外なる気圏と内なる気圏
みずからをメディアとして
ふたつが交わる気圏を生きている
(外部観察と内部観察の合流地点)
ふたつの気圏は合流し、せめぎあい、溶けあい
ひとが生きる気象をつくり、変幻する
晴天、曇天、雨、雪、みぞれ、木枯らし、ストーム
変幻する気圧、熱く冷たく、光、影、風にさらされ
ゆらぎ、おびえ、ふるえ、勇み立ち
気象はそのつど泡立ち遷移していく
この気圏の外に出ることはできない
先回りしてストップをかけるように
いつも穏やかに心を保つことはできない
しかしこの気圏を生きながら
全いとなみが同期しているわけではない
どんなに荒れ狂うストームに襲われても
心の奥に開かれたバックステージがあって
すべての経験が刻まれていく作業場がある
おそらくひとだけがもつ特別な作業場があって
ここにひとりひとり、固有の時間が流れている
かつて-いま-これから
デジタルな時間指定とは異なる時間進行
変幻する気象と切り離された秘密の場所に
ひとりひとりの物語を編み上げるように
すべてをモニターしてメモリに刻んでいる記録係がいる
*
記録係はバックステージにいる
カーソルが届かないデスクトップの裏部屋
オペレーションの全貌は見えない
見えないが絶えることなく作業を継続している
生きられう全時間、全航跡を走査してトレースする
この作業はループしながらそのつど再編集されていく
俺たちはこの作業の成果を「記憶」と呼んでいる
望んでも望まなくても、頼んだわけでもなく
日々、刻々、作業は厳格に継続されている
作業の目的は何なのか──
明示的メッセージはどこにも表示されない
しかし記録係のいとなみの全体が告げている
一つの意志の所在を証するように
作業メッセージは全域に溶けている
記録だけなら機械に任せればいい
刻まれたメモリのページをめくる
ただページをめくる以上のこと
記録係の無言のメッセージが告げる
生きられた全時間、全航跡 全波形
出会ったすべての思考、感情、事象、関係パターン
メモリの全項を資源化する連結点がある
この地点に立って新たな「ありうる」を立ち上げ
気圏を拡張するようにして生き抜け