勝海舟の筆跡
羊頭狗肉というか、語りに切れがないというか、岩波文庫にふさわしくない著作である。「幕末明治の体験談、歴史的証言として貴重」と銘打ってはいるが、海舟の語り口は完璧に老人に固有の曖昧模糊としたそれであって、歴史的証言にしてはお粗末極まりない。
編者である巌本善治は、海舟73歳から77歳の間のインタビューだからやむをえないとでもいうのであろうか。「麒麟も老いては駄馬」とでも表現したくもなろうというもの。
もっとも、最近読んだ丸山真男の岩波新書「日本の思想」にしたがうならば、
「人々のふるまい方も交わり方も、封建制度の下では彼が何であるかということから、いわば『自然に流れ出て』きます。武士は武士らしく、町人は町人にふさわしくというのが江戸時代のモラルであります。各人がそれぞれ指定された『分』に安ずることが、社会の秩序維持にとって生命的な要求になっております。」
という時代に生まれ育った幕臣で野心家の海舟が、江戸城引渡という無血革命によってもたらされた新政府による業績本位の時代をどのように要領よく生き抜いたかを語る、ギャグとしての「歴史的証言」なのかもしれない。
羊頭狗肉というか、語りに切れがないというか、岩波文庫にふさわしくない著作である。「幕末明治の体験談、歴史的証言として貴重」と銘打ってはいるが、海舟の語り口は完璧に老人に固有の曖昧模糊としたそれであって、歴史的証言にしてはお粗末極まりない。
編者である巌本善治は、海舟73歳から77歳の間のインタビューだからやむをえないとでもいうのであろうか。「麒麟も老いては駄馬」とでも表現したくもなろうというもの。
もっとも、最近読んだ丸山真男の岩波新書「日本の思想」にしたがうならば、
「人々のふるまい方も交わり方も、封建制度の下では彼が何であるかということから、いわば『自然に流れ出て』きます。武士は武士らしく、町人は町人にふさわしくというのが江戸時代のモラルであります。各人がそれぞれ指定された『分』に安ずることが、社会の秩序維持にとって生命的な要求になっております。」
という時代に生まれ育った幕臣で野心家の海舟が、江戸城引渡という無血革命によってもたらされた新政府による業績本位の時代をどのように要領よく生き抜いたかを語る、ギャグとしての「歴史的証言」なのかもしれない。