Ⅰ
かたちを定められないあこがれに
くちびるを重ねたいと
世界を遠くに置いて
こころが
まなざしを凝らしたとき
ここはどこよりも遠く
孤独は蜜の味がした
Ⅱ
悲しみを埋めた辺境に
ただ酷薄な時間だけが
過ぎていくように思われたとき
永遠の過去と
永遠の未来を貫いて
何かがそこになければならない
激しい渇仰に身を焦がしながら
こころは静かに
秘蹟を待ちうけていた
Ⅲ
ソレは 甘美なめまいとしてはじまり
こころを締めつけるざわめきとして
存在を揺るがし
繊細で過激な律動を引き連れ
視覚の彼岸に壮麗な風景を開いた
ソレは 言葉の網をすり抜けていく 不思議な誘引であり
ソレは 太古から永遠を貫く 希望の装置であるかもしれず
こころがもういちど受肉し
なんどでも乳を吸いはじめる
はじまりのはじまりであるかもしれなかった
Ⅳ
ソレは 聞かれないかぎり 奏でられない音楽であり
ソレは 聞くことから最も遠い 無音の旋律であり
ソレは 見ることを放棄したとき あらわれる視覚であり
ソレは 指に触れたとき 溶解する雪片であり
ソレは 言葉が触知したとき 消え去る言葉であり
ソレは エロスが追いつけない 愉悦の呪いであり
ソレは いちばん柔らかい部分をめがけ こころを襲い
ソレは 世界のかたちを喪失させる 酷薄ないざないであり
ソレは 訪れとしてだけ受け入れられる 奇蹟であり
ソレは こころが遡行できない非在であり
ソレは 告知することが不可能な陶酔であり
ソレは コスモスの王位をもつものかもしれず
ソレは なによりも鮮明な実在を刻む非在であり
ソレは 悪魔と天使が棲息する 無情の王国かもしれなかった
Ⅴ
ソレを語ることが
じぶんをかえることであり
だれかに告知し称揚することが
見慣れた世界と訣別することであり
ソレに触れていることが
新たな存在の階梯を開くと信じられたとき
最初にソレについて語ったニンゲンや
そのように信じられたニンゲンの手になるものを
畏怖の最高の形式において
神々の位置にまで高めてしまったのか
Ⅵ
ひとたびソレとの出会いが存在を呑み尽くし
信仰の高みにまで変質したとき
それについてうまく語った者に威光を授け
語られた言葉以上に
言葉に感染する者たちを生み出し
ただじぶんに訪れたソレがソレであると信じるために
震えるようなカタルシスとともに
いまだソレを知らない世界の人びとを
嘲笑し侮蔑することになったのか
Ⅶ
それともこころは
非情のまなざしを磨いて
ここに滅びることを受けいれ
じぶんだけに許された
じぶんだけの言葉を求めたのか
あるいはソレが立ち現われる根拠へと分け入り
瀆神の名において
みずからの足音を響かせようと願ったのか
Ⅷ
ソレは こころのスペクトルにしたがって
さまざまに分岐し
あるいは異端を宣告され廃棄され
あるいは最強の美となって玉座にすえられ
あるいは日常に追い越されて
あるいは忘却の淵に埋まり
あるいは何度もよみがえり
あるいは遠いノスタルジーに混ぜ合わされた
Ⅸ
呪縛とも祝福とも
だれも答えられない問いにおいて
こころは世界を背負い
みずからの生命を背負い
生涯にわたって
未知の気圏を背負っていた
Ⅹ
目にみえる世界と
その背景をつくる未踏の領域のすべてを含んで
画然と分けられた
〈ソレ〉と〈ソレでないもの〉があると信じられたとき
煉獄の風景として
世界は開かれていくように思われた
かたちを定められないあこがれに
くちびるを重ねたいと
世界を遠くに置いて
こころが
まなざしを凝らしたとき
ここはどこよりも遠く
孤独は蜜の味がした
Ⅱ
悲しみを埋めた辺境に
ただ酷薄な時間だけが
過ぎていくように思われたとき
永遠の過去と
永遠の未来を貫いて
何かがそこになければならない
激しい渇仰に身を焦がしながら
こころは静かに
秘蹟を待ちうけていた
Ⅲ
ソレは 甘美なめまいとしてはじまり
こころを締めつけるざわめきとして
存在を揺るがし
繊細で過激な律動を引き連れ
視覚の彼岸に壮麗な風景を開いた
ソレは 言葉の網をすり抜けていく 不思議な誘引であり
ソレは 太古から永遠を貫く 希望の装置であるかもしれず
こころがもういちど受肉し
なんどでも乳を吸いはじめる
はじまりのはじまりであるかもしれなかった
Ⅳ
ソレは 聞かれないかぎり 奏でられない音楽であり
ソレは 聞くことから最も遠い 無音の旋律であり
ソレは 見ることを放棄したとき あらわれる視覚であり
ソレは 指に触れたとき 溶解する雪片であり
ソレは 言葉が触知したとき 消え去る言葉であり
ソレは エロスが追いつけない 愉悦の呪いであり
ソレは いちばん柔らかい部分をめがけ こころを襲い
ソレは 世界のかたちを喪失させる 酷薄ないざないであり
ソレは 訪れとしてだけ受け入れられる 奇蹟であり
ソレは こころが遡行できない非在であり
ソレは 告知することが不可能な陶酔であり
ソレは コスモスの王位をもつものかもしれず
ソレは なによりも鮮明な実在を刻む非在であり
ソレは 悪魔と天使が棲息する 無情の王国かもしれなかった
Ⅴ
ソレを語ることが
じぶんをかえることであり
だれかに告知し称揚することが
見慣れた世界と訣別することであり
ソレに触れていることが
新たな存在の階梯を開くと信じられたとき
最初にソレについて語ったニンゲンや
そのように信じられたニンゲンの手になるものを
畏怖の最高の形式において
神々の位置にまで高めてしまったのか
Ⅵ
ひとたびソレとの出会いが存在を呑み尽くし
信仰の高みにまで変質したとき
それについてうまく語った者に威光を授け
語られた言葉以上に
言葉に感染する者たちを生み出し
ただじぶんに訪れたソレがソレであると信じるために
震えるようなカタルシスとともに
いまだソレを知らない世界の人びとを
嘲笑し侮蔑することになったのか
Ⅶ
それともこころは
非情のまなざしを磨いて
ここに滅びることを受けいれ
じぶんだけに許された
じぶんだけの言葉を求めたのか
あるいはソレが立ち現われる根拠へと分け入り
瀆神の名において
みずからの足音を響かせようと願ったのか
Ⅷ
ソレは こころのスペクトルにしたがって
さまざまに分岐し
あるいは異端を宣告され廃棄され
あるいは最強の美となって玉座にすえられ
あるいは日常に追い越されて
あるいは忘却の淵に埋まり
あるいは何度もよみがえり
あるいは遠いノスタルジーに混ぜ合わされた
Ⅸ
呪縛とも祝福とも
だれも答えられない問いにおいて
こころは世界を背負い
みずからの生命を背負い
生涯にわたって
未知の気圏を背負っていた
Ⅹ
目にみえる世界と
その背景をつくる未踏の領域のすべてを含んで
画然と分けられた
〈ソレ〉と〈ソレでないもの〉があると信じられたとき
煉獄の風景として
世界は開かれていくように思われた