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もやもや日記

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『地獄變』

2005年06月18日 | 読書日記ー日本
芥川龍之介 (青空文庫

《あらすじ》

良秀は異常なまでの子煩悩であるとともに、絵に対する執着が人並みでなく、様々な奇行が噂される人物だったが、並ぶもののない絵師として高名でもあった。その良秀に、堀川の大殿様は〈地獄変〉の屏風を描くように命じるがーー。


《この一文》

” 見るとそれは私の足もとにあの猿の良秀が、人間のやうに兩手をついて、黄金の鈴を鳴しながら、何度となく丁寧に頭を下げてゐるのでございました。   ”



うっかり真夜中に真っ暗な中で読んでしまいました。怖い! 怖過ぎます! 眠れなくなるかと思いました。良秀も不気味ですが、大殿様がさりげなく怖い。いつもながら、真相をはっきりとは言わないで、読み手に想像させる方向へ導くやり方がうまいです。そのほうが一層怖いんですねー。色合いも不気味に鮮やかです。良秀の赤い唇、娘の雪のような肌に艶やかな黒髪、燃え盛る炎。それから蛇に髑髏に鎖に猫に似た鳥(ミミズク)と、気味の悪いものがこれでもかと出てきて盛り上がります。はー、怖かった・・・。
しかし物語はただ恐ろしいだけではありません。猿の良秀には泣かされます。一番かわいそうなのは、娘と彼女が可愛がっていた猿の良秀(娘の父親の良秀をからかってその名をつけられた)でありましょう。良秀だって、嫌なやつではありますが、見方によっては単に絵に対して熱心なだけとも言えます。その熱心さが親子の情愛より勝ってしまうというのが、この物語の問題のひとつなのですけれども。最愛のものの犠牲を代償に傑作を得るが、結局は喪失した悲しみに堪えかね命を失うことになる良秀は、結構気の毒に思えます。やはり一番恐ろしいのは大殿様ではないですか。意地悪過ぎます。貴族に翻弄される人々の悲劇。
それにしても、この物語の凄まじいスピード感に感動です。