(渡辺京二『維新の夢』「岡倉天心とアジア主義」より)
(ヨーロッパ文明の諸体系の受容について)
「われわれが西洋の生活および文化の方法を大々的に採用したのは、全然好みからではなく必要に迫られたからである。『現代化』という言葉は世界のヨーロッパ化を意味する。
アジアの地図は現代精神が投じた資本主義、商業主義、帝国主義の呪文に屈した文明の陰惨な運命を描き出している。ジャガノートの轍に軋きつぶされたければ別だが、そうでなければそれに乗ることはほとんど命令的のように思われる」。彼は日本がジャガノートに乗ったことを意識していた。この自覚は哀切である。
「われわれの祖先の理想は日に日に色あせていく。廉潔のかわりに業績が重んじられ、人格のかわりに才気がとうとばれる」……
アジア主義という逆倒した政治理念にまで昂進せざるをえなかったのは、当時の政治的環境の構図に包摂されるかぎり必然ともいうべきみちすじであった。