波風立男氏の生活と意見

老人暮らしのトキドキ絵日記

たのしみは

2011年04月12日 | 日記・エッセイ・コラム
  • たのしみは紙をひろげてとる筆の思ひの外に能くかけし時Photo_2
    たのしみは妻子(めこ)むつまじくうちつどひ頭(かしら)ならべて物をくふ時
    たのしみは朝おきいでゝ昨日まで無(なか)りし花の咲ける見る時
    たのしみはそゞろ讀(よみ)ゆく書(ふみ)の中に我とひとしき人をみし時
    たのしみは錢なくなりてわびをるに人の來(きた)りて錢くれし時
    たのしみは心をおかぬ友どちと笑ひかたりて腹をよるとき
    たのしみは人も訪ひこず事もなく心をいれて書(ふみ)を見る時
    たのしみはつねに好める燒豆腐うまく煮(に)たてゝ食(くは)せけるとき
    たのしみは小豆の飯の冷(ひえ)たるを茶漬(ちやづけ)てふ物になしてくふ時
    たのしみは田づらに行(ゆき)しわらは等が耒(すき)鍬(くは)とりて歸りくる時
    たのしみは衾(ふすま)かづきて物がたりいひをるうちに寝入(ねいり)たるとき
    たのしみはほしかりし物錢ぶくろうちかたぶけてかひえたるとき
    たのしみはいやなる人の來たりしが長くもをらでかへりけるとき

 

 独楽吟の52首から思いつくままに。最後の歌、大いに笑う。

 子と、妻とのつつましい生活、学問への態度、友との交わり…日常の幸せをこんなふうに素敵に表現する凄さ。押しつけない普通の言葉、短い表現で。江戸時代、福井で生まれ56歳の生涯を福井で閉じる。殿様が教えを請いに来たという教養と品性。金品をこんなふうに、感謝と思いやりをあんなふうに…自己をここまで客観化できる知性に感嘆。

 

 私なりに、身辺雑記を読み書きするうち、好悪の基準も何となく。

 まず、等身大の「わたし」の息吹や匂いを大事にする、何より「自由」で気楽で、飾らず卑下自慢せず、体験事実をもとに嘘書かず。読み手に負担をかける固有名詞、特に外来語、借りものの言葉、とりわけ業界用語を使わず済ませたい。

 

 

 あらゆる表現に品性宿る。生きることは表現し続けることだから文品、人品の品定めは避けがたい。しかし、上手い下手はプロの話だ。素人は素人なりに「文は人なり」を忘れず、それを「たのしみ」の修行の一つだと思えばよいのではないか。

           たのしみは百日(ももか)ひねれど成らぬ歌のふとおもしろく出(いで)きぬる時

 

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橘 曙覧(たちばな の あけみ)江戸時代の歌人。本HP掲載の歌は、「独楽吟」(どくらくぎん)より。すべて「たのしみは」で始まる52首の歌から。正岡子規が、源実朝以来の傑出した歌人と高く評し、「清貧の歌人」として文学史上に。クリントン大統領のあいさつで使われた「たのしみは朝おきでて昨日まで無かりし花の咲ける見るとき」は有名

立男の文章基準の参考書、「エッセーの書き方」(日本エッセイストクラブ:岩波書店)一昨年の入院中、やせて体中痛く、身体をぐるぐる回しながら読んだ記憶の本。あの体重を今欲しい。

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