄を男之助に投げつけ、それをパシッと受け止めてという辺り、ふたりの気迫あふれる凄い場面。前評判では兄弟ふたりが絡む場面がないかもという指摘もあったが、この短いやりとりだけでも嬉しい競演となった。

最後、面灯りをあてながらの花道の弾正の引っ込み、前回よりもさらに悪の魅力があふれていた。まさに兄弟対決の相乗効果だろう。面灯りで弾正の影が幕に映りそれがだんだん大きくなるということの効果は今回初めて気がついた。これは凄い演出を考えたものだとまたまた感心。
今回「伽羅先代萩」の作品の持つ魅力もあらためてわかった。忘れがたいベストキャストの舞台だった。
追記:一閑堂のぽん太さんの記事がとても共感できたのでご紹介したい。「生理に根差した政岡、上々吉」というタイトルも素敵~。歌右衛門の政岡との比較や上方流のさらい方についての言及もとても参考になった。有難うございますm(_ _)m
ぽん太さんの記事はこちら

写真は、3階に飾ってあった藤十郎襲名記念のてぬぐいとサイン。