旅路(ON A JOURNEY)

風に吹かれて此処彼処。
好奇心の赴く儘、
気の向く儘。
男はやとよ、
何処へ行く。

『帰去来の辞』

2006年12月13日 23時23分33秒 | Weblog

月刊の「文芸春秋」を読んで、久しぶりに誤植を発見した。現在はオフセット印刷だから、活版印刷並みに誤植という言葉がふさわしいのかどうかは解らない。だがしかし、その一文字が誤って印刷されているようだ。

ごくたまに朝日新聞の誤植を見つけるし、よく読まれている民法の教科書で誤植を見つけたこともある。さらにその昔、高校世界史の教科書中に、地図の誤りを見つけたことがある。印刷物のあら捜しを趣味としているわけではないが、こういうのを見つけるとワクワクする。自分でも困った性癖だと思う。

「文芸春秋」2007年1月号264ページ、2段目右から3行目から5行目、『帰去来の辞』の冒頭の一文。「帰んなんいざ、田園まさに蕪れんとす、なんぞ帰らざる。」となっているが、もちろん「帰りなん、いざ、・・・。」が一般的。「帰んなん、いざ、・・・。」は例外的。稀な例外を採用したものなら誤植とはいえない。だから今回は少しばかり弱っている。





              
歸去來兮辭  陶淵明
               
歸去來兮 田園將蕪胡不歸
既自以心爲形役 奚惆悵而獨悲
悟已往之不諫 知來者之可追
實迷途其未遠 覺今是而昨非
舟遙遙以輕 風飄飄而吹衣
問征夫以前路 恨晨光之熹微
乃瞻衡宇 載欣載奔
僮僕歡迎 稚子候門
三逕就荒 松菊猶存
攜幼入室 有酒盈樽
引壺觴以自酌 眄庭柯以怡顏
倚南窗以寄傲 審容膝之易安
園日渉以成趣 門雖設而常關
策扶老以流憩 時矯首而游觀
雲無心以出岫 鳥倦飛而知還
景翳翳以將入 撫孤松而盤桓

歸去來兮 請息交以絶遊
世與我以相遺 復駕言兮焉求
悦親戚之情話 樂琴書以消憂
農人告余以春及 將有事於西疇
或命巾車 或棹孤舟
既窈窕以尋壑 亦崎嶇而經丘
木欣欣以向榮 泉涓涓而始流
羨萬物之得時 感吾生之行休

已矣乎 寓形宇内復幾時
曷不委心任去留 胡爲遑遑欲何之
富貴非吾願 帝郷不可期
懷良辰以孤往 或植杖而耘
登東皋以舒嘯 臨清流而賦詩
聊乘化以歸盡 樂夫天命復奚疑


歸去來の辭

歸去來兮(かへりなん いざ)  田園 將(まさ)に蕪(あ)れなんとす  胡(なん)ぞ 歸らざる
既に自ら  心を以て 形の役(えき)と爲し  奚(なん)ぞ 惆悵して  獨り悲しむ
已往の 諫めざるを  悟り  來者の 追ふ可きを  知る
實に 途(みち)に迷ふこと  其れ 未だ遠からずして  覺る 今は是(ぜ)にして 昨は非なるを
舟は 遙遙として  以て 輕し,風は 飄飄として 衣を吹く
問ふに 征夫の 前路を以ってし  恨む 晨光の熹微なるを
乃(すなは)ち 衡宇を 瞻(あふぎ)み  載(すなは)ち 欣び  載(すなは)ち 奔(はし)る
僮僕 歡び迎へ  稚子 門に候(ま)つ
三逕は 荒に就(つ)くも  松菊は  猶ほも 存す
幼を攜へ 室に入れば  酒 有りて  樽に盈(み)つ
壺觴を引きて 以て 自ら酌し  庭柯を眄(なが)めて 以て 顏を怡(よろこば)す
南窗に倚りて  以て 傲を寄せ  膝を容るるの安んじ易きを 審らかにす
園は 日ゞに渉って 以て 趣を成し  門は 設くと雖も  常に關(とざ)す
扶老(つゑ)を 策(つゑつ)き 以て 流憩し  時に 首を矯げて 游觀す
雲 無心にして  以て 岫(しう)を出で  鳥 飛ぶに倦(う)みて  還(かへ)るを知る
景 翳翳として 以て 將(まさ)に入らんとし  孤松を撫でて 盤桓とす


歸去來兮(かへりなん いざ)  交りを息(や)め 以て 遊びを絶たんことを  請ふ
世 我と 以て 相ひ遺(わす)れ  復(ま)た 駕して 言(ここ)に 焉(いづく)にか求めん
親戚の情話を 悦び 琴書を 樂しみ  以て 憂ひを消す
農人 余に告ぐるに  春の及べるを 以てし  將(まさ)に 西疇に 於いて 事 有らんとす
或は 巾車に命じ,  或は 孤舟に棹さす
既に 窈窕として 以て 壑(たに)を尋ね  亦た 崎嶇として 丘を經(ふ)
木は 欣欣として 以て 榮に向かひ  泉は 涓涓として 始めて流る
萬物の 時を得たるを  羨み  吾が生の 行くゆく 休するを  感ず


已矣乎(やんぬるかな)  形を 宇内(うだい)に寓すること  復(ま)た幾時ぞ
曷(なん)ぞ 心を委ねて  去留を 任せざる  胡爲(なんす)れぞ 遑遑として 何(いづく)にか 之(ゆ)かんと 欲す
富貴は  吾が願ひに 非ず  帝郷は  期す 可(べ)からず
良辰を 懷ひて  以て 孤り往き  或は 杖を植(た)てて  耘す
東皋に 登り  以て 舒(おもむろ)に嘯き  清流に 臨みて  詩を賦す
聊(ねが)はくは 化に乘じて  以て 盡くるに歸し  夫(か)の天命を 樂しめば  復(ま)た奚(なに)をか 疑はん