「ミツバチのささやき」のビクトル・エリセ監督が、同作から10年を経た1983年に発表した長編監督第2作。イタリアの名優オメロ・アントヌッティを迎え、少女の目を通して暗いスペインの歴史を描いた。1957年、ある秋の日の朝、枕の下に父アグスティンの振り子を見つけた15歳の少女エストレリャは、父がもう帰ってこないことを予感する。そこから少女は父と一緒に過ごした日々を、内戦にとらわれたスペインや、南の街から北の地へと引っ越した家族など過去を回想する。2017年、世界の名作を上映する企画「the アートシアター」の第1弾として、監督自身の監修によるデジタルリマスター版が公開。(映画.comより)
<2024年3月31日 劇場鑑賞>
なんだか難しい映画でしたが、最近見た「アフターサン」のような映画、つまり、わけあっていなくなってしまった父親との思い出を娘が回顧する、そういう映画だったと思います。私たち日本人が知識として知っているような”スペインの内戦”では、現地の人には現地の人にしかわからないような記憶があるのでしょうから、私たちが共感するには限界があるのかもしれません。だから、私は「アフターサン」のように、父親を慕っていた娘が、愛情をこめて彼を思い出すお話として鑑賞しました。
主人公エストレリャのお父さんは、医者として勤務していますが、振り子で水脈を見つけることもできて、その才能は人々に期待されています。また、母は教師でしたが、内戦で職を追われ、今は家でエストレリャに勉強を教えてくれています。かつて父は、政治的信条を巡って祖父と相いれず、南の実家を飛び出して、今住んでいる北の”かもめの家”に移って来たのでした。父はエストレリャには優しかったのですが、いつもどこか影があるような、そんな感じでした。実の父親と仲違いしていたからかもしれません。みんなはそう思っていたのでしょうね。しかし、エストレリャはある時、父がある女性を慕っていることを知ってしまいます。彼女は女優で、今はあまり活動していないようでしたが、かつての彼女の映画がリバイバル上映されたことで、劇場まで出向いた父は彼女を思い出し、手紙も書いたようです。彼が実家を飛び出さなければ、あるいはそのまま付き合っていたかもしれない元カノ。しかし、「今更なんだというのですか」とあしらわれ(そりゃそうだ。10年は経ってるという設定だったと思う)、人生に落胆してしまった父親。
あらすじを書いてしまったらなんてことない感じですが、美しい風景や、極力抑えられたセリフ、洗礼の日に父と踊った思い出など、美しい映像が続くので、よく考えると残酷な話かもしれないのですが、すんなり見れてしまいます。
そして最後は、エストレリャが文字通り「南(エル・スール)へ向かう」ところで映画は終わります。噂では続編を作る予定だったとか。映画は芸術とは言いながら、やっぱり興行収入って、大事なんですね。今となっては幻です。でも、それはそれで美しいかもですね。